― 福井県は34年ぶり上昇、新幹線沿線と非沿線の二極化が鮮明に ―
令和8年7月1日、国税庁から令和8年分の相続税路線価が公表されました。
路線価とは、相続税や贈与税を計算する際に、土地の評価額を算定するための基準となる価格です。毎年1月1日時点の価格として公表され、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額として示されます。
一般的に、路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定されます。そのため、実際の売買価格そのものではありませんが、相続税・贈与税の評価、資産承継、相続対策、不動産の概況把握において重要な指標になります。
令和8年分の福井県の路線価を見ると、県内の平均変動率は前年比0.2%の上昇となりました。福井県の平均変動率が上昇に転じたのは34年ぶりであり、北陸新幹線の県内延伸効果を背景に、福井駅前や敦賀駅前などで上昇傾向が続いていることが大きな要因と考えられます。
一方で、北陸新幹線沿線以外の大野市や小浜市の中心部では下落が見られ、県内の不動産市場では二極化の傾向がより明確になっています。
1 福井県の路線価は34年ぶりに上昇
金沢国税局の公表によると、令和8年分の福井県内標準宅地の平均変動率は、前年比0.2%の上昇となりました。
福井県では長らく地価下落が続いてきましたが、今回、34年ぶりに平均変動率が上昇に転じたことは大きな節目といえます。
県内の標準宅地は3,458地点で、このうち継続して算出されている3,450地点を見ると、上昇が845地点、横ばいが2,026地点、下落が579地点とされています。
上昇地点よりも横ばい地点が多く、県全体が一気に強い上昇局面に入ったというよりは、福井駅前、敦賀駅前、福井市内の一部住宅・商業地など、需要の強い地域が平均を押し上げた形と見るのが自然です。
つまり、令和8年分の福井県路線価は、「県全体としては34年ぶりに上昇したが、地域差は大きい」という結果であったといえます。
2 県内最高路線価は福井駅西口広場通り
福井県内で最も路線価が高かったのは、福井市中央1丁目の「福井駅西口広場通り」です。
令和8年分の路線価は1㎡当たり41万円で、前年の40万円から2.5%上昇しました。
福井駅西口は、福井県の県都である福井市の中心部に位置し、JR、ハピラインふくい、えちぜん鉄道、福井鉄道、バス交通などが集まる交通結節点です。駅周辺には、商業施設、ホテル、オフィス、飲食店、行政・文化施設、マンションなどが集積しており、県内でも最も都市機能が集中するエリアの一つです。
令和6年3月の北陸新幹線福井延伸により、福井駅は首都圏・北陸方面との広域交通拠点としての性格をさらに強めました。
開業直後のような急激な期待感はやや落ち着きつつあるものの、駅周辺では引き続き再開発が進んでおり、今後も駅前人口の増加や商業・宿泊需要の拡大が見込まれます。
福井駅西口広場通りの上昇は、単なる新幹線開業効果だけでなく、県都中心部としての都市機能、再開発、ホテル・商業需要、マンション需要が複合的に反映されたものと考えられます。
3 福井駅前の上昇率は鈍化したが、上昇傾向は継続
福井駅西口広場通りの変動率は、令和8年分で2.5%の上昇でした。
前年の令和7年分では5.3%の上昇であったため、上昇率は縮小しています。これは、北陸新幹線延伸の開業効果が一巡し、民間投資の動きがやや落ち着いてきたことも影響していると考えられます。
しかし、上昇率が鈍化したからといって、駅前需要が弱くなったわけではありません。
福井駅前では南通り地区などで再開発が進んでおり、駅周辺の居住人口増加、商業施設の更新、ホテル需要、観光客・ビジネス客の流入などが期待されています。
地方都市では、駅前商業地の空洞化が課題となることもありますが、福井駅前については、新幹線延伸と再開発が重なったことで、県内でも相対的に強い不動産需要が認められるエリアといえます。
4 敦賀駅前広場通りも大きく上昇
