― 石川県は5年連続上昇、金沢駅前の強さと能登地域の下落が鮮明に ―
令和8年7月1日、国税庁から令和8年分の相続税路線価が公表されました。
路線価とは、相続税や贈与税を計算する際に、土地の評価額を算定するための基準となる価格です。毎年1月1日時点の価格として公表され、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額として示されます。
一般的に、路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定されます。そのため、実際の売買価格そのものではありませんが、相続税・贈与税の評価、資産承継、相続対策、不動産の概況把握において重要な指標になります。
令和8年分の石川県の路線価を見ると、県全体としては5年連続の上昇となりました。特に金沢市中心部では、観光需要、インバウンド、北陸新幹線、都心軸再整備への期待感などを背景に上昇基調が続いています。
一方で、令和6年能登半島地震の影響を大きく受けた輪島市などでは下落が続いており、石川県内でも地域差が非常に大きく表れた結果となりました。
1 石川県の標準宅地は5年連続で上昇
金沢国税局が公表した令和8年分の路線価によると、石川県内の標準宅地の平均変動率は前年比プラス1.2%となりました。
前年はプラス0.7%でしたので、上昇幅は拡大しています。石川県全体としては5年連続の上昇となり、県内の地価は全体として回復・上昇基調にあるといえます。
ただし、石川県全域が一律に上昇しているわけではありません。
金沢市中心部、小松駅周辺、野々市市などでは上昇が見られる一方、能登半島地震の影響を受けた輪島市、七尾市などでは下落しています。
つまり、令和8年分の石川県路線価は、「金沢を中心とする加賀地域の上昇」と「能登地域の震災影響による下落」が同時に表れた結果といえます。
2 県内最高路線価は金沢駅東広場通り
石川県内で最も路線価が高かったのは、金沢市堀川新町の「金沢駅東広場通り」です。
令和8年分の路線価は1㎡当たり112万円となり、北陸三県で最も高い路線価となりました。前年は102万円でしたので、変動率は9.8%の上昇です。
金沢駅東広場通りは、4年連続で上昇しています。
金沢駅周辺は、北陸新幹線、JR、IRいしかわ鉄道、バス交通が集まる石川県最大級の交通結節点です。駅周辺には、ホテル、商業施設、飲食店、オフィス、マンションなどが集積し、観光客、ビジネス客、地元住民、学生など、多様な人の流れがあります。
金沢市は、兼六園、金沢城公園、近江町市場、ひがし茶屋街、21世紀美術館など、全国的に知られる観光資源を有しています。北陸新幹線の開業以降、首都圏からのアクセスが向上し、観光地としての認知度もさらに高まりました。
令和8年分の路線価では、こうした観光需要やインバウンド需要、駅周辺の商業・宿泊需要が、金沢駅周辺の価格を押し上げたと考えられます。
3 金沢都心軸の再整備への期待
金沢駅東広場通りの上昇要因として、金沢都心軸の再整備への期待感も挙げられます。
金沢市では、金沢駅から武蔵ヶ辻、香林坊、片町方面へ続く都心軸が、商業・業務・観光の中心的なエリアとなっています。駅前だけでなく、中心市街地全体の再整備や回遊性向上が期待されており、こうした将来性が不動産価格にも影響していると考えられます。
特に金沢は、単なる地方都市の中心駅前ではなく、観光都市としての顔を持つ都市です。
駅前のホテル需要、商業施設需要、飲食需要、観光客の回遊需要、中心部マンション需要が重なり、複数の需要が価格を支えています。
県全体の人口動態だけを見ると地方都市としての課題もありますが、金沢駅周辺については、県内外からの需要を取り込むことで、高い価格水準を維持しているといえます。
4 都道府県庁所在地の最高価格地点としても高水準
金沢駅東広場通りは、都道府県庁所在地の最高価格地点との比較でも、前年と同じ17位とされています。
また、伸び率は6位で、前年の8位から順位を上げています。
これは、金沢駅前の価格水準が、全国の県庁所在地の中でも相対的に高い水準にあることを示しています。
金沢は、東京都心や大阪、名古屋のような大都市ではありません。しかし、歴史・文化・観光・都市機能が集積する地域として、地方都市の中では非常に強いブランド力を持っています。
そのため、金沢駅前の路線価上昇は、単なる地元需要だけでなく、観光・インバウンド・投資・宿泊・商業需要を含んだ広域的な需要を反映していると考えられます。
5 小松市駅前通りも上昇
小松税務署管内の最高路線価は、小松市土居原町の「駅前通り」です。
令和8年分の路線価は1㎡当たり13万円で、前年の12万5,000円から上昇しました。変動率はプラス4.0%です。
