― 富山県は富山駅前が上昇、中心部と周辺地域の差が見える結果に ―
令和8年7月1日、国税庁から令和8年分の相続税路線価が公表されました。
路線価とは、相続税や贈与税を計算する際に、土地の評価額を算定するための基準となる価格です。毎年1月1日時点の価格として公表され、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額として示されます。
一般的に、路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定されます。そのため、実際の売買価格そのものではありませんが、相続税・贈与税の評価、資産承継、相続対策、不動産の概況把握において重要な指標になります。
令和8年分の富山県の路線価を見ると、県内最高路線価である富山市桜町1丁目の「駅前広場通り」が上昇した一方、高岡市や砺波市の最高路線価は横ばい、魚津市では下落となりました。
富山県全体としては、富山市中心部や富山駅周辺の上昇傾向が見られる一方で、県内全域が一律に上昇しているわけではなく、地域ごとの差が表れた結果といえます。
1 県内最高路線価は富山駅前広場通り
令和8年分の富山県内で最も路線価が高かったのは、富山市桜町1丁目の「駅前広場通り」です。
路線価は1㎡当たり57万円で、前年の54万円から上昇しました。対前年変動率は5.6%の上昇です。
富山駅前は、北陸新幹線、あいの風とやま鉄道、JR高山本線、富山地方鉄道、市内電車、バス交通などが集まる富山県最大の交通結節点です。駅周辺には、ホテル、商業施設、飲食店、オフィス、マンション、行政・文化施設などが集積しています。
また、富山市はコンパクトシティ政策や公共交通を軸としたまちづくりで知られており、中心市街地や公共交通沿線への居住・都市機能の集約が進められてきました。
富山駅前広場通りの上昇は、北陸新幹線による広域交通利便性、駅前再整備、ホテル・商業需要、マンション需要、中心市街地への都市機能集積が反映されたものと考えられます。
2 富山駅前の上昇が示すもの
富山駅前の路線価上昇は、単に「駅に近いから高い」というだけではありません。
地方都市では、中心市街地の空洞化や郊外大型店への顧客流出が問題となることもあります。しかし、富山駅周辺については、県内最大の交通結節点としての機能に加え、商業、宿泊、業務、居住の需要が重なっています。
特に近年は、駅前や中心部におけるマンション需要も地価を支える要因となっています。高齢者世帯、共働き世帯、単身者、県外からの転入者などにとって、駅近で生活利便性の高い場所は選ばれやすい傾向があります。
また、富山駅周辺は、観光客やビジネス客の玄関口でもあります。立山黒部アルペンルート、富岩運河環水公園、ガラス美術館、富山湾の食文化など、観光資源へのアクセス拠点としても機能しています。
このように、富山駅前は、交通利便性、商業性、宿泊需要、居住需要が重なった地域であり、富山県内でも相対的に強い不動産需要が認められるエリアといえます。
3 高岡市京田は横ばい
高岡税務署管内の最高路線価は、高岡市京田の「市道南部105号」で、1㎡当たり8万円となりました。前年と同額で、変動率は0.0%です。
高岡市は、富山県西部の中心都市であり、歴史・文化・産業の集積を有する地域です。国宝瑞龍寺、高岡大仏、山町筋、金屋町などの歴史的資源があり、鋳物や銅器などの伝統産業でも知られています。
また、新高岡駅には北陸新幹線が停車し、高岡駅周辺や新高岡駅周辺では、商業施設、住宅地、ロードサイド店舗などが見られます。
ただし、富山駅前のような強い上昇までは見られず、令和8年分では横ばいとなりました。
高岡市は、県西部の拠点都市として一定の需要を有している一方、人口減少や中心市街地の商業需要の変化、郊外型店舗との競合などもあり、不動産市場は一様に強いとはいえません。
横ばいという結果は、地域の拠点性を維持しながらも、地価を大きく押し上げるほどの強い材料までは見られにくい状況を示していると考えられます。
4 魚津市釈迦堂は下落
魚津税務署管内の最高路線価は、魚津市釈迦堂1丁目の「駅前通り」で、1㎡当たり5万8,000円となりました。前年の5万9,000円から下落し、変動率はマイナス1.7%です。
魚津市は、富山県東部の中心的な都市の一つであり、魚津駅周辺には商業施設、飲食店、ホテル、住宅地などが見られます。また、魚津港、蜃気楼、魚津水族館、海の駅蜃気楼など、海や観光に関する地域資源も有しています。
一方で、地方都市の駅前商業地では、人口減少、車社会の進展、郊外型店舗への顧客流出、空き店舗の発生などにより、地価が弱含むことがあります。
魚津駅前通りの下落は、駅前という立地の優位性がありながらも、商業地としての需要が十分に強くはないこと、また周辺地域の人口動態や商業環境の変化が影響していると考えられます。
魚津市の不動産を見る場合には、駅前か郊外か、住宅地か商業地か、幹線道路沿いか、観光需要を取り込めるかによって、市場性が大きく異なります。
5 砺波市三島町は横ばい
