不動産鑑定士を志して勉強していた頃、私が一番衝撃を受けた文章があります。
田原拓治先生の鑑定コラム「還元利回りの求め方」をはじめとする、還元利回り・期待利回りについて書かれた一連の文章です。
収益還元法を勉強すると、必ず「還元利回り」という数字にぶつかります。
4.0%なのか、4.1%なのか。
鑑定評価書では、投資市場の動向、金融情勢、立地条件、築年数、流動性、将来の不確実性などを考慮して還元利回りを査定します。
もちろん、最終的には不動産鑑定士の判断が必要です。
しかし、田原先生の文章を読んだとき、私はそれまでと違う問いを突きつけられたように感じました。
その0.1%は、どこから出てきたのか。
そして、
なぜ4.0%であって、3.9%でも4.1%でもないのか。
という問いです。
還元利回りを「与えられる数字」にしない
田原先生のコラムで最初に驚いたのは、還元利回りの求め方そのものです。
田原先生は、国債利回りにリスクプレミアムなどを加えて還元利回りを求める方法について、その各割合を実証できないのであれば慎重であるべきだ、という強い問題意識を示しています。
そして、還元利回りを外から持ってくるのではなく、不動産そのものを構成する価格や賃料などから求めようとします。
まず、
粗利回り = 年間賃料総収入 ÷ 土地建物価格
という関係があります。
しかし、現実の不動産はこれだけではありません。
賃料収入には、共益費、保証金等の運用・償却、空室、建物の経年による賃料低下、賃貸可能面積などが影響します。
価格についても、土地価格だけでなく、建物工事費、容積率、建物の経年による減価があります。
そこで田原先生は、これらを分解し、標準粗利回りを次のような算式で表します。
標準粗利回り
=
㎡当り賃料 × 12 × 共益費修正率 × 運用償却額修正率 × 空室率修正率 × 経年賃料修正率 × 容積率 × 賃貸面積率
÷
(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率 × 償却修正率)
そして、ここから必要諸経費を控除して、
還元利回り = 標準粗利回り ×(1-必要諸経費率)
とします。
田原先生のコラムでは、例えば、
土地単価 200,000円/㎡
建物工事単価 180,000円/㎡
建物価格 135,000円/㎡
償却修正率 0.75
支払賃料 2,000円/㎡・月
共益費修正率 1.05
運用償却額修正率 1.01
空室率修正率 0.95
経年賃料修正率 1.0
容積率 2.0
賃貸面積率 0.8
必要諸経費率 0.35
という条件を置き、
標準粗利回り=0.0823
を求め、さらに、
0.0823 ×(1-0.35)=0.053
として、還元利回りを**5.3%**と求めています。
私が衝撃を受けたのは、「5.3%」という結果そのものではありません。
5.3%という数字を、賃料、土地価格、建築費、空室、経年、レンタブル比、必要諸経費といった、一つ一つ説明可能な数字へ分解していく発想です。
還元利回りを「この地域ではだいたい5%程度」と置くのではない。
5%という数字がどこから来たのかを、可能な限り遡っていく。
この考え方は、鑑定士を志していた私にとって非常に大きな衝撃でした。
期待利回りと還元利回りは「表と裏」
田原先生は、期待利回りと還元利回りについて、非常に分かりやすい表現をしています。
「貨幣でいえば表と裏の関係」
です。
期待利回りは、
基礎価格(土地建物価格)×期待利回り=純賃料
という関係です。
一方、還元利回りは、
純賃料÷還元利回り=土地建物価格
ですから、
還元利回り=純賃料÷土地建物価格
となります。
田原先生は、期待利回りについて、貸主が「これくらい欲しい」と期待する意味での利回りではないと説明しています。
土地価格、地域で形成されている賃料、建物の築年数などの個別性、契約内容などによって形成されるものであり、各不動産ごとに異なる。
そして、期待利回りを最初から直接決めるのではなく、まず価格と賃料から還元利回りを求め、それを期待利回りとして考える。
この考え方も、私には非常に印象的でした。
つまり、利回りを先に決めて価格や賃料を求めるだけではなく、価格と賃料から利回りを逆方向に検証するわけです。
一方向ではなく、反対方向からも数字を見る。
私は、この姿勢こそ鑑定評価では重要なのではないかと思っています。
土地と建物の還元利回りは同じなのか
さらに興味深かったのが、総合還元利回り、土地還元利回り、建物還元利回りについての田原先生の考え方です。
土地と建物を合わせた複合不動産の総合還元利回りが3.0%であったとして、
土地も3.0%、建物も3.0%なのか。
田原先生は、そうではないと考えます。
土地と建物では性質が違います。
土地は通常、経年そのものによって物理的に消滅するものではありません。
一方、建物には経済的耐用年数があり、いずれ建替え、すなわち再取得する必要があります。
そこで田原先生は、建物については、将来再取得するための資金を積み立てていく必要があると考え、その要素を償還基金率によって説明します。
考え方を単純化すると、
土地還元利回り=X
とすれば、
建物還元利回り=X+償還基金率相当
とします。
そして総合還元利回りについて、
(土地価格×土地還元利回り+建物価格×建物還元利回り)
÷(土地価格+建物価格)
=総合還元利回り
という関係を使います。
これは、土地と建物それぞれの還元利回りを、その価格構成割合によって加重平均する考え方です。
総合3.0%から、土地2.2%、建物3.7%へ
田原先生は、京都右京区の例を使って具体的に計算しています。
土地価格 52,650,000円
建物価格 53,280,000円
土地建物価格 105,930,000円
総合還元利回り 3.0%
とします。
建物の経済的耐用年数を40年と考え、その考え方から償還基金率相当を1.5%とします。
土地還元利回りをXとすると、
52,650,000×X
+53,280,000×(X+0.015)
を、
105,930,000
で除したものが、総合還元利回り3.0%になります。
この方程式を解くと、
土地還元利回り 2.2%
となります。
そして、
建物還元利回り
=2.2%+1.5%
=3.7%
となります。
したがって、
総合還元利回り 3.0%
土地還元利回り 2.2%
建物還元利回り 3.7%
という関係になります。
田原先生は、土地還元利回りと建物還元利回りを、それぞれ何の関係もなく単独で決めるのではなく、総合還元利回りから派生させ、三つの利回りを一つの体系として結び付けようとしています。
私は、この考え方にも非常に惹かれました。
「0.1%」には必ず何かがある
もちろん、田原先生の算式や考え方を、そのまま現在のすべての鑑定評価に適用すればよい、ということではないと思っています。
対象不動産は一つ一つ違います。
市場データも完全ではありません。
統計的に十分なデータを得られないこともあります。
市場参加者自身が、数学的なモデルによって投資判断をしているとは限りません。
最後には、不動産鑑定士の判断が必要です。
しかし、それでも私は、田原先生の文章から一つの大切なことを学びました。
数字を決めた以上、その数字には理由が必要だということです。
例えば、還元利回りを4.0%と査定したとします。
3.9%ではない。
4.1%でもない。
その0.1%を説明できるだろうか。
収益価格を
V=a/R
と表せば、Vは収益価格、aは純収益、Rは還元利回りです。
Rが変化すれば、当然Vも変化します。
さらに数学的にみれば、
dV/dR=-a/R²
です。
つまり還元利回りのわずかな変化でも、価格への影響は一定ではありません。
利回りの水準によって、その0.1%が価格に与える影響も変わります。
だから、私にとって0.1%は単なる丸めの問題ではありません。
統計的でも、算術的でも、派生的でもいい
私は、還元利回りの0.1%について、必ずしも一つの方法だけで説明する必要はないと思っています。
十分な取引データがあるのであれば、統計的に説明する。
類似する収益不動産の取引価格と純収益が分かるのであれば、そこから還元利回りを算術的に求める。
土地価格、建築費、賃料、空室率、必要諸経費率などが分かるのであれば、それらの関係から利回りを組み立てる。
一つの数字から直接説明できないのであれば、複数の数字の関係から派生的に説明する。
私が以前扱っていたデリバティブも、その価値が何もないところから突然決まるものではありません。
基礎となる価格、金利、期間、ボラティリティその他の要素があり、それらの関係から価値が派生します。
もちろん、不動産とデリバティブは全く同じものではありません。
しかし私は、不動産の利回りについても、
「この4.0%という数字は、何から派生してきたのか」
と考えたいと思っています。
土地価格から説明できないか。
賃料から説明できないか。
取引利回りの分布から説明できないか。
築年数による差から説明できないか。
空室率から説明できないか。
必要諸経費率から説明できないか。
土地と建物に分解したら説明できないか。
時系列で見たら説明できないか。
統計的に説明できないか。
算術的に説明できないか。
それでも説明できなければ、どこまでが市場データで、どこからが鑑定士の判断なのかを明らかにする。
そこまで考えたうえで、初めて「4.0%」という数字を置きたいと思っています。
0.1%を説明できる鑑定士でありたい
田原先生のコラムを初めて読んだとき、私が受けた一番大きな衝撃は、還元利回りの算式そのものではなかったのかもしれません。
「その数字は、なぜその数字なのか。」
という問いを、最後まで諦めない姿勢だったのだと思います。
不動産鑑定では、最後に一つの数字を決めます。
土地価格を決める。
賃料を決める。
還元利回りを決める。
期待利回りを決める。
割引率を決める。
そして、その数字によって鑑定評価額が変わります。
だから私は、「総合的に勘案した結果、4.0%と判断した」で終わりたくありません。
その0.1%について、
統計的な理由でもいい。
算術的な理由でもいい。
市場データとの比較でもいい。
土地と建物への分解でもいい。
デリバティブのように、別の観察可能な数字から派生させた理由でもいい。
完全な答えにたどり着けなくても、0.1%の根拠を一つでも多く説明しようとする鑑定士でありたい。
田原先生の文章を読んでから、その思いはずっと変わりません。
「なぜ、この0.1%なのか。」
その問いを自分自身に繰り返しながら、数字の根拠を最後まで考え続ける。
私は、そんな不動産鑑定士でありたいと思っています。
あおぎり不動産鑑定
出典・参考
田原拓治先生「田原都市鑑定 鑑定コラム」
「還元利回りの求め方」
「還元利回り、期待利回りの求め方」
「土地還元利回りと建物還元利回り」ほか
― 高額な不動産だからこそ、丁寧に、でもできるだけ簡便に ―
不動産鑑定評価をご依頼いただくお客様は、個人の方から法人までさまざまです。
複数の賃貸アパート・マンションを所有されている大家様、事業用不動産を保有する会社経営者様、学校法人・医療法人・一般事業会社などの法人様、さらには大企業様からご相談をいただくこともあります。
対象となる不動産の価格も、数千万円から数億円、ときにはそれ以上になることがあります。
そのため、不動産鑑定評価は、単に「不動産鑑定士が現地を見て価格を出せば終わり」というものではありません。
何のために鑑定評価を行うのか。
誰がその鑑定評価書や鑑定評価額を利用するのか。
どのような前提・条件で評価するのか。
こうした事項を、評価を開始する前に依頼者様と確認しておくことが重要です。
一方で、不動産鑑定評価をご依頼いただく方の多くは、会社経営、不動産管理、法人の業務など、日々さまざまなお仕事を抱えていらっしゃいます。
株式会社あおぎり不動産鑑定では、法令や不動産鑑定評価に関するルールを遵守することは当然として、できる限り依頼者様の大切なお時間やお手間を使わず、E-mail、電話、Zoom等のIT技術を活用しながら、円滑に鑑定評価業務を進めることを心がけています。
まず確認するのは「何のための鑑定評価か」
鑑定評価のご相談をいただいた後、最初に確認するのが「依頼目的」です。
例えば、「不動産を売却する際の参考にしたい」「相続や遺産分割のために適正な価格を把握したい」「会社と役員との間で不動産を売買するため価格を確認したい」「金融機関への説明資料として利用したい」「保有不動産の適正な価値を確認したい」など、鑑定評価を必要とする理由はさまざまです。
同じ不動産であっても、鑑定評価書の利用目的や利用者によって、確認すべき内容が異なる場合があります。
そのため弊社では、まず、
・何のための鑑定評価なのか
・鑑定評価書や鑑定評価額を誰が利用するのか
・第三者へ提出・開示する予定があるのか
・どのような条件のもとで鑑定評価を行うのか
といった事項を確認します。
「業務の目的と範囲等の確定に係る確認書」とは
名称だけを見ると、少し難しく感じられるかもしれません。
簡単にいえば、
「今回の鑑定評価は、この目的、この範囲、この条件で行います」
ということを、依頼者様と不動産鑑定士との間で事前に確認するための書類です。
例えば、鑑定評価の依頼目的、依頼の背景、鑑定評価書や鑑定評価額の利用者、評価する土地・建物の範囲、価格時点、現地調査の範囲、土壌汚染その他の価格形成要因に関する調査範囲、鑑定評価書の交付予定日などを確認します。
これは単なる形式的な書類ではありません。
鑑定評価を行うにあたって、依頼者様と不動産鑑定士との認識にずれがないようにし、どのような目的で、どのような条件のもとで価格を判断するのかを明確にする大切な工程です。
正式な依頼契約を取り交わします
業務内容や条件が整理できましたら、報酬、納期その他の契約条件を確認し、正式な依頼契約を進めます。
弊社では「価格等調査業務依頼書兼承諾書」等により、鑑定評価業務の内容、報酬、納期等をご確認いただきます。
法人様の場合には、実際の不動産担当者様と契約書にご署名・ご押印される方が異なることも珍しくありません。
例えば、不動産担当者様が日常的な連絡窓口となり、契約書への押印は代表者様や法人本部が行う、といったケースです。
また、不動産会社や仲介会社のご担当者様を通じて鑑定評価をご依頼いただく場合もあります。
この場合には、その方が依頼者様を代理して鑑定評価の条件等を決定できる立場なのか、あるいは単なる連絡・調整窓口なのかを確認します。
代理権がない場合でも、手続が複雑になるわけではありません。
例えば、仲介会社様から弊社の確認事項を依頼者様へお伝えいただき、その回答をE-mailでいただく方法や、必要に応じて弊社から依頼者様のご担当者へ直接お電話、E-mail、Zoom等で確認させていただく方法もあります。
必ずしも、依頼者様と何度も対面で打合せをしなければならないということではありません。
できる限りオンラインで、必要な確認はしっかり行う
不動産鑑定評価というと、「契約のために何度も打合せが必要なのではないか」「鑑定士の事務所まで行かなければならないのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
株式会社あおぎり不動産鑑定では、内容に応じて、E-mail、電話、Zoom等のオンライン会議、PDFによる書類確認などを積極的に活用しています。
もちろん、不動産の現況を確認するための現地調査は、原則として現地で行います。
しかし、それ以外の契約内容の確認、資料のやり取り、スケジュール調整、質問事項への回答等については、対面でなくても十分対応できることが多くあります。
県外の法人様や、多忙な会社経営者様、大家様、不動産会社様などにとって、何度も移動していただく必要がなくなることは大きなメリットです。
弊社では、法令上・鑑定評価上必要な確認は確実に行いながら、対面である必要のない手続については、できる限り簡便に進めることを大切にしています。
契約後は、現地調査に向けて必要資料を確認します
契約内容が確定しましたら、現地調査や鑑定評価に必要となる資料を整理します。
ただし弊社では、必要な資料を何でも依頼者様に取得していただく、という考え方はしていません。
登記事項証明書、公図、建築確認関係資料、行政上の規制など、弊社側で取得・調査できる資料については、可能な限り弊社で調査します。
一方で、所有者様や運営者様でなければ分からない事項については、ご協力をお願いすることがあります。
例えば、施設の実際の利用状況、賃料や利用料等の収入の有無、運営収支、過去の大規模修繕、今後予定している設備更新、第三者との賃貸借・使用貸借等の契約関係などです。