敦賀市では、「敦賀駅前広場通り」が1㎡当たり7万3,000円となり、前年比4.3%の上昇となりました。
敦賀駅は、令和6年3月の北陸新幹線敦賀延伸により、当面の新幹線発着地となっています。首都圏・北陸方面からのアクセスが向上し、駅前への注目度が高まっています。
敦賀市は、港湾都市、交通結節点、原子力関連施設の立地、観光・宿泊需要など、複数の地域特性を持つ都市です。敦賀港、国道8号、北陸自動車道、JR北陸本線・小浜線などがあり、福井県嶺南地域の拠点都市としての性格も有しています。
新幹線延伸により、敦賀駅周辺ではホテル、飲食、商業、観光案内、交通結節機能への期待が高まっています。
福井駅前と比べると路線価の絶対水準は低いものの、変動率では敦賀駅前の方が高く、延伸効果が引き続き価格に反映されていると考えられます。
5 森田地区では住宅・商業需要が伸びている
福井市北部の森田地区も、近年注目されるエリアです。
県道の部分開通などにより利便性が高まり、住宅需要や商業需要が伸びているとされています。
森田地区は、福井市中心部の北側に位置し、住宅地としての開発が進んでいる地域です。幹線道路や商業施設へのアクセスが良く、福井市中心部への通勤圏としても利用しやすい立地にあります。
地方都市では、駅前中心部だけでなく、幹線道路沿いや新興住宅地、生活利便施設が集まる郊外部でも地価が上昇することがあります。
森田地区のように、道路整備によって生活利便性が向上し、住宅地として選ばれやすくなった地域では、土地需要が強まり、路線価にも影響する可能性があります。
この点は、福井県全体の平均変動率を押し上げた要因の一つと考えられます。
6 越前市・坂井市は横ばい
越前市府中1丁目の「駅前通り」は1㎡当たり4万8,000円、坂井市春江町随応寺の「嶺北縦貫線」は1㎡当たり4万2,000円で、いずれも前年から変化はありませんでした。
越前市は、福井県中部に位置し、武生駅周辺の中心市街地、製造業の集積、住宅地、商業地などを有する地域です。北陸新幹線の新駅である越前たけふ駅も整備され、今後の交通利便性向上や企業活動への影響が注目されます。
一方、越前市府中の駅前通りは、旧来の中心市街地としての性格もあり、強い上昇というよりは一定の地域需要を維持している状況と考えられます。
坂井市春江町随応寺の嶺北縦貫線沿いは、福井市の北側に位置し、ロードサイド型商業施設や住宅地との関係が深い地域です。春江地区は福井市への通勤圏としての性格もあり、一定の生活利便需要を有しています。
横ばいという結果は、価格が弱いというよりも、大きく上昇するほどの強い材料はないものの、地域の住宅・商業需要に支えられて下落は回避している、と見ることができます。
7 小浜市駅前町は下落
一方、小浜市駅前町の「国道162号」は、1㎡当たり4万4,000円となり、前年比2.2%の下落となりました。
小浜市は、福井県嶺南地域の西部に位置し、若狭湾、鯖街道、寺社文化、食文化などを有する歴史ある都市です。
観光資源を有する一方で、福井市や敦賀市のような新幹線開業効果はまだ直接的には及んでいません。
現在、敦賀以西の北陸新幹線延伸ルートとして「小浜・京都ルート」が議論されていますが、現時点では具体的な整備時期や沿線開発の内容が不透明な面があります。
そのため、将来期待はあるものの、令和8年分の路線価には、人口減少、中心市街地の需要低下、商業機能の弱まりなどが反映され、下落となったと考えられます。
小浜市については、今後、新幹線延伸ルートが具体化し、都市計画や駅周辺整備の方向性が明確になれば、不動産市場に影響が出る可能性があります。
8 大野市七間通りは5年連続下落
大野市元町の「七間通り」は、1㎡当たり2万3,000円となり、前年比4.2%の下落でした。5年連続の下落とされています。
大野市は、福井県東部に位置し、越前大野城、城下町、水のまちとしての観光資源を有する地域です。七間通りは、歴史的な街並みや朝市などでも知られる中心市街地です。
しかし、人口減少、中心市街地の商業需要の低下、郊外型店舗への顧客流出、空き店舗・空き家の増加などが、地価に影響していると考えられます。