砺波税務署管内の最高路線価は、砺波市三島町の「国道156号」で、1㎡当たり4万9,000円となりました。前年と同額で、変動率は0.0%です。
砺波市は、富山県西部に位置し、散居村の景観、チューリップ、庄川、農業地帯としての性格を有する地域です。一方で、国道156号や北陸自動車道砺波インターチェンジなどの交通利便性を背景に、ロードサイド型商業施設や住宅地も形成されています。
砺波市三島町の国道156号沿いは、自動車交通を前提とした商業地・生活利便型の土地利用が見られる地域です。
令和8年分では横ばいとなりましたが、これは、富山駅前のような都市中心部の強い上昇とは異なり、地域内需要や幹線道路沿いの一定の商業需要に支えられながら、価格が安定している状態と見ることができます。
砺波市のような地方都市では、駅前商業地だけでなく、幹線道路沿いのロードサイド店舗、住宅団地、生活利便施設の集積状況が地価に影響します。
6 富山市とその他地域の差
令和8年分の富山県路線価で最も分かりやすい特徴は、富山市中心部とその他地域との差です。
富山駅前広場通りは5.6%上昇しており、県内でも特に強い動きを示しています。これは、富山駅周辺が交通、商業、宿泊、業務、居住の機能を集積する県都中心部であることが大きな要因です。
一方で、高岡市、砺波市は横ばい、魚津市は下落となっており、県内の地方都市では上昇が広く波及しているとはいえません。
つまり、富山県の不動産市場は、富山市中心部を中心に堅調な動きが見られる一方で、県西部・県東部の地方都市では横ばい又は下落が見られるという、地域差のある市場といえます。
この傾向は、長野県、石川県、福井県、新潟県でも見られる「中心部・観光地・交通結節点は強く、人口減少地域や旧来型中心商業地は弱い」という構図と共通しています。
7 令和8年地価公示から見る富山県の地域性
相続税路線価は、地価公示価格等を基に設定されます。そのため、路線価を見る際には、地価公示の動向も参考になります。
令和8年地価公示では、富山県全体の全用途平均は0.3%の上昇、住宅地は0.2%の上昇、商業地は0.3%の上昇、工業地は2.2%の上昇となっています。
特に富山市では、全用途平均が1.4%上昇しており、県平均を上回っています。富山市中心部や生活利便性の高い住宅地、幹線道路沿いの商業地、工業・物流需要のある地域などで、一定の需要が見られると考えられます。
一方、高岡市は全用途平均で0.8%の下落となっており、県内でも地域差があることが分かります。
また、工業地については、県平均で2.2%の上昇となっています。富山県は製造業の集積が厚く、医薬品、化学、金属、機械、電子部品、アルミ関連産業などが立地しており、工業地・物流用地の需要が地価を支える要因になっていると考えられます。
8 富山市中心部の強さ
富山市中心部の強さは、北陸新幹線だけで説明できるものではありません。
富山市は、早くから公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりに取り組んできました。市内電車、ライトレール、バスなどの公共交通網を活かし、中心市街地や公共交通沿線への居住誘導、都市機能の集約を進めてきたことが特徴です。
こうした都市政策は、不動産市場にも一定の影響を与えます。
中心部に人が集まりやすくなれば、商業施設、飲食店、医療施設、マンション、ホテルなどの需要が生まれます。反対に、郊外や旧町村部では、人口減少や高齢化によって需要が弱くなる地域もあります。
富山市桜町1丁目の駅前広場通りの路線価上昇は、こうした都市機能の集積と中心部への需要が反映されたものと考えられます。
9 観光資源と不動産市場
富山県は、観光資源にも恵まれています。
立山黒部アルペンルート、黒部峡谷、宇奈月温泉、五箇山合掌造り集落、雨晴海岸、富岩運河環水公園、富山湾の寿司・海産物など、県内外から人を呼び込む資源があります。
観光需要は、ホテル、飲食店、土産物店、観光施設、二次交通、駅前商業地などに影響します。特に富山駅周辺は、観光客にとって県内各地への玄関口となるため、宿泊・飲食・交通利便性に関連する需要が生まれやすい地域です。
もっとも、観光資源があるからといって、すべての地域の地価が上昇するわけではありません。
観光地としての知名度、交通アクセス、宿泊需要、施設の集積、民間投資、人口動態などがそろって初めて、不動産価格に強く反映されます。
富山県の不動産を見る場合には、観光資源の有無だけでなく、それが実際に土地需要や収益性に結びついているかを確認する必要があります。
10 路線価上昇は相続税にも影響する
路線価は、相続税や贈与税の土地評価に使われます。
そのため、路線価が上昇すると、同じ土地を所有していても、相続税評価額が上がる可能性があります。
たとえば、富山市桜町1丁目の駅前広場通りでは、路線価が前年の54万円/㎡から57万円/㎡に上昇しました。
仮に、同通り沿いに100㎡の土地を所有していると単純計算した場合、評価額のイメージは次のようになります。
前年:54万円 × 100㎡ = 5,400万円
令和8年:57万円 × 100㎡ = 5,700万円