資料がお手元にない場合には、無理に新しい資料を作成していただくのではなく、「資料なし」「概ねこの程度」とご回答いただくだけで足りる場合もあります。
依頼者様でなければ分からないことだけをお聞きし、弊社で調べられることはできる限り弊社で調べる。
これも、弊社が大切にしている考え方の一つです。
専門調査をどこまで行うかも事前に整理します
築年数の経過した建物や大規模な事業用不動産では、土壌汚染やアスベスト等が価格に影響する可能性があります。
一方で、鑑定評価のためだけに、土壌汚染調査やアスベスト調査を専門機関へ新たに依頼すれば、依頼者様に相応の費用負担が発生する場合があります。
そのため、対象不動産の状況や鑑定評価の目的を確認したうえで、行政資料、既存資料、現地確認等により通常確認可能な範囲で調査を行い、専門家による新たな調査までは実施しない、という取扱いを検討する場合があります。
これは、単に調査を省略するということではありません。
鑑定評価に必要な調査を行ったうえで、依頼者様に不必要な追加費用を生じさせないよう、どの範囲まで調査を行うことが合理的なのかを事前に整理するという考え方です。
もちろん、既に専門調査が実施されている場合や、土壌汚染・アスベスト等について把握されている事項がある場合には、その資料をご提供いただき、鑑定評価に反映すべき内容を検討します。
現地調査
必要な事前確認を終えた後、現地調査を行います。
土地については、接道状況、地形、高低差、利用状況、境界付近、周辺環境等を確認します。
建物がある場合には、建物の利用状況、維持管理状態、修繕状況、設備の状態、使用していない部分の有無などについても確認します。
大規模施設などでは、管理人様や施設担当者様にお立会いいただき、建物内部をご案内いただくこともあります。
現地調査前に管理人様のお名前や連絡先、鍵の開閉方法等を確認しておくことで、当日の調査もできる限り短時間かつ効率的に進めることができます。
鑑定評価書完成後も、事実関係を確認します
鑑定評価書が完成しましたら、案件によっては、製本前の確認用PDFを依頼者様等へお送りする場合があります。
そこで確認していただくのは、対象不動産の表示、名称、面積、利用状況その他の事実関係や記載内容に誤りがないか、といった事項です。
これは、鑑定評価額そのものを依頼者様に決めていただくという意味ではありません。
鑑定評価額は、不動産鑑定士が独立した専門家として判断するものです。
一方で、所有者様や施設運営者様だからこそ分かる事実関係もあります。
そのため、必要に応じて最終交付前に事実関係をご確認いただき、誤認や記載ミスを防止したうえで、正式な鑑定評価書を完成させます。
最終的な鑑定評価書の交付
所定の手続が完了しましたら、ご依頼内容に応じて、鑑定評価書のPDF、正本、副本等を交付します。
案件によっては、PDFによる送付、郵送、直接のお届けなどを組み合わせて対応しています。
ここまでが、不動産鑑定評価をご依頼いただいてから、正式な鑑定評価書をお渡しするまでのおおまかな流れです。
お客様の大切なお時間をできる限り使わず、必要なところにはしっかり時間をかける
不動産鑑定評価をご依頼いただくお客様の多くは、複数の賃貸不動産を所有されている大家様、会社経営者様、法人の不動産ご担当者様、学校法人・医療法人・一般企業様など、日々多くのお仕事を抱えておられる方々です。
そして、鑑定評価の対象となる不動産は、数千万円、数億円、ときにはそれ以上の価値を有する、お客様にとって大切な資産です。
だからこそ、株式会社あおぎり不動産鑑定では、お客様に必要以上のお時間やお手間をおかけしないことを大切にしています。
弊社で取得できる資料はできる限り弊社で調査し、対面でなければ確認できない事項を除いて、E-mail、電話、Zoom等を活用します。
しかし、手続を簡便にすることと、鑑定評価そのものを簡略化することは、まったく別の話です。
むしろ、お客様に書類取得や事務手続で必要以上のお時間を使っていただくのではなく、不動産そのものの調査、市場分析、取引事例の収集、価格形成要因の検討といった、本当に鑑定評価の品質に関わる部分に時間を使うことが重要だと考えています。
また、お客様が「なぜ今回、鑑定評価を必要としているのか」「その鑑定評価書をどのように利用したいのか」「売却なのか、取得なのか、相続なのか、法人内取引なのか」といった目的を丁寧に確認することも重要です。
その目的を理解したうえで、お客様のご意向にできる限り沿いながらも、不動産鑑定士として独立した立場から、適正で説明力のある鑑定評価書を作成することが、弊社の役割だと考えています。
鑑定評価書を作ることがゴールではありません
私たちは、鑑定評価書を1冊作ってお渡しすること自体を最終的な目的とは考えていません。
その鑑定評価をもとに、不動産を適正な価格で売却していただく。
不動産を購入する際の判断材料としていただく。
保有不動産について適切な経営判断をしていただく。
相続や事業承継を円滑に進めていただく。
そうしたお客様の次の意思決定につながって初めて、鑑定評価の価値が生まれると考えています。
特に不動産の売却では、適正な市場価値を把握することによって、必要以上に安い価格で大切な資産を手放してしまうことを防ぐ一方で、市場から大きく乖離した価格設定によって売却機会を逃してしまうことも避けやすくなります。
不動産鑑定評価を一つの判断材料として、お客様により良い売買や経営判断をしていただき、結果としてお客様の利益の最大化につながるお手伝いができれば、不動産鑑定士としてこれほどうれしいことはありません。
適正な不動産価格の形成を通じて、社会にも貢献したい
不動産は、売る方にとっても、買う方にとっても、大切な財産です。
適正な価格で不動産が取引されることは、一人のお客様の利益だけではなく、不動産市場全体の健全性にもつながります。
不動産鑑定士が、客観的な市場価値について専門的な分析を行い、それを一つの判断材料として適正な不動産売買が行われること。
その積み重ねが、透明性の高い不動産市場、適正な不動産価格の形成、そして地域社会の健全な発展につながっていくと考えています。
株式会社あおぎり不動産鑑定では、
お客様の大切なお時間をできる限り使わない。
しかし、価格を判断するために必要な調査と分析には、しっかりと時間をかける。
そして、お客様の目的に沿った、実際の意思決定に役立つ鑑定評価書をお届けする。
そのことを大切にしています。
鑑定評価を通じて、お客様の大切な不動産についてより良い判断をしていただき、不動産の売買や経営判断に役立てていただくこと。
そして、その一つ一つの鑑定評価を通じて、お客様の利益の最大化と、適正な不動産価格の形成の双方に貢献していくこと。
さらに、その積み重ねによって、地域の不動産市場や社会全体に少しでも貢献していくこと。
それが、株式会社あおぎり不動産鑑定が目指すところです。
あおぎり不動産鑑定
――軽井沢の別荘価値を「自然公園法」から考える
先日、軽井沢町内の別荘について物件調査を行いました。
現地で庭に立ってみると、建物そのもの以上に印象に残ったのが、庭の先に広がる緑でした。
いわゆる「借景」です。
軽井沢の別荘では、建物のグレードや敷地面積だけでなく、「リビングや庭から何が見えるのか」ということが、その不動産の魅力を大きく左右します。
そこで調査を進めてみると、その庭先から望む山林の一部が、自然公園法に基づく自然公園区域に含まれていることが分かりました。
軽井沢の北部から西部にかけては上信越高原国立公園が広がっており、千ヶ滝別荘地、星野周辺、三井の森別荘地などを調査していると、別荘地の背後や庭先の延長上に自然公園区域が位置するケースを目にすることがあります。
これは、不動産を見るうえで意外に重要なポイントです。
なぜなら、自然公園区域に入っている土地では、将来の開発について通常の土地より強い制約を受ける場合があるからです。
そもそも「自然公園」とは何か
ここでいう自然公園は、都市公園のように国や自治体が所有する公園という意味ではありません。
国立公園や国定公園では、民有地を含めた広い区域について、その自然景観を保護するために自然公園法による規制がかけられています。
そして自然公園の区域は、自然環境をどの程度厳格に保護する必要があるかによって、
特別保護地区
第1種特別地域
第2種特別地域
第3種特別地域
普通地域
という地種区分に分けられています。
長野県も、自然公園内ではこの地種区分によって開発行為の規制内容や規模が異なると説明しています。
大まかにいえば、
特別保護地区 → 第1種 → 第2種 → 第3種 → 普通地域
の順に規制が緩やかになります。
特別保護地区――最も厳格に自然を守る区域
特別保護地区は、特別地域の中でも特に優れた自然景観や原始的な状態が残され、最も厳格な保護が必要とされる区域です。
長野県の説明でも、原則として学術研究や公益上必要な行為以外は認められない区域とされています。
したがって、
「建ぺい率10%なら建てられる」
といった種類の規制ではありません。
そもそも通常の住宅を新築することを前提とした区域ではないため、建ぺい率・容積率以前に、建築行為そのものが極めて限定的と考えた方が分かりやすいでしょう。
第1種特別地域――現在の景観を極力そのまま残す区域
第1種特別地域は、特別保護地区に準じる優れた景観を有し、特別地域の中では風致を維持する必要性が最も高い区域です。
環境省・長野県ともに、「現在の景観を極力保護することが必要な地域」と位置付けています。
こちらについても、通常の住宅について単純に
「建ぺい率○%、容積率○%」
と考える地域ではありません。
既存建物の建替えなど一定の例外はありますが、基本的には新たな開発を積極的に受け入れる地域ではないという理解が重要です。
つまり、特別保護地区や第1種特別地域が庭先の借景になっている場合、その景観が将来的に大規模な宅地や建物へ変わる可能性は、一般の土地と比べれば相当限定されると考えることができます。
第2種特別地域――建築可能でも、かなり厳しい
第2種特別地域になると、一定の建築行為は許可の対象として検討されます。
ただし、自然公園法施行規則による許可基準はかなり厳格です。
建物の種類や分譲地の成立時期などによって適用基準が異なるため一律には言えませんが、一般的な建築物では、第2種特別地域について代表的に次の基準があります。
| 敷地面積 | 総建築面積の割合 | 総延べ面積の割合 |
|---|---|---|
| 500㎡未満 | 10%以下 | 20%以下 |
| 500㎡以上1,000㎡未満 | 15%以下 | 30%以下 |
| 1,000㎡以上 | 20%以下 | 40%以下 |
いわゆる建ぺい率・容積率に近い考え方です。
さらに、高さ、道路からの後退、敷地境界からの後退、地形勾配などについても許可基準があります。例えば一定の建築物では高さ13m以下、道路や敷地境界から原則5m以上離すことなどが基準となっています。
特に新たに造成される分譲地等では、第2種特別地域について総建築面積20%以下、総延べ面積40%以下といった基準に加え、敷地1,000㎡以上、2階建て以下、高さ10m以下など、さらに別の基準が設けられています。
第3種特別地域――第2種より緩やかだが、自由ではない
第3種特別地域は、特別地域の中では風致維持の必要性が比較的低く、通常の農林業等については原則として許容することを想定した地域です。
しかし、住宅開発が自由というわけではありません。
建築物については、代表的な許可基準として、
総建築面積 20%以下
総延べ面積 60%以下
という基準があります。
第2種特別地域よりは利用可能性が高いものの、通常の宅地と比較すれば、自然景観を保つことが強く意識された土地利用規制となっています。
普通地域――「何も規制がない地域」ではない
名前だけを見ると誤解されやすいのが「普通地域」です。
普通地域は、特別地域に含まれない自然公園区域ですが、自然公園としての風景を保護する必要がある地域であることに変わりはありません。
自然公園法上、普通地域について一律の建ぺい率・容積率が定められているわけではありません。
ただし、例えば建築物であれば、
高さ13mを超えるもの
または延べ面積1,000㎡を超えるもの
などについて届出が必要となります。
土地の形状変更、広告物、土石の採取なども届出対象となる場合があります。
したがって、
普通地域=将来何でも建てられる土地
ではありません。
大規模な開発については自然公園法によるコントロールを受けますし、軽井沢の場合には、さらに町独自の自然保護対策要綱や都市計画、景観関係の規制が重なってきます。
軽井沢では、さらに「自然保護対策要綱」がある
ここが軽井沢の不動産を考える際に重要です。
軽井沢町では昭和47年から「軽井沢町の自然保護対策要綱」を設け、建ぺい率、容積率、建物の高さ、後退距離、最低敷地面積などについて、独自の基準を設けてきました。
町自身も、この要綱が軽井沢の自然環境や独特の別荘地空間を守るうえで重要な役割を果たしてきたと説明しています。
たとえば従来の「保養地域」では、代表的な基準として、
建ぺい率20%以下
容積率20%以下
という、一般の住宅地と比べてかなり低い密度の土地利用が求められてきました。
不動産を購入する側からすると、まず気になるのは、
「この土地にどれくらいの建物を建てられるのか」
という自分の敷地の規制でしょう。
そのため、建ぺい率や容積率には目が行っても、庭の先に見えている土地が何の区域なのかまで確認する人は、それほど多くないように思います。
しかし、不動産鑑定の視点では、そこも非常に重要です。
「自分の土地」ではなく「見えている土地」を調べる
別荘の価値を考えるとき、
「今、景色が良い」
だけでは十分ではありません。
重要なのは、
「その景色が将来も維持される可能性がどの程度あるのか」
です。
目の前が普通の山林であれば、将来所有者が変わり、伐採され、宅地造成や建築が行われる可能性があります。
今は静かな森でも、10年後には住宅や宿泊施設が建っているかもしれません。
一方、その山林が自然公園法上の第1種・第2種特別地域などであれば、建築や造成には相応の制約があります。
特に特別保護地区や第1種特別地域では、新規開発は極めて限定的です。
つまり、庭先の森が自然公園区域であるという事実は、所有者にとっては一見「規制」の話に見えますが、その土地を借景として利用する隣接不動産から見ると、むしろ景観を長期的に守ってくれる仕組みと見ることもできます。
軽井沢では「借景の永続性」も不動産価値の一部
軽井沢の別荘で価値をつくっているのは、土地と建物だけではありません。
窓から見える木立。
庭から続いているように感じられる森。
建物同士の距離。
夜の暗さ。
静けさ。
こうしたものが組み合わさって、「軽井沢らしい環境」が形成されています。
したがって別荘の評価では、
眺望が良いか
だけではなく、
その眺望が失われるリスクがどの程度あるのか
という視点も重要になります。
自然公園法は、所有者にとっては土地利用を制限する法律です。
しかし、その隣にある別荘から見れば、目の前の自然が急激に開発されるリスクを抑えてくれる法律でもあります。
この「規制の裏側にある価値」は、不動産を数字だけで見ているとなかなか気付きにくい部分です。
今回の物件調査でも、庭の向こうに広がっていた森が自然公園区域であることを知ったことで、単に「緑が多くて雰囲気が良い別荘」という見方から、
「この景観が将来も比較的維持されやすい別荘」
という一段違った見方ができるようになりました。
これは軽井沢の別荘を評価するうえで、決して小さくないポイントだと思います。
自然公園区域は「信州くらしのマップ」で確認できる
こうした自然公園の区域は、専門家でなくても比較的簡単に確認できます。
長野県が公開している**「信州くらしのマップ」**では、自然公園に関するレイヤーを表示することで、特別保護地区、第1種・第2種・第3種特別地域、普通地域などの位置を地図上で確認できます。長野県自身も、行為予定地が自然公園内かどうかを確認する際に同マップを利用するよう案内しています。
今回掲載した図も、この「信州くらしのマップ」で軽井沢周辺を表示したものです。
ただし、長野県は同マップ上の公園区域データについてあくまで目安としており、境界付近の土地については所管する地域振興局に確認するよう案内しています。売買や鑑定評価、建築計画などで正確な判定が必要な場合は、GISだけで最終判断しないことが重要です。

