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不動産鑑定士のためのQGIS備忘録

不動産鑑定士のためのQGIS備忘録

― SHP、XYZタイル、ベクタータイルを重ねて不動産調査に使う ―

最近、不動産鑑定の調査でQGISを使う機会が増えてきました。

QGISは無料で利用できるGIS(地理情報システム)ですが、最初は、

「SHPとは何か」
「XYZタイルとベクタータイルは何が違うのか」
「URLをどこに入れるのか」

など、少し分かりにくいところがあります。

一度設定してしまえば便利なのですが、しばらく触らないと自分でも忘れてしまいます。

そこで今回は、将来の自分が設定を忘れたときのための備忘録も兼ねて、不動産鑑定士の実務で使いやすいQGISの基本設定をまとめておきたいと思います。

特に便利なのが、

地価公示・地価調査地点
+用途地域
+災害区域
+航空写真
+人口メッシュ
+各種行政区域

など、別々に公開されている情報を一枚の地図上に重ねられることです。

不動産鑑定との相性はかなり良いと思います。


1 まずはSHP(シェープファイル)をQGISに取り込む

QGISを利用するうえで基本になるのが、SHP、いわゆるシェープファイルです。

シェープファイルには、点・線・面と、それに付随する属性情報を持たせることができます。

例えば、

地価公示地点を「点」
用途地域を「面」
道路を「線」

としてQGIS上に表示することができます。

不動産鑑定士向けのデータについては、データの種類にもよりますが、各種公開サイト、不動産鑑定士協会関係の会員向けページ、G空間情報センターなどから入手できる場合があります。

私の場合、久しぶりに探すときは、

「QGIS ○○県 SHP」

などで検索するところから始めています。

G空間情報センターでは、例えば法務省の登記所備付地図データについて、XMLだけでなく、QGISで扱いやすいシェープファイルやGeoJSONに変換済みのデータも公開されています。

SHPファイルで注意したいこと

「.shp」というファイルだけ保存すればよいように見えますが、実際には、

.shp
.shx
.dbf
.prj

など複数のファイルで構成されていることがあります。

したがって、ZIPを解凍した後も、原則として一式を同じフォルダに置いておいた方が安全です。

QGISでは、

「レイヤ」→「レイヤを追加」→「ベクタレイヤを追加」

から読み込むことができます。

単純なSHPなら、QGISの画面へドラッグ&ドロップするだけでも表示できます。


2 XYZタイルを追加する

次に非常に便利なのがXYZタイルです。

QGISの「ブラウザ」パネルにある

XYZ Tiles

を右クリックし、

「新規接続」

を選択します。

そこで任意の名前とURLを登録します。

一度登録してしまえば、その後はダブルクリックするだけで背景地図や航空写真を表示できます。

国土地理院は多数の「地理院タイル」を公開しており、QGISから直接読み込むことができます。地理院タイルをソフトウェア上でリアルタイムに読み込んで利用する場合について、国土地理院は出典表示等の利用方法も案内しています。


私が登録しておきたいXYZタイル

名称URL
地理院地図・淡色地図https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/pale/{z}/{x}/{y}.png
全国最新写真(シームレス)https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/seamlessphoto/{z}/{x}/{y}.jpg
1987~1990年航空写真https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/gazo4/{z}/{x}/{y}.jpg
1984~1986年航空写真https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/gazo3/{z}/{x}/{y}.jpg
1979~1983年航空写真https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/gazo2/{z}/{x}/{y}.jpg
1974~1978年航空写真https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/gazo1/{z}/{x}/{y}.jpg
1961~1969年航空写真https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/ort_old10/{z}/{x}/{y}.png
1945~1950年航空写真https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/ort_USA10/{z}/{x}/{y}.png
洪水浸水想定区域・想定最大規模https://disaportaldata.gsi.go.jp/raster/01_flood_l2_shinsuishin_data/{z}/{x}/{y}.png
土砂災害警戒区域・土石流https://disaportaldata.gsi.go.jp/raster/05_dosekiryukeikaikuiki/{z}/{x}/{y}.png
土砂災害警戒区域・急傾斜地https://disaportaldata.gsi.go.jp/raster/05_kyukeishakeikaikuiki/{z}/{x}/{y}.png
土砂災害警戒区域・地すべりhttps://disaportaldata.gsi.go.jp/raster/05_jisuberikeikaikuiki/{z}/{x}/{y}.png

国土地理院では、1970~80年代だけでなく、1961~1969年、1945~1950年などの年代別航空写真もタイルとして公開しています。地域によって撮影・整備状況は異なりますが、地歴調査をするのであれば登録しておいて損のないレイヤです。