観光資源がある地域でも、日常的な商業需要や居住需要が弱ければ、路線価は下落しやすくなります。
大野市のような地域では、観光振興、空き家活用、中心市街地再生、移住定住施策などが、不動産市場の下支え要因となる可能性がありますが、現時点では下落傾向が続いているといえます。
9 新幹線沿線と非沿線の二極化
令和8年分の福井県路線価で最も大きな特徴は、新幹線沿線と非沿線の二極化です。
福井駅前、敦賀駅前では、北陸新幹線の県内延伸効果、駅周辺再開発、ホテル・商業需要、交通利便性の向上などを背景に上昇が続いています。
また、福井市森田地区のように、道路整備や生活利便性向上によって住宅・商業需要が伸びる地域もあります。
一方で、小浜市や大野市の中心部では下落が続いています。これらの地域では、人口減少、商業機能の弱まり、駅前・中心市街地の需要低下が課題となっています。
つまり、同じ福井県内でも、新幹線駅周辺や交通利便性の高い地域では上昇し、沿線外・中心市街地需要の弱い地域では下落するという、地域差が明確になっています。
これは、長野県や石川県、新潟県でも見られる傾向と共通しています。県全体の平均変動率だけではなく、各地域の交通利便性、人口動態、商業集積、観光需要、産業構造を個別に見る必要があります。
10 敦賀以西の延伸ルートにも注目
今後の福井県の不動産市場を見るうえでは、北陸新幹線の敦賀以西の延伸ルートも重要です。
特に、小浜・京都ルートが具体化すれば、小浜市を含む沿線自治体で都市計画や駅周辺整備の検討が進む可能性があります。
新幹線の新駅が設置される地域では、駅前広場、道路、商業施設、ホテル、住宅地、駐車場、公共施設などの整備が行われることがあります。これにより、土地利用や地価に大きな影響が生じる可能性があります。
ただし、新幹線効果はすべての地域で同じように表れるわけではありません。
駅の位置、周辺の人口規模、観光資源、企業立地、商業集積、交通結節性、都市計画の内容によって、価格への影響は大きく異なります。
そのため、小浜市など今後の延伸ルートに関係する地域では、単に「新幹線が来るかもしれない」という期待だけでなく、具体的な駅位置、整備時期、都市計画、民間投資の動向を慎重に見る必要があります。
11 路線価上昇は相続税にも影響する
路線価は、相続税や贈与税の土地評価に使われます。
そのため、路線価が上昇すると、同じ土地を所有していても、相続税評価額が上がる可能性があります。
たとえば、福井駅西口広場通りの路線価は、前年の40万円/㎡から41万円/㎡に上昇しました。
仮に、同通り沿いに100㎡の土地を所有していると単純計算した場合、評価額のイメージは次のようになります。
前年:40万円 × 100㎡ = 4,000万円
令和8年:41万円 × 100㎡ = 4,100万円
この場合、単純計算では土地の評価額が100万円上昇することになります。
また、敦賀駅前広場通りでは、路線価が7万3,000円/㎡となっています。駅前の土地を200㎡所有している場合、単純計算では次のようになります。
7万3,000円 × 200㎡ = 1,460万円
実際には、奥行価格補正、不整形地補正、間口狭小補正、二方路線影響加算、借地権割合、貸家建付地評価、小規模宅地等の特例などにより評価額は変わりますが、路線価の上昇は相続税評価額に直接影響する重要な要素です。
福井駅前、敦賀駅前、福井市森田地区など、近年上昇傾向のある地域に土地を所有している方は、最新の路線価を確認しておくことが大切です。
12 下落地域でも相続対策は必要
一方で、大野市や小浜市のように路線価が下落している地域では、相続税評価額が下がる可能性があります。
しかし、路線価が下がったから相続対策が不要になるわけではありません。
むしろ、下落地域では、相続税評価額よりも「実際にその不動産をどうするか」が重要になる場合があります。
たとえば、中心市街地の古い建物を相続した場合、解体費、修繕費、固定資産税、空き家管理、境界確認、売却可能性などが問題になります。