不動産鑑定士として見る「規制」と「価値」
法令上の規制は、一般には不動産価値を下げる要因として捉えられがちです。
確かに、自分の所有地が厳しい規制区域に入っていれば、建物の規模や土地利用の自由度が低下するため、市場性にマイナスとなる場合があります。
しかし、不動産の価値はそれほど単純ではありません。
自分の土地にかかる規制はマイナスでも、隣地や前面の山林にかかる規制は、自分の眺望や住環境を守るプラス要因になることがある。
これが、別荘地の評価のおもしろいところです。
特に軽井沢では、土地を何平方メートル所有しているかだけでなく、
「その土地から、どのような環境を享受できるのか」
が価値に大きく影響します。
庭の先の森が自然公園である。
その事実は、一見地味な法令調査の結果ですが、見方を変えれば、
「この別荘が今後も静かな森を借景として使い続けられる可能性」
を示す重要な情報なのかもしれません。
私は、こうしたところにも不動産鑑定士が現地を歩き、地図と法令を照合する意味があると考えています。
あおぎり不動産鑑定
― 鑑定業と宅建業、両方の登録を終えて
この度、株式会社あおぎり不動産鑑定は、不動産鑑定業者としての登録に加えて、宅地建物取引業者としての登録も完了いたしました。
長野市を拠点に、不動産の鑑定評価だけでなく、売却をご検討される方の査定や売買の仲介についても、一つの窓口でご相談いただけるようになります。
これまで不動産鑑定士として、不動産の「価値」を分析する立場からさまざまなご相談に対応してきましたが、今後はその知見を生かしながら、実際の売却まで含めたサポートができる体制となりました。
「鑑定士」と「宅建業者」、何が違うのでしょうか
一般的な不動産会社(宅建業者)は、物件を売りたい方と買いたい方をつなぎ、売買契約をまとめることを専門としています。
一方、不動産鑑定士は、不動産の価格形成要因を分析し、その不動産の適正な価値を判定する専門家です。
不動産会社が行う「査定」は、周辺の成約事例や現在の売出状況などから、「市場でどの程度の価格で売却できそうか」を判断するためのものです。
これに対して、正式な不動産鑑定評価では、対象不動産の特性に応じて取引事例比較法、収益還元法、原価法などを適用し、地域性、個別性、市場性、収益性などを総合的に分析します。
ひとことメモ:鑑定評価が求める「正常価格」とは
不動産鑑定評価基準では、鑑定評価によって求める価格はいくつかの種類に分類されており、通常の売買でもっとも基本となるのが「正常価格」です。正常価格とは、簡単に言うと「特別な事情のない、公正な市場で成立するであろう適正な価格」のことです。売主が売り急いでいたり、買主が特殊な理由で高値をつけていたりするような事情を排除し、十分な情報を得た当事者同士が、相当の期間市場に公開されたうえで、自由な意思で取引した場合に成立するであろう価格を指します。私たちが行う鑑定評価の多くは、この正常価格を求めるものです。
相続、税務、裁判、親族間売買、財産分与、法人の資産評価など、客観的な価格根拠が求められる場面では、正式な鑑定評価書が利用されることがあります(サービス・料金のご案内はこちら)。
売却をご検討の方には「不動産鑑定士の視点を生かした無料査定」を
宅建業者として売却をご相談いただく場合には、まず不動産鑑定士の知見を生かした無料査定をご利用いただけます。
これは正式な鑑定評価書を作成するものではありませんが、
- 周辺の取引価格
- 現在の売出状況
- 土地の形状や規模
- 接道条件
- 建物の状態
- 周辺地域の価格動向
- 用途や収益性
- 将来的な需要
など、不動産鑑定で重視する視点を取り入れながら、売却価格の目安を検討します。
一般的な売却査定でも取引事例や市場動向は重要な判断材料ですが、当社ではさらに「なぜこの不動産はこの価格帯になるのか」という点をできるだけ丁寧に分析し、お客様に分かりやすくご説明することを大切にしています。
売却を依頼するかどうか決めていない段階でも構いません。「今売ったら、いくらくらいになるのか」というご相談からでもご利用いただけます。
売る前に、価格を知ることには意味があります
不動産の売却では、最初の売出価格の設定が非常に重要です。
価格を高く設定しすぎると、売却までに時間がかかり、結果として何度も値下げをすることになる可能性があります。一方で、価格を低く設定しすぎれば、本来得られたかもしれない売却代金を逃してしまうこともあります。
特に、
- 相続した土地
- 大規模な土地
- 不整形地
- 収益物件
- 事業用不動産
- 軽井沢や白馬などのリゾート不動産
といった物件は、一般的な住宅以上に価格判断が難しい場合があります。
だからこそ、売却活動を始める前に、まず不動産の価値や市場性を整理しておくことには意味があります。「今売るべきなのか」「もう少し保有した方がよいのか」「この売出価格で本当によいのか」といったことを考えるための判断材料として、査定をご活用いただけます。
正式な鑑定評価書を取得してから売却するという方法もあります
「まずは正式な鑑定評価書を取得し、客観的な価格を確認してから売却活動に入りたい」というご相談にも対応しています。
たとえば、
- 相続で取得した不動産を売却する場合
- 財産分与の対象となっている不動産を売却する場合
- 親族間で価格について認識の違いがある場合
- 法人所有不動産の売却を検討する場合
などでは、売却前に客観的な価格を確認しておきたいケースがあります。このような場合には、通常の売却査定ではなく、正式な鑑定評価書を作成することも可能です。
なお、鑑定評価そのものは、その後の売却の成否とは切り離した独立した業務として行っています。鑑定評価は売却するかどうか、いくらで売るかをお客様ご自身が判断するための「拠り所」であるべきだと考えているためです。
鑑定と売買、両方を扱うからこそできること
不動産鑑定士は、不動産の「価値」を分析する専門家です。宅地建物取引業者は、不動産を実際の市場で「売る」ための専門家です。
この二つの視点を持つことで、「この不動産にはどの程度の価値があるのか」という視点と、「実際の市場では、どの価格帯で売却を進めるのが現実的なのか」という視点の双方から考えることができます。
鑑定評価は常に同じ基準で、売却の成否に左右されずに行っています。だからこそ、無料査定でお伝えする価格感も、安心してご覧いただけるものだと考えています。
当社では、単に売却を受託することだけを目的とするのではなく、まず不動産の価値や市場性を整理し、お客様が納得したうえで売却方針を決められることを大切にしています。売却をご希望される場合には、そのまま宅建業者として仲介を承ることもできますし、査定結果を一度持ち帰り、ご家族で検討していただくこともできます。
「売る」以外の選択肢も含めて考えます
不動産のご相談では、必ずしも売却が最善とは限りません。
たとえば、「相続した不動産を売るべきか、保有すべきか」「賃貸や有効活用は可能なのか」「将来の相続を考えると、今整理した方がよいのか」といったご相談もあります。
不動産鑑定士として価格や収益性、市場性を確認しながら、売却、保有、活用といった複数の選択肢を比較できることも、鑑定業と宅建業の双方を行うメリットの一つだと考えています。
こんな方におすすめです
- 売却を考えているが、現在の相場観に自信がない方
- 相続した不動産を売るか保有するか迷っている方
- 不動産会社から提示された査定価格が妥当なのか確認したい方
- 売却前に専門家の視点から価格を確認しておきたい方
- 正式な鑑定評価書を取得してから売却を検討したい方
- 相続や財産分与など、価格について関係者への説明が必要な方
- 軽井沢・白馬など、価格判断が難しい不動産を所有している方
- 売却だけでなく、保有や有効活用も含めて相談したい方
まずは「いくらくらいなのか」を知るところから
不動産は、大切な資産です。だからこそ、最初から「売る」と決める必要はありません。
まずは現在の価格や市場性を知り、そのうえで「売る」「持つ」「活用する」といった選択肢を考えることが大切です。
あおぎり不動産鑑定では、不動産鑑定士としての価格分析と、宅地建物取引業者としての市場での売却という双方の視点から、お客様の不動産について一緒に考えていきます。
不動産鑑定士の知見を生かした無料査定だけのご相談も歓迎しております。売却するかどうかを決める前の段階から、どうぞお気軽にお問い合わせください。
― 親族間売買・法人個人間売買で「時価」を説明するために ―
不動産を親族間、同族会社、資産管理法人などへ移転する場合、問題になりやすいのが「時価よりも低い金額で売却してよいのか」という点です。
いわゆる低廉譲渡の問題です。
不動産は、現金や上場株式と異なり、日々の市場価格が明確に表示されているわけではありません。同じ地域の土地であっても、面積、形状、接道、用途地域、建物の有無、賃貸借の有無、造成費、解体費、権利関係などによって価格は大きく変わります。
そのため、親族間売買や、オーナー個人とその資産管理法人・同族会社との間の売買では、「この売買価格は時価として合理的に説明できるのか」「税務調査で低すぎると指摘されないか」という点が重要になります。
本稿では、不動産の低廉譲渡について、個人に譲渡する場合と法人に譲渡する場合の違い、不動産鑑定評価を取得する意味、税務調査への備えについて整理します。
1 低廉譲渡とは何か
低廉譲渡とは、一般に、時価よりも著しく低い価額で資産を譲渡することをいいます。
不動産の場合、典型的には次のようなケースです。

