―2026年の戸建住宅・共同住宅・店舗の建築費を統計から読む
近年、不動産価格を考えるうえで無視できなくなっているのが、土地価格そのものよりもむしろ「建築費」の上昇である。住宅、共同住宅、店舗のいずれについても、数年前の建築費単価をそのまま現在の事業収支に当てはめることは難しくなっている。
長野県も例外ではない。資材価格の上昇に加え、人件費、設備費、運送費等が上昇しており、新築建物の取得コストは2020年前後と比較して明らかに高い水準となっている。
建築費は2020年度から約25~30%上昇
国土交通省の「建設工事費デフレーター」は、建設工事費の物価変動を把握する代表的な統計である。2026年4月分から基準が「2020年度平均=100」に改定されており、最新公表値は2026年5月までとなっている。
同月次データを見ると、2026年5月の指数は、建築総合126.4、住宅総合127.1、木造住宅126.7、鉄骨造住宅128.8、非住宅総合125.6、鉄骨造非住宅125.6となっている。
すなわち、2020年度を100とすれば、住宅・非住宅とも建築コストはおおむね25~30%程度上昇した計算となる。特に鉄骨造住宅は128.8であり、約29%の上昇となっている。
| 時点 | 建築総合 | 住宅総合 | 鉄骨造住宅 |
|---|---|---|---|
| 2020年平均 | 約100 | 約100 | 約100 |
| 2021年平均 | 104.1 | 105.6 | 105.2 |
| 2022年平均 | 112.2 | 114.9 | 115.4 |
| 2023年平均 | 113.7 | 114.6 | 116.7 |
| 2024年平均 | 118.0 | 118.4 | 120.5 |
| 2025年平均 | 121.1 | 121.5 | 123.4 |
| 2026年5月 | 126.4 | 127.1 | 128.8 |
2021~2022年に資材価格を中心として大きく上昇した後、一旦上昇幅が縮小したものの、2024年以降も再び上昇している。さらに、2026年3月から適用される公共工事設計労務単価は前年から全職種単純平均で4.5%引き上げられており、労務費についても上昇傾向が継続している。なお、公共工事の労務単価であるため民間建築費と直接一致するものではないが、人件費を取り巻く環境を示す参考指標となる。
2026年7月の主要建設資材調査でも、需給自体はおおむね均衡している一方、異形棒鋼、H形鋼、型枠用合板等の一部資材については、なお「やや上昇」とされている。したがって、資材不足による急騰期は脱したとしても、建築費が以前の水準へ戻る状況にはない。
建築費の上昇とともに住宅着工は減少
建築費の上昇は、住宅市場にも影響を与えている。
長野県の2025年度(2025年4月~2026年3月)の新設住宅着工戸数は9,847戸であり、前年度の11,254戸から約12.5%減少した。内訳では、持家が6,148戸から5,201戸へ約15.4%減、貸家が3,144戸から3,038戸へ約3.4%減、分譲住宅が1,896戸から1,386戸へ約26.9%減となっている。
長野県住宅審議会においても、物価、金利、建築コスト上昇等によって住宅市場が構造的な転換期にあること、また2025年4月からの省エネ基準適合義務化に伴う着工時期の変動が指摘されている。
もっとも、2026年6月の県内新設住宅着工は889戸で前年同月比19.2%増となり、持家493戸は32.9%増、貸家298戸は7.6%増となっている。月単位では回復もみられるため、着工戸数については今後の推移を見極める必要がある。
では、長野県で実際にどのくらいの建築費がかかるのか
建築費について注意したいのは、「建築着工統計の工事費予定額」と「実際の請負・取得費」は必ずしも同じではないことである。
建築着工統計は着工時に届け出られた工事費予定額であるため、最終的な追加工事や仕様変更、外構、設計監理、造成、引込工事等の扱いによって実際の支払額との差が生じる。一方、住宅金融支援機構の【フラット35】利用者調査は、実際に住宅を取得した利用者の建設費を把握できるため、戸建住宅の実勢を考えるうえで有用である。
戸建住宅 ― 木造で30万円/㎡台、実際の注文住宅は35~40万円/㎡程度
2025年の建築着工統計を長野県について集計すると、木造・持家・一戸建住宅の工事費予定額は、床面積1㎡当たり約30.4万円/㎡、坪換算では約100万円/坪である。持家一戸建全体でも約31.4万円/㎡となっている。