小松市は、石川県南部の中心都市の一つであり、小松空港、北陸自動車道、小松駅などを有する交通利便性の高い地域です。また、建設機械メーカーのコマツ創業の地としても知られ、工業都市としての性格も有しています。
令和6年3月には北陸新幹線が敦賀まで延伸し、小松駅も新幹線停車駅となりました。これにより、小松駅周辺では交通利便性の向上や駅前整備への期待が高まり、不動産需要にも一定の影響を与えていると考えられます。
前年の変動率はプラス8.7%であり、令和8年分では上昇幅はやや縮小したものの、引き続き上昇基調にあります。
小松市駅前通りの上昇は、北陸新幹線延伸効果、駅前の再評価、交通結節点としての機能が反映されたものといえます。
6 野々市市は住宅需要・生活利便性を背景に上昇
松任税務署管内の最高路線価は、野々市市藤平田1丁目の「三納藤平田線」です。
令和8年分の路線価は1㎡当たり8万6,000円で、前年の8万5,000円から上昇しました。
野々市市は、金沢市に隣接する住宅都市として人気の高い地域です。商業施設、飲食店、大学、医療施設、生活利便施設が集積し、金沢市中心部へのアクセスも良好です。
石川県内では、野々市市は比較的人口増加・若年層需要が見られやすい地域であり、住宅地としての需要が安定している点が特徴です。
金沢市中心部のような観光・商業需要とは異なり、野々市市の価格を支えているのは、主に住宅需要、生活利便性、金沢市への近接性です。
同じ上昇でも、金沢駅前や小松駅前とは需要の性質が異なります。
7 七尾市は下落
七尾税務署管内の最高路線価は、七尾市神明町の「七尾港線通り」です。
令和8年分の路線価は1㎡当たり4万5,000円で、前年の4万7,000円から下落しました。
七尾市は、能登地域の中心都市の一つであり、和倉温泉、七尾湾、能登食祭市場などの観光資源を有する地域です。
しかし、令和6年能登半島地震では能登地域に大きな被害が生じ、七尾市でも建物被害、インフラ被害、観光・宿泊需要への影響などがありました。
七尾港線通りの下落は、震災による被害や復旧状況、地域経済への影響、人口動態、商業需要の弱まりなどが複合的に反映されたものと考えられます。
もっとも、七尾市は能登地域の拠点性を有しており、復興の進展、観光需要の回復、和倉温泉の再生などが進めば、将来的に地価が下げ止まる可能性もあります。
そのため、七尾市の不動産を見る場合には、震災後の復旧状況、観光施設の営業再開、人口動態、インフラ整備、地域商業の回復状況を確認することが重要です。
8 輪島市朝市通りは全国最大の下落幅
輪島税務署管内の最高路線価は、輪島市の「朝市通り」です。
令和8年分の路線価は1㎡当たり3万2,000円で、前年比マイナス8.6%となりました。
輪島市の朝市通りは、輪島朝市で全国的に知られる観光商業地です。長い歴史を持つ朝市は、輪島を象徴する観光資源であり、多くの観光客が訪れる場所でした。
しかし、令和6年能登半島地震とその後の火災により、輪島朝市周辺は甚大な被害を受けました。観光地としての機能、商業地としての営業、建物、道路、インフラ、地域コミュニティに大きな影響が及びました。
令和8年分では、輪島市朝市通りの下落幅は2年連続で全国最大となりました。
ただし、下落率は前年のマイナス16.7%からマイナス8.6%へ縮小しています。これは、復興が進み、朝市通りの再整備計画が示されるなど、将来に向けた動きが出てきたことも影響していると考えられます。
一方で、地震後の人口減少、事業者の再建負担、観光客の回復時期、インフラ復旧、建物再建などの課題は依然として大きく、価格はなお減少基調にあります。
輪島市の不動産を見る場合には、単純な路線価の上下だけではなく、復興計画、用途制限、再建可能性、地域コミュニティの回復、観光需要の戻り方を慎重に確認する必要があります。
9 加賀地域と能登地域の二極化
令和8年分の石川県路線価で最も大きな特徴は、加賀地域と能登地域の二極化です。
金沢市、小松市、野々市市など、交通利便性が高く、観光・商業・住宅需要が見込まれる地域では上昇しています。
一方で、七尾市や輪島市など、能登半島地震の影響を大きく受けた地域では下落しています。
同じ石川県内でも、不動産市場の状況は大きく異なります。
金沢市中心部では、観光、インバウンド、再開発、ホテル需要、マンション需要が価格を押し上げています。小松市では、北陸新幹線延伸と交通利便性が評価されています。野々市市では、金沢近郊の住宅需要と生活利便性が価格を支えています。
これに対し、能登地域では、震災被害、人口減少、観光需要の回復遅れ、商業機能の再建、インフラ復旧といった課題が大きく、価格に下押し圧力がかかっています。