また、全国最新写真(シームレス)は、一種類の同一撮影時点の航空写真ではなく、国土地理院や林野庁、地方公共団体等の複数の写真から、その地域について比較的新しいものを組み合わせたレイヤです。撮影時期については別途確認できるため、鑑定評価で撮影時点が重要な場合は確認しておいた方がよいと思います。


3 地歴調査では年代別航空写真が非常に便利

不動産鑑定の実務で特に使えると思うのが年代別航空写真の比較です。

例えば現在は住宅地になっている土地でも、

1970年代は農地だったのか、
以前から宅地だったのか、
造成によって地形が変わったのか、
かつて水路や池が存在していなかったか、
工場や事業所として使われていなかったか、

といったことを時系列で確認できます。

QGISの場合、年代別航空写真をそれぞれレイヤとして登録しておけば、

1970年代 → 1980年代 → 現在

とレイヤの表示・非表示を切り替えるだけで比較できます。

ブラウザで毎回住所を検索し直す必要がありません。

一度対象地を表示してしまえば、同じ縮尺、ほぼ同じ位置で年代を切り替えられるのが大きな利点です。

個人的には、これはQGISを導入するだけでもかなり作業効率が上がる部分だと思います。


4 ハザード情報もQGISに直接重ねる

不動産調査では、

洪水
土砂災害
急傾斜地
地すべり

などの確認も欠かせません。

国土地理院の「ハザードマップポータルサイト」では、洪水や土砂災害などの情報を「重ねるハザードマップ」で確認できます。

さらに、これらの一部はXYZ形式のタイルとして公開されているため、QGISに直接読み込むこともできます。

例えば洪水浸水想定区域(想定最大規模)は、

https://disaportaldata.gsi.go.jp/raster/01_flood_l2_shinsuishin_data/{z}/{x}/{y}.png

です。

土砂災害警戒区域についても、土石流、急傾斜地の崩壊、地すべりをそれぞれ別レイヤとして登録できます。

ハザードマップポータルの土砂災害警戒区域データは、2026年8月にも更新が行われています。したがって、過去に保存した画像だけを見るのではなく、評価時点では最新の行政資料と併せて確認する必要があります。


5 XYZタイルとベクタータイルは何が違うのか

ここは最初に少し混乱したところです。

一言でいうと、

XYZタイルは「完成した地図の画像」

で、

ベクタータイルは「道路・建物・地名などの地物データを取得してQGIS側で描画するもの」

と考えると分かりやすいと思います。

国土地理院自身も、従来の画像タイルに対してベクトルタイルは機械判読可能であり、属性に応じて色や線の太さなどを変更できることを特徴として挙げています。

両者の違い

XYZタイルベクタータイル
中身地図画像点・線・面等の地物情報
拡大拡大すると画像的になる比較的きれいに描画できる
色変更基本的にできない可能
道路等の表示変更難しいスタイルにより可能
背景の調整限定的柔軟
SHPのような編集不可原則としてそのまま編集する用途ではない
用途背景地図、航空写真等独自デザインの地図等

鑑定評価書に載せる位置図を作る場合、

「建物は薄くしたい」
「道路だけ目立たせたい」
「地名は残したい」
「余計な情報を表示したくない」

ということがあります。

こうした場合には、画像として完成しているXYZタイルよりも、ベクタータイルの方が自由度があります。


6 国土地理院のベクタータイルをQGISに登録する

QGISのブラウザパネルから、

「ベクタータイル」→右クリック→「新規一般接続」

を選択します。

QGISのバージョンによって多少表示名が違うことがありますが、基本的には、

名前
Source URL
Style URL
最小ズーム
最大ズーム

などを設定します。

Source URL

国土地理院の地理院地図Vectorのベクトルタイルは、現在次のURLで提供されています。

https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/experimental_bvmap/{z}/{x}/{y}.pbf

公式資料ではズームレベル4~16で提供され、17については16のデータをオーバーズームして表示する仕組みです。データは2026年4月1日時点まで更新されています。