このような取引では、当事者間では合意していても、税務上は「時価との差額」に課税上の問題が生じることがあります。
特に注意が必要なのは、譲渡先が個人か法人かによって、譲渡人側の課税関係が変わるという点です。
2 個人に対する低廉譲渡
居住者が、譲渡所得の基因となる資産を個人に対して、譲渡時の価額の2分の1に満たない金額で譲渡した場合でも、法人に対する低額譲渡のように、直ちに時価で譲渡したものとみなされるわけではありません。
ただし、その譲渡対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合、その不足額は、譲渡所得の計算上なかったものとみなされます。
つまり、個人に対する著しい低額譲渡では、譲渡人側について、原則として時価譲渡課税ではなく、譲渡損失を認めないという形で調整されます。
たとえば、次のような例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産の時価 | 1億円 |
| 親族への譲渡価額 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用の合計 | 6,000万円 |
この場合、譲渡価額4,000万円は時価1億円の2分の1未満です。
また、譲渡価額4,000万円は、取得費・譲渡費用の合計6,000万円を下回っています。
形式的には、2,000万円の譲渡損失が発生しているように見えます。
しかし、この不足額2,000万円は、譲渡所得の計算上なかったものとみなされます。
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡価額 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用 | 6,000万円 |
| 不足額 | 2,000万円 |
| 税務上の取扱い | 損失はなかったものとされる |
したがって、親族間の低額譲渡によって意図的に譲渡損失を作り、その損失を他の所得や譲渡益と通算するような使い方はできません。
なお、個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、譲受人側では、時価と支払対価との差額について贈与税の問題が生じる場合があります。
3 法人に対する低廉譲渡
これに対して、個人が法人に対して土地や建物を時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合には、取扱いが大きく異なります。
法人への低額譲渡に該当する場合、実際に受け取った売買代金ではなく、その土地や建物の時価を収入金額として譲渡所得を計算することがあります。
たとえば、次のような例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産の時価 | 1億円 |
| 法人への譲渡価額 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用 | 3,000万円 |
実際の売買代金は4,000万円であっても、法人への低額譲渡に該当する場合、譲渡所得の計算上は、時価1億円で譲渡したものとして扱われる可能性があります。
| 計算項目 | 実際の売買 | 税務上の計算 |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 4,000万円 | 1億円 |
| 取得費・譲渡費用 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 譲渡所得 | 1,000万円 | 7,000万円 |
この場合、実際には4,000万円しか受け取っていないにもかかわらず、税務上は1億円を収入金額として譲渡所得が計算される可能性があります。
これが、法人への低額譲渡で特に注意すべき点です。
4 個人と法人の違いを整理する
低廉譲渡では、相手方が個人か法人かで、譲渡人側の課税関係が大きく変わります。