これに対し、住宅金融支援機構の2025年度【フラット35】利用者調査では、長野県の注文住宅94件について、1㎡当たり建設費は**平均39.5万円/㎡、中央値36.0万円/㎡**である。坪換算すると平均約131万円/坪、中央値約119万円/坪となる。同調査は都道府県別に実際の利用者データを集計したものである。
この差からも、着工統計上の「予定工事費」だけでは実際の住宅取得費を十分に表せないことが分かる。
したがって、2026年時点の長野県における一般的な木造戸建住宅では、統計上の建築費は30万円/㎡前後、実際の注文住宅の予算水準としては概ね35~40万円/㎡程度を一つの目安とすることができる。断熱性能、設備、外構、積雪対応、地盤改良等によってはこれを上回る。
共同住宅 ― 低層鉄骨造では30万円/㎡前後が統計上の中心
賃貸共同住宅について2025年の長野県の建築着工統計をみると、構造による差が比較的明瞭である。
| 貸家・共同住宅 | 工事費予定単価 | 坪換算 |
|---|---|---|
| 木造 | 約27.6万円/㎡ | 約91万円/坪 |
| 鉄骨造 | 約30.5万円/㎡ | 約101万円/坪 |
| RC造 | 約37.7万円/㎡ | 約125万円/坪 |
特に長野県内で多くみられる2階建程度の低層賃貸住宅を想定する場合、鉄骨造の統計上の工事費予定単価は約30.5万円/㎡となっている。
国税庁が公表する令和7年分の「地域別・構造別の工事費用表」でも、長野県は木造271千円/㎡、鉄骨造314千円/㎡、RC造589千円/㎡とされており、少なくとも木造・鉄骨造については、建築着工統計から把握される水準と大きく矛盾しない。なお、この資料は用途別の市場価格表ではないため、あくまで構造別の補助的な比較資料として見る必要がある。
したがって、一般的な仕様の低層賃貸共同住宅については、木造で28~32万円/㎡程度、鉄骨造で30~35万円/㎡程度を現在の建築費を検討する際の実務的なレンジと考えるのが妥当である。RC造については建物規模や階数による差が大きく、40万円/㎡を超えるケースも珍しくない。
一般店舗 ― S造店舗で27~30万円/㎡前後
住宅以外では、店舗の建築費も上昇している。
国土交通省の2025年度「建築物・構造別・用途別・都道府県別」の長野県データから、店舗の工事費予定額を床面積で除すると、店舗全体では約27.8万円/㎡、このうち鉄骨造店舗では**約27.3万円/㎡**となる。坪換算では約90~92万円/坪である。
ロードサイドにみられる平屋又は低層の一般的な物販店、サービス店舗等では鉄骨造が中心となるため、建物本体について27~32万円/㎡程度が一つの目安となる。
ただし、店舗は住宅以上に用途差が大きい。飲食店の厨房設備、ドラッグストア等の大型空調・電気設備、冷凍冷蔵設備、医療施設の特殊設備などは建築本体とは別に多額の費用を要する。このため、「店舗の坪単価」だけで事業費を判断することは適切ではなく、建物本体、設備、外構、造成及びテナント内装を区分して検討する必要がある。
2026年の長野県における建築費の目安
以上をまとめると、現在の長野県における一般的な建築費は次のように整理できる。
| 用途 | 統計から把握される水準 | 実務上の概ねの目安 |
|---|---|---|
| 木造戸建住宅 | 約30~31万円/㎡ | 35~40万円/㎡程度 |
| 木造低層共同住宅 | 約27.6万円/㎡ | 28~32万円/㎡程度 |
| 鉄骨造低層共同住宅 | 約30.5万円/㎡ | 30~35万円/㎡程度 |
| RC造共同住宅 | 約37.7万円/㎡ | 40万円/㎡以上も想定 |
| 鉄骨造一般店舗 | 約27.3万円/㎡ | 27~32万円/㎡程度 |
ここでいう「実務上の目安」は、建築着工統計、【フラット35】利用者調査、構造別工事費資料等を比較して整理した概算レンジであり、特定の建物の見積単価を示すものではない。
不動産価格にも広がる建築費上昇の影響
建築費の上昇は、新築住宅価格を押し上げるだけではない。
賃貸共同住宅では、同じ賃料水準であれば建築費が上昇するほど土地に配分できる事業費が小さくなり、土地残余法による土地価格を押し下げる方向に作用する。店舗用地についても同様に、建築費、設備費及び造成費の上昇は出店事業者が負担できる土地価格や地代を抑制する要因となる。
一方、既存建物については、新築の再調達原価が高くなることで、築浅物件の相対的な価値が維持されやすくなる面もある。
2020年からわずか6年ほどで建築コストが25~30%程度上昇した現在、不動産を評価する際には土地価格だけを見るのではなく、「その土地に建物を建てた場合、事業全体として成立するのか」という視点がこれまで以上に重要になっているのである。