この場合、単純計算では土地の評価額が300万円上昇することになります。
実際には、奥行価格補正、不整形地補正、間口狭小補正、二方路線影響加算、借地権割合、貸家建付地評価、小規模宅地等の特例などにより評価額は変わりますが、路線価の上昇は相続税評価額に直接影響する重要な要素です。
特に富山駅周辺、中心市街地、幹線道路沿いの商業地、マンション需要の強い地域に土地を所有している方は、最新の路線価を確認しておくことが大切です。
11 横ばい・下落地域でも相続対策は必要
一方で、高岡市や砺波市のように横ばいの地域、魚津市のように下落している地域では、相続税評価額が大きく上がりにくい場合もあります。
しかし、路線価が横ばい又は下落しているから相続対策が不要になるわけではありません。
むしろ、地方都市では、相続税評価額よりも「その不動産を将来どうするか」が問題になることがあります。
たとえば、中心商店街の古い店舗兼住宅、郊外の空き家、利用予定のない農地、境界が未確定の土地、老朽化した賃貸物件などは、相続後に処分や管理で困ることがあります。
相続税評価額が低くても、実際には売却しにくい、解体費がかかる、固定資産税の負担が続く、相続人が遠方に住んでいて管理できない、といった問題が発生することがあります。
そのため、路線価の上昇地域だけでなく、横ばい・下落地域でも、不動産の現状を確認し、売却、賃貸、解体、活用、共有回避などを早めに検討することが重要です。
12 相続対策では「評価額」と「市場価値」の両方を見る
相続税の計算では路線価が重要です。
しかし、不動産の実際の価値を考える場合には、路線価だけでは不十分です。
たとえば、同じ路線価の土地であっても、形状が良い土地と悪い土地、道路付けが良い土地と悪い土地、建築しやすい土地と造成費がかかる土地では、市場での評価は異なります。
商業地では、歩行者通行量、車の交通量、店舗としての視認性、駐車場の有無、テナント需要、収益性などが価格に影響します。
住宅地では、学校、スーパー、病院、公共交通、道路幅員、除雪、災害リスク、周辺環境などが重要です。
富山県では、雪への対応、道路除雪、車利用のしやすさ、公共交通との距離、中心市街地へのアクセス、工業団地や事業所への通勤利便性なども、不動産の市場性に影響します。
つまり、相続対策では、相続税評価額だけではなく、その不動産が実際に売れるのか、誰が使うのか、維持管理費はいくらかかるのか、相続人が共有して問題にならないか、といった実務的な視点も重要です。
13 令和8年分路線価から見る富山県不動産市場
令和8年分の相続税路線価から見える富山県不動産市場の特徴は、大きく三つあります。
第一に、富山駅前の強さです。富山市桜町1丁目の駅前広場通りは、1㎡当たり57万円となり、前年比5.6%上昇しました。交通結節点としての機能、駅前再整備、商業・宿泊・マンション需要が価格を支えていると考えられます。
第二に、県内の地域差です。高岡市京田の市道南部105号、砺波市三島町の国道156号は横ばいとなった一方、魚津市釈迦堂1丁目の駅前通りは下落しました。富山市中心部の上昇が目立つ一方で、その他の地方都市では横ばい又は下落も見られます。
第三に、工業地・物流地の底堅さです。令和8年地価公示では、富山県の工業地は上昇しており、製造業・物流需要が不動産市場を下支えしている面があります。富山県は製造業の集積が厚く、住宅地や商業地だけでなく、工業地の動きも確認する必要があります。
つまり、富山県の不動産市場は、富山駅前を中心とする都市機能集積地では上昇が見られる一方、県内の地方都市では横ばい・下落もあり、用途や地域によって明暗が分かれる市場といえます。
14 まとめ
令和8年分の相続税路線価では、富山県内の最高路線価である富山市桜町1丁目の「駅前広場通り」が1㎡当たり57万円となり、前年比5.6%上昇しました。
富山駅前は、北陸新幹線、市内電車、バス交通などが集まる県内最大の交通結節点であり、商業、宿泊、業務、居住の需要が重なる地域です。富山市中心部の都市機能集積やマンション需要も、路線価上昇の背景にあると考えられます。
一方、高岡市京田の「市道南部105号」は1㎡当たり8万円で横ばい、砺波市三島町の「国道156号」は1㎡当たり4万9,000円で横ばいとなりました。魚津市釈迦堂1丁目の「駅前通り」は1㎡当たり5万8,000円となり、前年比1.7%の下落でした。
この結果から、富山県内では、富山市中心部の上昇が目立つ一方、その他の地方都市では横ばい又は下落も見られ、地域差があることが分かります。
また、令和8年地価公示では、富山県の全用途平均は上昇しており、特に工業地の上昇が目立ちます。製造業や物流需要が、富山県の不動産市場を下支えしている面もあります。
路線価は、相続税や贈与税の評価に使われる重要な指標ですが、実際の売買価格そのものではありません。不動産の価値は、路線価だけでなく、立地、道路付け、形状、地勢、建物状態、収益性、災害リスク、雪への対応、売却可能性などを総合的に見て判断する必要があります。
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