このように、低廉譲渡では、単に「安く売った」というだけでなく、誰に売ったのかが非常に重要です。
特に、資産管理法人や同族会社を使った不動産移転では、法人への低額譲渡に該当しないかを慎重に確認する必要があります。
5 不動産鑑定評価を取得する意味
低廉譲渡で問題になるのは、結局のところ「時価はいくらか」という点です。
不動産の時価は、固定資産税評価額や相続税路線価だけで機械的に決まるものではありません。
実際には、次のような価格形成要因を確認する必要があります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 土地の所在・用途地域 | 住宅地、商業地、工業地、調整区域など |
| 面積・形状 | 過大地、不整形地、旗竿地、間口・奥行 |
| 接道条件 | 道路幅員、接道方位、建築基準法上の道路か |
| 利用状況 | 更地、建物付、賃貸中、底地、借地権付建物 |
| 建物状況 | 築年数、構造、維持管理、解体費 |
| 市場性 | 需要者、売却可能性、地域の取引水準 |
| 収益性 | 賃料、空室、利回り、建物残存耐用年数 |
| 法的制限 | 都市計画、建築規制、農地法、開発許可など |
不動産鑑定評価では、これらの要因を確認したうえで、取引事例比較法、収益還元法、原価法などを用いて、対象不動産の価格を判定します。
親族間売買や法人への売買において、不動産鑑定評価を取得する意味は、単に「価格を出す」ことだけではありません。
重要なのは、なぜその価格が合理的なのかを説明できる資料を残すことです。
税務調査において価格の妥当性を問われた場合、売買契約書だけでは「当事者がその価格で合意した」ことは分かっても、「その価格が時価として妥当であった」ことまでは十分に説明できない場合があります。
そのため、時価の説明が重要となる取引では、不動産鑑定評価書や価格調査報告書を事前に取得しておくことが有効です。
6 では、なぜ鑑定評価が必要なのか
不動産鑑定評価書を取得したからといって、税務調査を完全に回避できるわけではありません。
また、不動産鑑定評価書があれば、必ず税務上否認されないというものでもありません。
税務上の判断は、最終的には税務署、国税不服審判所、裁判所等において、個別事情を踏まえて判断されます。
それでも、親族間売買や法人個人間売買において鑑定評価が重要なのは、売買価格について、当事者自身が自信を持って説明できるようにするためです。
たとえば、親から子へ不動産を売却する場合、親族間で合意した価格であっても、第三者から見れば「本当にその価格が適正なのか」という疑問が生じやすくなります。
また、オーナー個人とその資産管理法人・同族会社との間で不動産を売買する場合にも、売主と買主の利害が完全に対立しているとはいえないため、通常の第三者間売買よりも慎重な価格検討が必要になります。
このような場面で不動産鑑定評価書を取得しておけば、次のような効果が期待できます。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 時価の説明資料になる | 売買価格がどのような根拠で決まったかを説明しやすい |
| 税務調査時の備えになる | 調査時に価格の合理性を示す客観的資料になる |
| 親族間の納得材料になる | 相続人間・親族間で価格の公平性を説明しやすい |
| 法人個人間取引の根拠になる | オーナー個人と法人間の取引価格を説明しやすい |
| 契約価格を決めやすくなる | 感覚ではなく、資料に基づいて価格を設定できる |
つまり、不動産鑑定評価は、税務調査を完全に避けるためのものではなく、売買価格について合理的に説明できる状態を作るためのものです。
親族間売買や法人個人間売買では、「いくらで売るか」だけでなく、「なぜその価格で売るのか」を説明できることが重要です。
7 契約までのワンストップ支援
親族間売買や、オーナー個人と資産管理法人・同族会社との間の売買では、価格を決めるだけでは手続きは完了しません。
実際には、売買契約書の作成、重要事項説明、決済、登記、税務申告など、複数の手続きが必要になります。
あおぎり不動産鑑定では、不動産鑑定業に加えて宅地建物取引業も行っているため、不動産の価格調査・鑑定評価だけでなく、必要に応じて売買契約に関する実務支援まで対応することができます。
具体的には、次のような流れで支援することが可能です。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 価格調査・鑑定評価 | 対象不動産の時価・市場価値を把握する |
| 売買条件の整理 | 売買価格、引渡し時期、契約条件を整理する |
| 重要事項説明 | 宅建業者として必要な調査・説明を行う |
| 売買契約書作成支援 | 契約内容を整理し、契約締結を支援する |
| 専門家連携 | 税理士、司法書士等と連携する |
| 決済・引渡し支援 | 代金決済、登記手続きへの橋渡しを行う |
親族間売買では、「身内同士だから簡単に済ませたい」と考える方も少なくありません。
しかし、親族間だからこそ、後日、相続人間で価格の公平性が問題になったり、税務上の説明を求められたりすることがあります。
また、オーナー個人と法人の間の売買では、契約書や資金移動の記録、売買価格の根拠をきちんと残しておくことが重要です。
不動産鑑定評価と宅建業務を組み合わせることで、価格の検討から契約実務まで、一連の流れを整理しやすくなります。
8 取得費の証明と低廉譲渡は別の問題
最近、不動産売却に関連して、「取得費が分からない」「昔の売買契約書がない」というご相談も増えています。
土地や建物を売った場合の譲渡所得は、売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費が分からない場合には、売却代金の5%相当額を概算取得費とすることができる場合があります。
この取得費の問題と、低廉譲渡の問題は、関係はありますが、同じではありません。
取得費の問題は、主に「昔いくらで買ったか」「建物取得費や減価償却費をどう見るか」という問題です。
一方、低廉譲渡の問題は、主に「今回いくらで売るか」「その売却価額が時価として妥当か」という問題です。
| 論点 | 問題になる価格 |
|---|---|
| 取得費の証明 | 過去の購入価額・建築価額 |
| 低廉譲渡 | 今回の譲渡時点の時価 |
| 法人への低額譲渡 | 時価の2分の1未満かどうか |
| 個人への低額譲渡 | 譲渡損失の否認・贈与税の問題 |
したがって、取得費が分からない場合に鑑定評価を取ることと、低廉譲渡を避けるために鑑定評価を取ることは、目的が異なります。
前者は過去の取得価額の疎明、後者は現在の時価の説明です。
9 免責事項
本稿は、不動産の低廉譲渡、不動産鑑定評価、親族間売買、法人個人間売買、税務調査への備えについて、一般的な考え方を整理したものです。
本稿の内容は、特定の個人又は法人に対する税務上の助言、税額計算、申告判断、税務代理を目的とするものではありません。
実際の税務上の取扱いは、譲渡人・譲受人の属性、売買価格、時価、取得費、譲渡費用、親族関係、法人との関係、資金移動、契約内容、申告内容、その他の個別事情により異なります。
低廉譲渡、親族間売買、法人への不動産譲渡、資産管理法人への移転、取得費の疎明、譲渡所得税、贈与税、法人税、相続税等に関する具体的な判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
あおぎり不動産鑑定は、不動産鑑定士として不動産の価格に関する調査・評価を行うものであり、税理士業務に該当する税務代理、税務書類の作成、個別具体的な税務相談は行いません。
税務上の助言が必要となる場合には、提携税理士等の専門家をご紹介し、又は連携して対応することがあります。
また、宅地建物取引業に基づき売買契約等を支援する場合であっても、税務判断そのものは税理士等の専門家の判断を前提として行います。
10 まとめ
不動産の低廉譲渡では、譲渡先が個人か法人かによって税務上の取扱いが大きく異なります。
個人に対する著しい低額譲渡では、譲渡人側で直ちに時価譲渡課税が行われるわけではありませんが、譲渡対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合、その不足額は譲渡所得の計算上なかったものとみなされます。
一方、法人に対する低額譲渡では、時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合、実際の売買代金ではなく、時価を収入金額として譲渡所得が計算される可能性があります。
また、個人が著しく低い価額で財産を取得した場合には、譲受人側で贈与税の問題が生じることもあります。
このような取引では、「いくらで売買するか」だけでなく、「その価格を時価として合理的に説明できるか」が重要です。
不動産鑑定評価書や価格調査報告書は、税務調査を完全に回避するものではありませんが、価格の合理性を説明するための客観的資料として有効です。
親族間売買や、オーナー個人と資産管理法人・同族会社との間の売買では、当事者が自信を持って価格を説明できるようにしておくことが大切です。
あおぎり不動産鑑定では、不動産鑑定評価、価格調査、取得費の疎明資料の検討、親族間売買・法人個人間売買における時価確認、物件調査、法務局調査、役所調査、現地確認、写真撮影等に対応しています。
また、宅地建物取引業者として、必要に応じて売買契約までの実務支援にも対応しています。
税務判断が必要な場合には、税理士等の専門家と連携しながら進めることも可能です。
不動産の低廉譲渡や時価確認、親族間売買、資産管理法人への不動産移転でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
あおぎり不動産鑑定
―2026年の戸建住宅・共同住宅・店舗の建築費を統計から読む
近年、不動産価格を考えるうえで無視できなくなっているのが、土地価格そのものよりもむしろ「建築費」の上昇である。住宅、共同住宅、店舗のいずれについても、数年前の建築費単価をそのまま現在の事業収支に当てはめることは難しくなっている。
長野県も例外ではない。資材価格の上昇に加え、人件費、設備費、運送費等が上昇しており、新築建物の取得コストは2020年前後と比較して明らかに高い水準となっている。
建築費は2020年度から約25~30%上昇
国土交通省の「建設工事費デフレーター」は、建設工事費の物価変動を把握する代表的な統計である。2026年4月分から基準が「2020年度平均=100」に改定されており、最新公表値は2026年5月までとなっている。
同月次データを見ると、2026年5月の指数は、建築総合126.4、住宅総合127.1、木造住宅126.7、鉄骨造住宅128.8、非住宅総合125.6、鉄骨造非住宅125.6となっている。
すなわち、2020年度を100とすれば、住宅・非住宅とも建築コストはおおむね25~30%程度上昇した計算となる。特に鉄骨造住宅は128.8であり、約29%の上昇となっている。
| 時点 | 建築総合 | 住宅総合 | 鉄骨造住宅 |
|---|---|---|---|
| 2020年平均 | 約100 | 約100 | 約100 |
| 2021年平均 | 104.1 | 105.6 | 105.2 |
| 2022年平均 | 112.2 | 114.9 | 115.4 |
| 2023年平均 | 113.7 | 114.6 | 116.7 |
| 2024年平均 | 118.0 | 118.4 | 120.5 |
| 2025年平均 | 121.1 | 121.5 | 123.4 |
| 2026年5月 | 126.4 | 127.1 | 128.8 |
2021~2022年に資材価格を中心として大きく上昇した後、一旦上昇幅が縮小したものの、2024年以降も再び上昇している。さらに、2026年3月から適用される公共工事設計労務単価は前年から全職種単純平均で4.5%引き上げられており、労務費についても上昇傾向が継続している。なお、公共工事の労務単価であるため民間建築費と直接一致するものではないが、人件費を取り巻く環境を示す参考指標となる。
2026年7月の主要建設資材調査でも、需給自体はおおむね均衡している一方、異形棒鋼、H形鋼、型枠用合板等の一部資材については、なお「やや上昇」とされている。したがって、資材不足による急騰期は脱したとしても、建築費が以前の水準へ戻る状況にはない。
建築費の上昇とともに住宅着工は減少
建築費の上昇は、住宅市場にも影響を与えている。
長野県の2025年度(2025年4月~2026年3月)の新設住宅着工戸数は9,847戸であり、前年度の11,254戸から約12.5%減少した。内訳では、持家が6,148戸から5,201戸へ約15.4%減、貸家が3,144戸から3,038戸へ約3.4%減、分譲住宅が1,896戸から1,386戸へ約26.9%減となっている。
長野県住宅審議会においても、物価、金利、建築コスト上昇等によって住宅市場が構造的な転換期にあること、また2025年4月からの省エネ基準適合義務化に伴う着工時期の変動が指摘されている。
もっとも、2026年6月の県内新設住宅着工は889戸で前年同月比19.2%増となり、持家493戸は32.9%増、貸家298戸は7.6%増となっている。月単位では回復もみられるため、着工戸数については今後の推移を見極める必要がある。
では、長野県で実際にどのくらいの建築費がかかるのか
建築費について注意したいのは、「建築着工統計の工事費予定額」と「実際の請負・取得費」は必ずしも同じではないことである。
建築着工統計は着工時に届け出られた工事費予定額であるため、最終的な追加工事や仕様変更、外構、設計監理、造成、引込工事等の扱いによって実際の支払額との差が生じる。一方、住宅金融支援機構の【フラット35】利用者調査は、実際に住宅を取得した利用者の建設費を把握できるため、戸建住宅の実勢を考えるうえで有用である。
戸建住宅 ― 木造で30万円/㎡台、実際の注文住宅は35~40万円/㎡程度
2025年の建築着工統計を長野県について集計すると、木造・持家・一戸建住宅の工事費予定額は、床面積1㎡当たり約30.4万円/㎡、坪換算では約100万円/坪である。持家一戸建全体でも約31.4万円/㎡となっている。
これに対し、住宅金融支援機構の2025年度【フラット35】利用者調査では、長野県の注文住宅94件について、1㎡当たり建設費は**平均39.5万円/㎡、中央値36.0万円/㎡**である。坪換算すると平均約131万円/坪、中央値約119万円/坪となる。同調査は都道府県別に実際の利用者データを集計したものである。
この差からも、着工統計上の「予定工事費」だけでは実際の住宅取得費を十分に表せないことが分かる。
したがって、2026年時点の長野県における一般的な木造戸建住宅では、統計上の建築費は30万円/㎡前後、実際の注文住宅の予算水準としては概ね35~40万円/㎡程度を一つの目安とすることができる。断熱性能、設備、外構、積雪対応、地盤改良等によってはこれを上回る。
共同住宅 ― 低層鉄骨造では30万円/㎡前後が統計上の中心
賃貸共同住宅について2025年の長野県の建築着工統計をみると、構造による差が比較的明瞭である。
| 貸家・共同住宅 | 工事費予定単価 | 坪換算 |
|---|---|---|
| 木造 | 約27.6万円/㎡ | 約91万円/坪 |
| 鉄骨造 | 約30.5万円/㎡ | 約101万円/坪 |
| RC造 | 約37.7万円/㎡ | 約125万円/坪 |
特に長野県内で多くみられる2階建程度の低層賃貸住宅を想定する場合、鉄骨造の統計上の工事費予定単価は約30.5万円/㎡となっている。
国税庁が公表する令和7年分の「地域別・構造別の工事費用表」でも、長野県は木造271千円/㎡、鉄骨造314千円/㎡、RC造589千円/㎡とされており、少なくとも木造・鉄骨造については、建築着工統計から把握される水準と大きく矛盾しない。なお、この資料は用途別の市場価格表ではないため、あくまで構造別の補助的な比較資料として見る必要がある。
したがって、一般的な仕様の低層賃貸共同住宅については、木造で28~32万円/㎡程度、鉄骨造で30~35万円/㎡程度を現在の建築費を検討する際の実務的なレンジと考えるのが妥当である。RC造については建物規模や階数による差が大きく、40万円/㎡を超えるケースも珍しくない。
一般店舗 ― S造店舗で27~30万円/㎡前後
住宅以外では、店舗の建築費も上昇している。
国土交通省の2025年度「建築物・構造別・用途別・都道府県別」の長野県データから、店舗の工事費予定額を床面積で除すると、店舗全体では約27.8万円/㎡、このうち鉄骨造店舗では**約27.3万円/㎡**となる。坪換算では約90~92万円/坪である。
ロードサイドにみられる平屋又は低層の一般的な物販店、サービス店舗等では鉄骨造が中心となるため、建物本体について27~32万円/㎡程度が一つの目安となる。
ただし、店舗は住宅以上に用途差が大きい。飲食店の厨房設備、ドラッグストア等の大型空調・電気設備、冷凍冷蔵設備、医療施設の特殊設備などは建築本体とは別に多額の費用を要する。このため、「店舗の坪単価」だけで事業費を判断することは適切ではなく、建物本体、設備、外構、造成及びテナント内装を区分して検討する必要がある。
2026年の長野県における建築費の目安
以上をまとめると、現在の長野県における一般的な建築費は次のように整理できる。
| 用途 | 統計から把握される水準 | 実務上の概ねの目安 |
|---|---|---|
| 木造戸建住宅 | 約30~31万円/㎡ | 35~40万円/㎡程度 |
| 木造低層共同住宅 | 約27.6万円/㎡ | 28~32万円/㎡程度 |
| 鉄骨造低層共同住宅 | 約30.5万円/㎡ | 30~35万円/㎡程度 |
| RC造共同住宅 | 約37.7万円/㎡ | 40万円/㎡以上も想定 |
| 鉄骨造一般店舗 | 約27.3万円/㎡ | 27~32万円/㎡程度 |
ここでいう「実務上の目安」は、建築着工統計、【フラット35】利用者調査、構造別工事費資料等を比較して整理した概算レンジであり、特定の建物の見積単価を示すものではない。
不動産価格にも広がる建築費上昇の影響
建築費の上昇は、新築住宅価格を押し上げるだけではない。
賃貸共同住宅では、同じ賃料水準であれば建築費が上昇するほど土地に配分できる事業費が小さくなり、土地残余法による土地価格を押し下げる方向に作用する。店舗用地についても同様に、建築費、設備費及び造成費の上昇は出店事業者が負担できる土地価格や地代を抑制する要因となる。
一方、既存建物については、新築の再調達原価が高くなることで、築浅物件の相対的な価値が維持されやすくなる面もある。
2020年からわずか6年ほどで建築コストが25~30%程度上昇した現在、不動産を評価する際には土地価格だけを見るのではなく、「その土地に建物を建てた場合、事業全体として成立するのか」という視点がこれまで以上に重要になっているのである。
中心市街地・徒歩圏内住宅地・車通勤型住宅地・郊外外縁部の4類型
分析の結論
・松本市全体の住宅地取引は平均47,438円/㎡、中央値49,000円/㎡であり、最頻価格帯は6~7万円/㎡
である。
・中心市街地では大規模画地の取引が極めて少なく、稀少性による増価の可能性はあるものの、1,000㎡超
は2件にとどまり、統計的な確認はできない。
・徒歩圏内住宅地では1,000㎡超の単価低下が明瞭である。大規模画地には不整形、接道不良、細街路等
が含まれ、規模そのものに加えて分割・造成・開発負担が単価を押し下げている。
・車通勤型住宅地では規模減価は比較的緩やかであり、500~1,000㎡と1,000~3,000㎡の平均単価差は約
▲3%である。条件の良い住居系用途地域では「大きいだけ」で大幅な減価が生じるとは限らない。
・郊外・外縁部では1,000㎡超の単価低下が大きいが、市街化調整区域等の混在が主因であり、純粋な規
模格差と地域・法令格差を分離して考える必要がある。
・「大字」地区全体では1,000㎡超が約▲59%と見える一方、住居系用途地域に限定すると約▲5%であ
る。この差は、規模減価の多くが用途地域・開発可能性の違いを内包していることを示す。
- 松本市住宅地市場の全体像
松本市住宅地 地域類型別・規模格差分析
松本市は、松本駅周辺の中心市街地から、駅徒歩圏の既成住宅地、南松本・平田・村井方面や山辺・岡田方面の車利用型住宅地、さらに波田・梓川・四賀等の郊外・外縁部まで、市場の性格が段階的に変化する。したがって、市全体を一括して規模格差を求めると、立地条件や都市計画条件の混在により、規模そのものの影響が見えにくくなる。
本稿では、住宅地取引を位置・都市構造上の性格から4類型に仮区分し、価格水準、中心価格帯及び規模による単価差を比較した。区分は価格から逆算せず、地区名と位置関係を基礎としている
1 まずは松本市の全体像から
松本市は、松本駅周辺の中心市街地から、駅や中心部に近い既成住宅地、南松本・平田・村井方面や山辺・岡田方面の 車利用型住宅地、さらに波田・梓川・四賀等の郊外・外縁部まで、市場の性格が段階的に変化する。市全体を一括して規 模格差を求めると、立地条件や都市計画条件の違いが混在し、面積そのものの影響が見えにくくなる。
そこで、住宅地取引を位置と都市構造上の性格から 4 類型に仮区分した。価格から逆算した分類ではなく、地区名と位 置関係を基礎にした分析上の区分である。