相続税評価額が低くても、実際には売却が難しい、維持管理費がかかる、相続人が利用しない、共有になって処分できない、といった問題が発生することがあります。
特に地方都市の中心部では、建物が老朽化している場合や、店舗兼住宅としての利用需要が弱い場合、相続後の処分・活用に時間がかかることがあります。
そのため、路線価が下落している地域でも、早めに不動産の現状を確認し、売却、賃貸、解体、活用、相続人間の分割方法を検討しておくことが大切です。
13 相続対策では「評価額」と「市場価値」の両方を見る
相続税の計算では路線価が重要です。
しかし、不動産の実際の価値を考える場合には、路線価だけでは不十分です。
たとえば、同じ路線価の土地であっても、形状が良い土地と悪い土地、道路付けが良い土地と悪い土地、建築しやすい土地と造成費がかかる土地では、市場での評価は異なります。
商業地では、歩行者通行量、観光客の回遊性、店舗としての視認性、駐車場の有無、テナント需要、収益性などが価格に影響します。
住宅地では、学校、スーパー、病院、公共交通、道路幅員、災害リスク、周辺環境などが重要です。
また、福井県のように新幹線延伸や道路整備の影響を受ける地域では、将来の都市計画や交通網の変化も重要です。
つまり、相続対策では、相続税評価額だけではなく、その不動産が実際に売れるのか、誰が使うのか、維持管理費はいくらかかるのか、相続人が共有して問題にならないか、といった実務的な視点も重要です。
14 令和8年分路線価から見る福井県不動産市場
令和8年分の相続税路線価から見える福井県不動産市場の特徴は、大きく三つあります。
第一に、福井県全体として34年ぶりに上昇へ転じたことです。平均変動率は前年比0.2%の上昇となり、長年続いた下落基調からの転換点となりました。
第二に、北陸新幹線県内延伸の影響です。福井駅西口広場通りは41万円/㎡、敦賀駅前広場通りは7万3,000円/㎡となり、駅前エリアで上昇傾向が続いています。
第三に、県内の二極化です。福井駅前、敦賀駅前、福井市森田地区のように上昇・堅調な地域がある一方で、小浜市駅前町や大野市七間通りのように下落が続く地域もあります。
つまり、福井県の不動産市場は、県全体の平均だけを見るのではなく、新幹線沿線かどうか、駅前再開発が進んでいるか、道路整備により利便性が高まっているか、人口や商業需要が維持されているかを個別に確認する必要があります。
15 まとめ
令和8年分の相続税路線価では、福井県内の平均変動率が前年比0.2%の上昇となり、34年ぶりに上昇へ転じました。
県内最高路線価は、福井市中央1丁目の「福井駅西口広場通り」で、1㎡当たり41万円、前年比2.5%の上昇でした。北陸新幹線の県内延伸や駅前再開発、商業・宿泊・マンション需要が価格を支えていると考えられます。
敦賀市白銀町の「敦賀駅前広場通り」も1㎡当たり7万3,000円、前年比4.3%の上昇となりました。敦賀駅は当面の新幹線発着地であり、駅前への注目度が高まっています。
一方で、小浜市駅前町の「国道162号」は1㎡当たり4万4,000円、前年比2.2%の下落、大野市元町の「七間通り」は1㎡当たり2万3,000円、前年比4.2%の下落となりました。
越前市府中1丁目の「駅前通り」は1㎡当たり4万8,000円、坂井市春江町随応寺の「嶺北縦貫線」は1㎡当たり4万2,000円で、いずれも横ばいでした。
この結果から、福井県内では、北陸新幹線沿線や福井市内の利便性の高い地域では上昇が続く一方、沿線以外の中心部では下落が見られ、二極化が進んでいることが分かります。
路線価は、相続税や贈与税の評価に使われる重要な指標ですが、実際の売買価格そのものではありません。不動産の価値は、路線価だけでなく、立地、道路付け、形状、地勢、建物状態、収益性、災害リスク、都市計画、売却可能性などを総合的に見て判断する必要があります。
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