なお、このデータは現在も「提供実験」という位置づけなので、URLや仕様が将来変更される可能性があります。

Style URLとは

Style URLは、

道路は何色にするか
建物は何色にするか
線の太さをどうするか
文字をどう表示するか

といった「地図の見た目」を決める設定です。

一方、Source URLは、

道路や建物などの実際のデータをどこから取得するか

を指定しています。

つまり、

Source URL = 地図の材料

Style URL = 材料をどう描くか

と覚えておくと、次回忘れにくいと思います。

国土地理院は地理院地図Vectorについて、利用者が地図のデザインを変更できるウェブ地図として公開しており、ベクトルタイルデータも定期的に更新しています。


7 QGISの本当の便利さは「重ねる」こと

単に地図を見るだけなら、地理院地図やGoogle Mapsなどでも十分です。

QGISの強みは、

異なる機関が作った複数のデータを、同じ位置に重ねて見ることができること

だと思います。

例えば、

地価公示地点 + 土砂災害警戒区域

を重ねます。

すると、

「この地域の標準地は災害区域の内側なのか外側なのか」

を視覚的に確認できます。

さらに、

用途地域 + 地価公示地点

とすれば、用途地域境付近における価格差を検討できます。


8 不動産鑑定で考えられる利用方法

私が現在考えているだけでも、QGISはかなり多くの場面に使えそうです。

地歴調査

年代別航空写真を切り替えて、対象地や周辺地域の土地利用の変化を確認する。

災害リスク調査

対象地、取引事例、地価公示地点と洪水・土砂災害区域を同時に表示する。

人口動態の分析

人口増減メッシュと住宅地の取引価格を重ねて、

人口が増えている地域と地価が上昇している地域が一致しているか

を見る。

工業地域の分析

工業団地の範囲と地価公示・地価調査地点を重ねる。

工業地の場合、単純な市町村平均ではなく、

高速ICへのアクセス
工業団地内外
用途地域
画地規模

などが価格に影響するため、地図上での比較が非常に分かりやすくなります。

法令・行政区域の確認

データが公開されていれば、

用途地域
防火・準防火地域
都市計画区域
自然公園
農業関係区域

なども重ねて確認できます。


9 「点」ではなく「地域」として価格を見ることができる

これは不動産鑑定士にとってかなり重要だと思います。

例えば地価公示地点をExcelで見ると、

A地点 60,000円/㎡
B地点 55,000円/㎡
C地点 48,000円/㎡

という単なる数値です。

しかしQGIS上に表示すると、

「この地点から用途地域が変わっている」
「この先から傾斜地になっている」
「こちら側だけ洪水区域に入っている」
「駅を中心として価格が分布している」

といった空間的な価格形成要因が見えてきます。

不動産価格は場所によって形成されるものなので、表計算だけを見るよりもGISとの相性がよいのは当然なのかもしれません。


10 個人的に一番欲しいのは「道路台帳」

QGISを使っていて、個人的に最も公開が進んでほしいと思ったのが道路台帳です。

もし自治体の道路台帳がGISデータとして広く公開され、

道路種別
道路幅員
認定道路
道路区域

などをQGISで確認できるようになれば、不動産鑑定の取引事例作成や現地調査はかなり効率化されると思います。

例えば取引事例を作成するとき、

航空写真
公図
用途地域
地価公示地点
道路台帳

を同じ画面に重ねることができれば、現地調査前の準備として相当な情報を把握できます。

もちろん、最終的には行政照会や現地確認が必要ですが、「どこを重点的に確認すべきか」を事前に絞り込む道具として非常に有用です。


QGISは鑑定を自動化するものではなく、「気付くための道具」

QGISを使えば鑑定評価が自動的にできるわけではありません。

むしろ私が便利だと感じているのは、

複数の情報を同じ地図上に置くことで、今まで気付かなかった価格形成要因に気付きやすくなること

です。

取引事例の価格が少し低い。

なぜだろうと思って地図を見ると、その地点だけ災害区域に入っている。

ある地域だけ地価が上昇している。

人口メッシュを重ねると、その周辺だけ人口が増えている。

こうしたことが視覚的に分かります。

不動産鑑定では、最後は現地を見て、行政に確認し、資料を読み、鑑定士自身が判断しなければなりません。

それでも、

「何を調べるべきか」
「どこが他と違うのか」
「価格差の原因はどこにあるのか」

を見つけるための道具として、QGISは非常に便利だと思います。

今回は完全に自分自身の備忘録を兼ねた記事ですが、今後便利なデータや使い方を見つけたら、随時追記していきたいと思います。


参考

国土地理院の地理院タイルには、今回取り上げたもの以外にも、陰影起伏図、傾斜量図、治水地形分類図、活断層図、土地条件図など、不動産調査との相性が良いデータがかなりあります。公式の「地理院タイル一覧」からURLを確認できます。

ハザード情報についても、公開されているタイルは随時更新されるため、最新のURL・データ内容・利用条件はハザードマップポータルサイトのオープンデータページで確認するのが確実です。

あおぎり不動産鑑定

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