松本市全体では、平均単価は 47,438 円/㎡、中央値は 49,000 円/㎡である。価格帯では 6~7 万円/㎡が最も多い。ただ し、この「市全体の平均」は、中心部の高価格住宅地から郊外の低価格地までを一緒にした数字であり、規模格差を判断 する基準としてそのまま使うことはできない。

2. 4 つの住宅地市場は、価格帯からして違う
中心市街地は 8~9 万円/㎡、徒歩圏内住宅地は 7~8 万円/㎡、車通勤型住宅地は 6~7 万円/㎡に最頻帯があり、中心部か ら外側へ価格水準が段階的に低下する。郊外・外縁部は 0~1 万円/㎡が最頻帯であり、市街地系 3 類型とは明らかに異なる 市場を形成している。

この差を無視して、松本市全体で「1,000㎡超は何%安い」と一本の率を求めても、地域差を規模差として拾ってしま う。規模格差をみる前に、まず市場を揃える必要がある。
3 1,000㎡を超えると、単価はどう動くか
Tableau で用いている区分に合わせ、まず 1,000㎡以下と 1,000㎡超の平均取引単価を比較した。ここでの差は、規模以 外の要因も含んだ「観測された単価差」であり、そのまま鑑定評価上の個別格差率として採用するものではない。

中心市街地を除けば、大規模画地ほど単価が下がる方向は確認できる。ただし、その程度は地域によって大きく違う。 徒歩圏内では分割・造成・道路条件が効き、郊外では市街化調整区域等の法令条件と低い土地需要が重なる。一方、車通 勤型住宅地では、条件が揃った大規模画地なら規模減価は比較的小さい。 長野県内でも、中心市街地の大規模画地の単価が上がるのは、なかなか珍しい現象である。
「大きいから安い」だけではない
● 大規模になるほど総額が大きくなり、個人の需要者は減る。
● 分譲するなら道路新設・造成・上下水道等の事業費が必要になる。
● 一方、中心部ではまとまった土地が少ないため、再開発や共同住宅用地としての稀少性が価格を支えることもあ る。
4 「大字」の数字が示す、規模減価の落とし穴
地区名が「大字」で始まる住宅地取引は 720 件で、平均単価 37,532 円/㎡、中央値 41,000 円/㎡、最頻価格帯は 4~5 万 円/㎡である。ところが「大字」地区は、市街化区域内の住宅地と市街化調整区域等が同じ地区名の中に混在することが多 い。規模格差を分析するときは、この混在を分けて考えなければならない。

大字地区全体では、1,000㎡超の平均単価は 1,000㎡以下より約▲59%低い。ところが住居系用途地域に限定すると、そ の差は約▲5%まで縮小する。これは非常に重要な結果である。
つまり、「大字だから」「1,000㎡を超えるから」という理由だけで大幅な規模減価をみるのは適切ではない。市街化調 整区域、都市計画区域外、工業系用途、接道条件、開発可能性等の差が、大規模画地側に偏って含まれている可能性があ るためである。規模差をみるなら、こうした条件を揃えたうえで比較する必要がある。
5 中心市街地と徒歩圏内住宅地
中心市街地:稀少性はあり得るが、データはまだ少ない
分析対象は 115 件、平均単価 77,092 円/㎡、中央値 81,000 円/㎡、中心 50%レンジは 68,000~86,000 円/㎡、最頻価格 帯は 8~9 万円/㎡である。4 類型の中で最も高い価格水準が形成されている。
1,000㎡超は開智の 2 件(いずれも約 1,100㎡、8.1~8.2 万円/㎡)のみで、1,000㎡以下の平均を約 6%上回った。ただ し、同一地区・同一時期の少数事例であり、「中心部では大規模画地ほど稀少性で増価する」と結論づけるには足りな い。
それでも、中心部では再開発・共同住宅・事業用地等としてまとまった土地の供給自体が少なく、稀少性が価格を支え る可能性はある。反面、容積率を使い切れるか、接道や形状はどうか、権利調整が必要かといった案件ごとの差も大き い。したがって、一律の規模減価を機械的に当てはめるより、個別の開発可能性をみるべき市場である。
徒歩圏内住宅地:稀少性より「開発負担」が勝ちやすい
分析対象は 370 件、平均単価 62,504 円/㎡、中央値 65,000 円/㎡、中心 50%レンジは 48,250~76,000 円/㎡、最頻価格 帯は 7~8 万円/㎡である。渚、井川城、笹部、鎌田、両島、庄内、清水等を含む既成住宅地で、中心市街地に次ぐ価格帯を 形成する。
1,000㎡超は 11 件で平均 30,764 円/㎡となり、1,000㎡以下の 63,476 円/㎡を約▲52%下回る。500㎡以上 1,000㎡未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の比較でも約▲39%で、規模の大きい側の単価低下は明瞭である。
ただし、大規模事例には接面道路のない事例(征矢野・笹部)、不整形地(清水・笹部・鎌田等)、幅員 3.7~4.0m の 道路に接する事例などが含まれる。このため、観測された減価の全部を「規模」だけで説明することはできない。分割道 路の新設、造成、建築配置、総額の増加による買主層の限定が重なった市場性低下とみるのが妥当である。
注:添付データの「地区名」は笹部までで丁目を識別できないため、本稿では笹部全体を徒歩圏内住宅地に暫定区分している。笹部 1 丁目等に限 定する場合は、住所又は緯度経度を付加した再集計が必要である。
6 車通勤型住宅地と郊外・外縁部
車通勤型住宅地:「大きいだけ」の減価は意外に小さい
分析対象は 926 件で全体の約 55%を占める。平均単価 46,748 円/㎡、中央値 49,000 円/㎡、中心 50%レンジは 33,000~ 62,000 円/㎡、最頻価格帯は 6~7 万円/㎡である。里山辺、島内、島立、笹賀、岡田、寿、平田、村井、野溝等を含み、松 本市の住宅地市場のボリュームゾーンと位置付けられる。
1,000㎡超の平均単価は 41,527 円/㎡で、1,000㎡以下の 47,046 円/㎡に対し約▲12%である。一方、500㎡以上 1,000㎡ 未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の比較では約▲3%にとどまる。大字地区では同一地区内に調整区域を含むため、単純な 1,000㎡区分では規模減価が過大に見えやすい。
住居系用途地域で接道・形状等が標準的であれば、大規模画地でも宅地分譲や共同住宅等の事業採算が成立しやすい。 この類型では「大きいほど必ず安い」のではなく、用途地域、分割可能性、道路新設負担、総額と事業者需要、周辺の標 準区画面積を確認して規模格差を判断する必要がある。
郊外・外縁部:需要者の減少と法令条件が強く効く
分析対象は 275 件、平均単価 17,087 円/㎡、中央値 13,000 円/㎡、中心 50%レンジは 3,350~29,500 円/㎡、最頻価格帯 は 0~1 万円/㎡である。波田、梓川、今井、和田、新村、内田、中山、四賀・安曇方面等を含み、市街地系 3 類型より価格 水準が大きく低い。
1,000㎡超の平均単価は 5,393 円/㎡で、1,000㎡以下の 19,560 円/㎡に対し約▲72%である。500㎡以上 1,000㎡未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の比較でも約▲29%であり、大規模画地の市場性低下は明瞭である。
ただし、大規模事例には市街化調整区域又は都市計画区域外が多く、戸建住宅地として直ちに分割・建築できる土地と 同列には比較できない。需要者層の縮小、総額負担、造成・インフラ整備、農地・山林的利用、開発制約等が複合して単 価を押し下げている。純粋な規模減価をみるには、住居系用途地域又は開発可能性が同程度の事例に絞ることが不可欠で ある。
資料:国土交通省「不動産情報ライブラリ」取引価格情報
7 規模格差は「地域 × 需要者 × 開発可能性」で読む
図 6 面積帯別の平均取引単価
松本市全体では 150~250㎡程度で単価が高く、500㎡を超えると平均単価が低下しやすい。戸建住宅の典型的な需要が 150~300㎡程度に集中し、規模が大きくなるにつれて需要者が個人から開発事業者・法人へ移るためである。面積が大き くなるほど、単なる居住価値よりも総額と開発採算が重視される。

鑑定評価で確認したい 5 つの順番
● 近隣地域における標準的な画地規模はどの程度か。
● 同じ用途地域・同程度の立地で、500㎡以上 1,000㎡未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の単価差はどうか。
● 開発道路、造成、上下水道等の事業費がどの程度必要か。
● 総額が上がったとき、典型的需要者は個人から事業者へ変わるのか。
● 形状・接道・高低差等の個別的要因が「規模減価」に混ざっていないか。
松本市のデータからみえるのは、「規模格差は一律の率ではない」ということである。特に「大字」「1,000㎡超」とい う形式的条件だけで大幅な減価率を採用すると、市街化調整区域等の地域・法令格差を二重に織り込む危険がある。逆に
資料:国土交通省「不動産情報ライブラリ」取引価格情報不動産鑑定コラム|松本市住宅地の「規模格差」
中心市街地では、まとまった土地の稀少性が単価を支える可能性があり、一般的な規模減価の適用には慎重さが必要であ る。
土地の大きさは、価格を直接決める要因というより、「その土地を誰が、何に使えるのか」を変える要因である。規模 格差を読むときは、面積だけでなく、需要者と開発可能性まで一体として捉えることが重要である。
補足 今回の 4 類型と分析上の留意点
今回の 4 類型は、市場分析のための試案であり、行政上の正式な地域区分ではない。地区名単位の分類であるため、同一 地区内の位置差・丁目差は反映していない。

― 取得費の証明が難しい不動産オーナーが検討したい資産組替えの考え方 ―
最近、不動産の売却に伴う「取得費の証明」に関するご相談をいただくことが増えています。
相続で取得した不動産や、かなり以前に購入した不動産を売却する場合、当時の売買契約書や領収書、建築請負契約書などが残っておらず、取得費をどのように確認するかが問題になることがあります。
取得費を適切に確認できない場合、譲渡所得の計算上、概算取得費として売却代金の5%しか認められないことがあります。その結果、実際にはそれなりの取得費がかかっていたとしても、税務上は譲渡所得が大きく計算され、所得税・住民税の負担が重くなる可能性があります。
弊社でも、取得費の証明に関するご相談をお受けすることがありますが、評価書や調査報告書を作成する以上、確定申告後の税務調査でも説明可能な資料に基づくことが重要であると考えています。
そのため、当時の広告資料、分譲パンフレット、販売資料、建築資料、近隣の取引資料など、取得費を合理的に疎明できる資料が確認できる場合には、可能な範囲で検討を行います。一方で、裏付けとなる資料が乏しく、取得費を合理的に説明することが難しい場合には、残念ながらご依頼をお受けできないこともあります。
このような場合に、次の選択肢として検討されることがあるのが、売却後の資金を活用した不動産の資産組替えです。
たとえば、築古アパートを購入して建物部分の減価償却費を活用する方法や、所有地に新築アパートを建築して、相続税評価の圧縮と減価償却費による所得・法人利益の圧縮を図る方法があります。
もちろん、アパート購入や新築は、節税だけを目的に行うべきものではありません。空室リスク、家賃下落、修繕費、金利上昇、建築費、将来の売却可能性などを慎重に検討する必要があります。
しかし、取得費の証明が難しく、譲渡所得税の負担が避けにくい場合には、次の資産運用・相続対策として、賃貸不動産への組替えを検討することも一つの選択肢となります。
本稿では、アパートの新築を中心に、相続税評価の圧縮効果と、減価償却費による所得・法人利益の圧縮効果について、数値例を用いて整理します。
2 数値例1 現金でアパートを建てた場合
まず、現金でアパートを建てるケースを考えます。
前提は次のとおりです。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 土地の相続税評価額(更地評価) | 4,800万円 |
| 現金 | 8,000万円 |
| アパート建築費 | 8,000万円 |
| 建物の固定資産税評価額 | 建築費の60%、4,800万円 |
| 借地権割合 | 60% |
| 借家権割合 | 30% |
| 賃貸割合 | 100% |
アパートを建てる前は、土地4,800万円と現金8,000万円を保有しているため、相続税評価上の財産は次のとおりです。
| 建築前の財産 | 相続税評価額 |
|---|---|
| 土地 | 4,800万円 |
| 現金 | 8,000万円 |
| 合計 | 1億2,800万円 |
次に、現金8,000万円を使ってアパートを建てた場合を考えます。
建物の固定資産税評価額を建築費の60%と仮定すると、建物の自用評価額は4,800万円です。これを貸家として評価すると、借家権割合30%、賃貸割合100%を控除するため、次のようになります。
4,800万円 ×(1 − 30% × 100%)= 3,360万円
したがって、建物の相続税評価額は3,360万円です。
土地については、貸家建付地として評価します。
4,800万円 ×(1 − 60% × 30% × 100%)= 3,936万円
したがって、土地の相続税評価額は3,936万円です。
建築後の相続税評価額は次のとおりです。
| 建築後の財産 | 相続税評価額 |
|---|---|
| 貸家建付地 | 3,936万円 |
| 貸家 | 3,360万円 |
| 合計 | 7,296万円 |
建築前は1億2,800万円であった評価額が、建築後は7,296万円になります。
| 比較 | 相続税評価額 |
|---|---|
| 建築前 | 1億2,800万円 |
| 建築後 | 7,296万円 |
| 評価減 | 5,504万円 |
この例では、アパートを新築することにより、相続税評価額が5,504万円圧縮されます。
もちろん、これはあくまで単純化した例です。実際には、土地の形状、路線価、借地権割合、固定資産税評価額、賃貸割合、小規模宅地等の特例の適用可否、借入金の有無などにより結果は変わります。
3 数値例2 借入金でアパートを建てた場合
次に、借入金でアパートを建てるケースを考えます。
前提は次のとおりです。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 土地の相続税評価額(更地評価) | 4,800万円 |
| アパート建築費 | 8,000万円 |
| 借入金 | 8,000万円 |
| 建物の固定資産税評価額 | 4,800万円 |
| 借地権割合 | 60% |
| 借家権割合 | 30% |
| 賃貸割合 | 100% |
この場合、建築後の財産評価は先ほどと同じく、土地3,936万円、建物3,360万円です。
一方で、借入金8,000万円は債務として控除されます。
| 建築後の財産・債務 | 相続税評価額 |
|---|---|
| 貸家建付地 | 3,936万円 |
| 貸家 | 3,360万円 |
| 借入金 | △8,000万円 |
| 差引評価額 | △704万円 |
借入金を使った場合、建物と土地の評価額よりも借入金の額が大きくなることがあります。
この例では、アパート部分だけを見ると、差引評価額は△704万円となります。
もっとも、これは「借金をすれば必ず得をする」という意味ではありません。借入金は将来返済しなければならず、金利負担もあります。空室が増えたり、家賃が下落したりすると、返済に必要なキャッシュフローが不足する可能性があります。
相続税評価額の圧縮効果と、実際の借入返済能力は分けて考える必要があります。
4 相続税の圧縮効果を税額で見る
次に、相続税評価額が下がることで、税額にどの程度影響するかを見てみます。
先ほどの現金建築の例では、相続税評価額が5,504万円下がりました。
仮に相続税の限界税率が30%の人であれば、単純計算では次のような効果になります。
5,504万円 × 30% = 1,651万円
限界税率が40%であれば、次のようになります。
5,504万円 × 40% = 2,202万円
| 限界税率 | 評価減5,504万円による税額影響 |
|---|---|
| 30% | 約1,651万円 |
| 40% | 約2,202万円 |
このように、評価額の圧縮は、相続税額の圧縮につながる可能性があります。
ただし、相続税は累進税率であり、基礎控除、法定相続人の数、配偶者控除、小規模宅地等の特例、他の財産や債務の状況によって税額が大きく変わります。したがって、実際の税額効果は税理士による個別試算が必要です。
5 資産管理法人でアパートを保有する場合
アパート経営では、個人で所有する場合と、資産管理法人で所有する場合があります。
資産管理法人を活用する場合、賃料収入は法人の収益となり、管理費、修繕費、固定資産税、支払利息、減価償却費などを費用として計上します。
ここで重要になるのが、減価償却費です。
減価償却費は、建物の取得価額を一括で費用にするのではなく、耐用年数にわたって毎年費用化するものです。国税庁は、平成19年4月1日以後に取得する減価償却資産について、定額法では取得価額に定額法の償却率を乗じて償却費を計算する旨を示しています。
アパート建物は長期間使用する資産であるため、建築後、毎期一定額の減価償却費が発生します。この減価償却費は、実際にその年に現金が出ていく費用ではありません。
そのため、減価償却費を計上することで、会計上・税務上の利益を圧縮しながら、手元資金を残しやすくなる場合があります。
6 数値例3 減価償却費による法人利益の圧縮
次のような資産管理法人を想定します。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| アパート建築費 | 1億円 |
| 構造 | 木造 |
| 償却期間 | 22年 |
| 定額法償却率 | 0.046 |
| 年間賃料収入 | 900万円 |
| 管理費・修繕費・固定資産税等 | 200万円 |
| 支払利息 | 100万円 |
木造住宅用建物の法定耐用年数は一般に22年とされています。定額法償却率を0.046とすると、1億円の建物に対する年間減価償却費は次のとおりです。
1億円 × 0.046 = 460万円
この場合、法人の損益は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 賃料収入 | 900万円 |
| 管理費・修繕費・固定資産税等 | △200万円 |
| 支払利息 | △100万円 |
| 減価償却費 | △460万円 |
| 課税対象となる利益 | 140万円 |
減価償却費がない場合、利益は次のようになります。
900万円 − 200万円 − 100万円 = 600万円
減価償却費460万円を計上することで、課税対象となる利益は600万円から140万円に圧縮されます。
| 比較 | 利益 |
|---|---|
| 減価償却費なし | 600万円 |
| 減価償却費あり | 140万円 |
| 利益圧縮額 | 460万円 |
仮に法人税等の実効税率を30%とすると、単純計算では次のような税額差になります。
460万円 × 30% = 138万円
つまり、この例では、減価償却費により課税利益が460万円圧縮され、年間約138万円の税負担軽減効果が生じる計算になります。
7 減価償却費は「お金が出ていかない費用」である点が重要
減価償却費の特徴は、毎年現金が出ていく費用ではないことです。
建築時には建築費を支払いますが、その後の各事業年度では、会計上・税務上、建物の価値を少しずつ費用化していきます。
そのため、賃料収入から管理費や支払利息などを差し引いた現金収支が黒字であっても、減価償却費を計上することで、税務上の利益を小さくできる場合があります。
たとえば、先ほどの例では、現金収支は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 賃料収入 | 900万円 |
| 管理費・修繕費・固定資産税等 | △200万円 |
| 支払利息 | △100万円 |
| 現金収支 | 600万円 |
一方で、税務上の利益は減価償却費460万円を差し引くため、140万円です。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 現金収支 | 600万円 |
| 税務上の利益 | 140万円 |
このように、減価償却費を活用すると、現金収支を残しながら利益を圧縮できる場合があります。
ただし、借入金の元本返済は税務上の費用にはなりません。そのため、税務上は利益が小さくても、借入返済を含めた実際の手残りが十分かどうかを必ず確認する必要があります。
8 法人化による所得分散の効果
資産管理法人を活用するもうひとつの目的は、所得分散です。
個人でアパートを所有すると、賃料収入は個人の不動産所得になります。すでに給与所得や事業所得が大きい人の場合、不動産所得が加わることで所得税・住民税の負担が重くなることがあります。
一方、資産管理法人を設立し、法人がアパートを保有する場合には、法人に利益を留保したり、親族へ役員報酬を支払ったりすることで、所得の帰属先を調整できる場合があります。
たとえば、個人で毎年600万円の不動産所得が発生する場合、所得税・住民税の負担が大きくなる可能性があります。
これに対して、法人でアパートを保有し、減価償却費を計上した結果、法人利益が140万円に圧縮される場合、個人に直接600万円の所得が発生するケースとは課税関係が変わります。
さらに、家族が法人の役員として実際に管理業務等に関与している場合には、適正な役員報酬を支払うことで、所得分散を図ることも検討できます。
ただし、実態のない役員報酬や過大な役員報酬は税務上問題となります。法人化を検討する場合は、税理士と相談しながら、実際の業務内容、報酬水準、法人の利益、社会保険負担まで含めて設計する必要があります。
9 相続税対策と法人利益圧縮は分けて考える
アパート新築には、大きく分けて2つの効果があります。
ひとつは、相続税評価額の圧縮です。現金や更地を、賃貸アパートと貸家建付地に変えることで、相続税評価額が下がる可能性があります。
もうひとつは、減価償却費による所得・利益の圧縮です。資産管理法人でアパートを保有する場合、建物の減価償却費を計上することで、法人利益を圧縮できる場合があります。
この2つは似ているようで、目的が異なります。
| 項目 | 主な効果 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 相続税評価の圧縮 | 相続財産評価額を下げる | 土地評価、貸家建付地、貸家評価、借入金 |
| 減価償却費 | 毎期の利益を圧縮する | 建物取得価額、耐用年数、賃料収入、法人利益 |
| 法人化 | 所得分散・資産承継 | 役員報酬、株式承継、社会保険、法人維持費 |
相続税対策として有効でも、毎期の収支が悪ければ長期的には問題になります。反対に、収支が良いアパートでも、相続税対策としての効果が小さい場合もあります。
そのため、アパート新築を検討する際には、相続税、所得税、法人税、キャッシュフロー、資産価値を分けて検討することが重要です。
10 節税効果だけで建ててはいけない
アパート新築は、確かに相続税評価の圧縮や減価償却費による利益圧縮につながる場合があります。
しかし、節税効果だけを目的に建築すると、かえって失敗することがあります。
たとえば、次のようなケースです。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 空室リスク | 想定家賃で満室が続くとは限りません |
| 家賃下落 | 築年数の経過により賃料が下がる可能性があります |
| 修繕費 | 外壁、屋根、設備更新などの支出が必要になります |
| 金利上昇 | 変動金利借入の場合、返済負担が増える可能性があります |
| 建築費高騰 | 建築費が高すぎると利回りが低下します |
| 売却リスク | 将来、想定価格で売却できるとは限りません |
| 立地リスク | 人口減少地域では長期需要に注意が必要です |
特に地方都市や郊外では、現在は満室でも、将来の人口減少、競合物件の増加、築年数の経過により、空室率が高まる可能性があります。
相続税を下げるために建てたアパートが、将来の相続人にとって管理負担の大きい資産になることもあります。
したがって、アパート新築は、節税効果と同時に、事業として成立するかどうかを確認する必要があります。
11 検討時に確認すべきポイント
アパート新築を検討する際には、最低限、次の点を確認することをおすすめします。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 立地 | 駅距離、生活利便性、学校、商業施設、周辺環境 |
| 賃貸需要 | 単身者向け、ファミリー向け、高齢者向けなどの需要 |
| 競合物件 | 周辺の新築・築浅アパート、空室状況、募集賃料 |
| 建築費 | 坪単価、外構費、造成費、設計費、諸費用 |
| 収支計画 | 家賃収入、空室率、管理費、修繕費、固定資産税 |
| 借入条件 | 金利、返済期間、元本返済額、金利上昇リスク |
| 相続税効果 | 土地評価、貸家建付地評価、建物評価、債務控除 |
| 法人化効果 | 減価償却費、役員報酬、法人税、社会保険、法人維持費 |
| 出口戦略 | 将来売却、相続人による保有継続、建替え可能性 |
これらを事前に確認することで、節税効果だけでなく、長期的に資産として残せるアパートかどうかを判断しやすくなります。
12 まとめ
アパートの新築は、相続税対策として有効に働く場合があります。
更地や現金をそのまま保有している場合と比べて、賃貸アパートを建築すると、土地は貸家建付地として評価され、建物は貸家として評価されるため、相続税評価額が下がる可能性があります。
たとえば、土地4,800万円、現金8,000万円を保有している人が、現金8,000万円でアパートを建築した場合、単純な試算では、相続税評価額が1億2,800万円から7,296万円へ下がり、5,504万円の評価減が生じることがあります。
また、資産管理法人でアパートを保有する場合には、建物の減価償却費を計上することで、法人利益を圧縮できる場合があります。たとえば、建築費1億円、木造22年、定額法償却率0.046とすると、年間減価償却費は460万円となり、法人の課税利益を大きく抑える効果が期待できます。
ただし、相続税評価の圧縮や減価償却費による利益圧縮は、あくまで税務上の効果です。実際には、空室リスク、家賃下落、修繕費、金利上昇、建築費高騰、将来の売却可能性などを十分に確認する必要があります。
アパート新築は、節税対策であると同時に、不動産賃貸事業でもあります。
相続税が下がるかどうかだけでなく、将来にわたって安定した収益を生むか、相続人にとって管理しやすい資産か、借入金の返済に無理がないかを総合的に検討することが大切です。
あおぎり不動産鑑定では、アパート用地、賃貸住宅、収益不動産について、不動産鑑定評価、価格調査、収支分析、物件調査、法務局調査、役所調査、現地確認、写真撮影等に対応しています。
アパート新築による相続対策、資産管理法人による不動産保有、賃貸住宅用地の価格検討などでお困りの方は、税理士等の専門家とも連携しながら、ぜひ一度ご相談ください。
あおぎり不動産鑑定
― 犀北・犀南の主要住宅エリア別に見る取引件数、平均単価、ばらつき ―
本稿では、国土交通省・不動産情報ライブラリの取引価格・成約価格データを基に、長野市内で一般的に住宅地、特に戸建住宅用地として売買される地域について、主要住宅エリア別 に取引状況を整理します。
地価公示や相続税路線価は、公的な価格指標として重要です。しかし、実際の住宅地取引では、駅距離、道路付け、画地規模、造成状況、周辺環境、売主・買主の事情などによって価 格が大きく変わります。そのため、地域ごとの実際の取引件数、平均単価、中央値、標準偏差を確認することは、売買価格の検討や相続時の市場価値把握に有効です。 今回は、犀川を境にした便宜上の区分として、犀北と犀南に分けたうえで、栗田・若里・中御所、高田・南高田、三輪・上松、吉田・稲田・徳間、篠ノ井、川中島町、青木島、稲里な ど、住宅地として認識しやすいエリアごとに集計しています。
1 取引件数では篠ノ井が最多です
取引件数別ランキングを見ると、最も取引件数が多いのは犀南の篠ノ井で、189件でした。次いで、犀北の稲葉・大豆島・松岡が164件、三輪・上松が162件、吉田・稲田・徳間が157件、 犀南の川中島町が131件となっています。
篠ノ井は、長野市南部の中心的な住宅エリアです。鉄道駅、幹線道路、商業施設、生活利便施設が一定程度そろっており、犀北中心部に比べると価格面で割安感があります。戸建住宅 用地として取得しやすいことも、取引件数の多さにつながっていると考えられます。
また、川中島町も取引件数上位に入っており、犀南エリア全体として住宅地取引が活発なことが分かります。犀南では、中心市街地に比べた価格の取得しやすさ、比較的まとまった住 宅地供給、幹線道路・商業施設へのアクセスなどが需要を支えています。

2 平均単価では栗田・若里・中御所が最も高くなっています
平均単価ランキングでは、犀北の栗田・若里・中御所が86,902円/㎡で最も高くなっています。次いで、高田・南高田が73,429円/㎡、東和田・西和田・平林が71,624円/㎡、吉田・稲田・ 徳間が68,267円/㎡、三輪・上松が66,978円/㎡となりました。
栗田・若里・中御所は、長野駅に近く、近年の駅周辺整備や区画整理事業により利便性が高まったエリアです。駅近の住宅地、マンション需要、生活利便施設、飲食店・レストラン等 の集積があり、住環境と利便性の両面から人気が高いといえます。
三輪・上松、吉田・稲田・徳間は、古くから住宅地として人気のあるエリアです。中心部へのアクセス、生活利便性、教育環境、既成住宅地としての安心感があり、取引件数も多く、
価格水準も比較的高くなっています。平均単価ランキングでも上位に入り、犀北の住宅地需要の厚さを示しています。


5 まとめ
長野市の主要住宅エリアを犀北・犀南に分けて見ると、取引件数では犀南の篠ノ井が最も多く、川中島町も上位に入りました。犀南は価格面での割安感があり、戸建住宅用地としての
取引が活発です。
一方、平均単価では、犀北の栗田・若里・中御所、高田・南高田、東和田・西和田・平林、吉田・稲田・徳間、三輪・上松が上位を占めました。駅前整備や区画整理事業により利便性
が高まった栗田・若里・中御所、古くから人気のある三輪・吉田方面の住宅地は、引き続き高い評価を受けています。
ただし、取引価格データは個別事情を含むため、表の平均値や中央値だけで個別不動産の価格を判断することはできません。実際の評価では、道路条件、面積、形状、地勢、用途地域、
上下水道、建物の有無、造成費、周辺環境などを確認し、対象不動産に近い取引事例を丁寧に比較する必要があります。
あおぎり不動産鑑定では、長野市をはじめとする長野県内の住宅地について、不動産鑑定評価、売買価格調査、相続税評価の検討、担保評価、物件調査、法務局調査等に対応しています。住宅地の売買、相続、遺産分割、担保評価、価格交渉、空き家・遊休地の処分などでお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
あおぎり不動産鑑定
過去5年間の取引から見る中心価格帯と地区差
長野市中心市街地で住宅用地を探す場合、土地価格はどの程度を目安にすればよいのでしょうか。公開された不動産取引価格情報のうち、長野市中心市街地の住宅地102件を集計すると、取引の中心は1㎡当たり7万円から10万円程度にあり、平均・中央値はいずれも約8万円/㎡となりました。
| ● 中心価格帯は7万~10万円/㎡ ● 最多価格帯は8万円台 ● 10万円/㎡以上は栗田、鶴賀、若里などで目立つ ● 同じ中心部でも、接道・形状・面積によって価格差が大きい |
100㎡の土地なら約800万円、200㎡なら約1,600万円が単純換算の目安となります。ただし、実際の取引価格は、道路幅員、間口、土地の形状、用途地域、駅までの距離などによって大きく異なります。
この記事で分かること
本記事では、価格帯別の分布、10万円/㎡以上の取引が多い地区、地区別の中央値、最近の取引水準の変化を順に確認します。平均値だけでは捉えにくい中心市街地の価格差を、取引件数と中央値を併用して読み解きます。
中心価格帯は7万~10万円/㎡
価格帯別にみると、7万円以上10万円未満の取引は47件で、全体の約46%を占めます。特に8万円台が18件と最も多く、9万円台が15件、7万円台が14件でした。このため、長野市中心市街地の一般的な住宅地価格を把握する際は、まず7万~10万円/㎡を中心帯として考えるのが分かりやすいといえます。

図1 住宅地取引の価格帯別件数(対象102件)
平均と中央値はいずれも約8万円/㎡
対象取引の平均単価は約8.0万円/㎡、中央値は8.0万円/㎡でした。高額取引が平均を押し上げる可能性があるため、実感に近い代表値としては中央値も併せて確認することが重要です。
また、3万~4万円台や10万円/㎡以上にも一定数の取引があります。これは、中心市街地であっても土地の使いやすさや立地条件に差があり、一律の相場では説明できないことを示しています。
10万円/㎡を超える取引はどこで多いか
10万円/㎡以上の取引は、大字栗田が6件で最も多く、次いで大字鶴賀4件、若里3件、七瀬2件でした。中御所、大字中御所、大字南長野でも各1件が確認されています。

図2 10万円/㎡以上の取引件数
長野駅東口側の栗田で高価格取引が多い
大字栗田は長野駅東口に近く、戸建住宅だけでなく共同住宅用地としての需要も見込まれる地域です。対象10件のうち6件が10万円/㎡以上であり、地区の中央値も約10.5万円/㎡でした。中心市街地の中でも、高価格帯の取引が比較的継続して確認される地区といえます。
鶴賀・若里は利便性と個別条件の両方が影響
大字鶴賀は長野駅、市役所、権堂方面への接近性を備える一方、地区の範囲が広く、用途地域や街区、接道条件の違いも大きい地域です。そのため、取引価格の幅も広くなっています。若里も長野駅南側の利便性を有しますが、敷地規模や道路条件により単価差が生じています。
七瀬では高額取引が確認されていますが、対象は2件にとどまります。取引件数の少ない地区は、1件の高額事例によって平均が大きく動くため、地区全体が常に高いと断定せず、「高額取引が確認された」と表現するのが適切です。
地区別の中心価格と、同じ中心部でも差が出る理由

図3 地区別中央値(取引件数4件以上)
| 地区名 | 取引件数 | 中央値(万円/㎡) |
| 大字栗田 | 10 | 10.5 |
| 若里 | 16 | 8.2 |
| 大字鶴賀 | 25 | 8.0 |
| 大字中御所 | 4 | 7.5 |
| 中御所 | 11 | 7.4 |
| 大字南長野 | 13 | 6.7 |
| 大字長野 | 12 | 6.2 |
善光寺周辺が必ずしも高単価とは限らない
大字南長野や大字長野は、県庁や善光寺に近い中心部ですが、中央値は6万円台でした。既成市街地では、道路が狭い土地、間口が狭い土地、不整形地、規模の小さい土地なども含まれ、建物の配置や再建築のしやすさが価格に反映されやすくなります。
中心市街地の土地価格をみる際は、「駅から近いか」だけでなく、前面道路の幅員と種類、接道方向、間口、土地形状、面積、用途地域を確認することが重要です。利便性が高くても、利用しにくい土地は単価が抑えられる場合があります。
最近の取引水準と、相場を見る際の注意点

図4 年別の平均単価・中央値
年別では、2023年から2024年にかけて中央値が8万円台半ばとなり、比較的高い価格帯の取引が多く観測されました。一方、2025年は収録期間が限られ、件数も少ないため、通年の傾向として評価するには注意が必要です。
年ごとの平均は「地価上昇率」ではない
不動産取引価格情報は、毎年同じ土地を追跡した指数ではありません。各年に取引された土地の場所、面積、形状、接道条件が異なるため、平均や中央値の変化には、取引された物件構成の違いも含まれます。したがって、年次データは地価の上昇率を直接示すものではなく、その年にどの価格帯の成約が多かったかを把握する資料として用いるのが適切です。
まとめ
長野市中心市街地の住宅地取引は、7万~10万円/㎡に厚みがあり、中心的な水準は約8万円/㎡です。大字栗田、大字鶴賀、若里などでは10万円/㎡以上の取引が目立つ一方、善光寺周辺を含む既成市街地では、接道や土地形状などの個別条件によって6万円台の取引もみられます。
同じ「中心市街地」であっても、価格は駅距離だけでは決まりません。土地の使いやすさ、周辺環境、法令上の制約を含めて、個別に判断することが必要です。
注:本記事は、国土交通省の不動産取引価格情報を基に、提供データに収録された長野市中心市街地の住宅地取引102件を集計した市場概況である。個別の土地価格を示すものではなく、不動産鑑定評価又は価格査定を代替するものではない。
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