令和8年分の路線価は、石川県内の不動産市場が一様ではなく、地域ごとの事情を細かく見る必要があることを示しています。
10 路線価上昇は相続税にも影響する
路線価は、相続税や贈与税の土地評価に使われます。
そのため、路線価が上昇すると、同じ土地を所有していても、相続税評価額が上がる可能性があります。
たとえば、金沢駅東広場通りの路線価は、前年の102万円/㎡から112万円/㎡へ上昇しました。
仮に、同通り沿いに100㎡の土地を所有していると単純計算した場合、評価額のイメージは次のようになります。
前年:102万円 × 100㎡ = 1億200万円
令和8年:112万円 × 100㎡ = 1億1,200万円
この場合、単純計算では土地の評価額が1,000万円上昇することになります。
実際には、奥行価格補正、不整形地補正、間口狭小補正、二方路線影響加算、借地権割合、貸家建付地評価、小規模宅地等の特例などにより評価額は変わりますが、路線価の上昇は相続税評価額に直接影響する重要な要素です。
特に金沢駅周辺、都心軸沿い、小松駅周辺、野々市市内に土地を所有している方は、令和8年分の路線価を確認しておくことが大切です。
11 下落地域でも相続対策は必要
一方で、七尾市や輪島市のように路線価が下落している地域では、相続税評価額が下がる可能性があります。
しかし、路線価が下がったから相続対策が不要になるわけではありません。
むしろ、下落地域では、相続税評価額よりも「実際にその不動産をどうするか」が重要になる場合があります。
たとえば、震災被害を受けた建物が残っている場合、修繕費、解体費、測量費、境界確認、再建の可否、売却可能性、管理費用などが問題になります。
相続税評価額が低くても、実際には売却が難しい、維持管理費がかかる、相続人が利用しない、共有になると処分できない、といった問題が発生することがあります。
能登地域の不動産を相続する可能性がある場合には、路線価だけでなく、建物の被害状況、再建可能性、復興計画、道路・上下水道などのインフラ状況、売却需要を確認することが大切です。
12 相続対策では「評価額」と「市場価値」の両方を見る
相続税の計算では路線価が重要です。
しかし、不動産の実際の価値を考える場合には、路線価だけでは不十分です。
たとえば、同じ路線価の土地であっても、形状が良い土地と悪い土地、道路付けが良い土地と悪い土地、建築しやすい土地と造成費がかかる土地では、市場での評価は異なります。
また、商業地では、歩行者通行量、観光客の回遊性、店舗としての視認性、駐車場の有無、テナント需要、収益性などが価格に影響します。
住宅地では、学校、スーパー、病院、公共交通、道路幅員、災害リスク、周辺環境などが重要です。
震災被害を受けた地域では、地盤、液状化、建物被害、インフラ復旧、再建制限、復興計画なども確認する必要があります。
つまり、相続対策では、相続税評価額だけではなく、その不動産が実際に売れるのか、誰が使うのか、維持管理費はいくらかかるのか、相続人が共有して問題にならないか、といった実務的な視点も重要です。
13 令和8年分路線価から見る石川県不動産市場
令和8年分の相続税路線価から見える石川県不動産市場の特徴は、大きく三つあります。
第一に、石川県全体としては上昇基調が続いていることです。標準宅地の平均変動率はプラス1.2%で、5年連続の上昇となりました。
第二に、金沢市中心部の強さです。金沢駅東広場通りは1㎡当たり112万円となり、北陸三県最高の路線価となりました。観光、インバウンド、都心軸再整備、商業・宿泊需要が価格を支えています。
第三に、能登地域の下落です。七尾市、輪島市では最高路線価が下落し、特に輪島市朝市通りは2年連続で全国最大の下落幅となりました。能登半島地震の影響、人口減少、観光・商業機能の回復途上であることが、価格に大きく影響しています。
つまり、石川県の不動産市場は、金沢を中心とする加賀地域では上昇が続く一方、能登地域では震災影響による下落が続いており、県内で明確な地域差が生じているといえます。
14 まとめ
令和8年分の相続税路線価では、石川県内の標準宅地の平均変動率がプラス1.2%となり、5年連続で上昇しました。
県内最高路線価は、金沢市堀川新町の「金沢駅東広場通り」で、1㎡当たり112万円となり、北陸三県最高の価格となりました。インバウンド需要、観光業の好調、都心軸再整備への期待感が価格を押し上げていると考えられます。
小松市土居原町の駅前通りは1㎡当たり13万円となり、北陸新幹線敦賀延伸後の上昇傾向が続いています。野々市市藤平田1丁目の三納藤平田線も1㎡当たり8万6,000円となり、金沢近郊の住宅需要と生活利便性が評価されています。
一方で、七尾市神明町の七尾港線通りは1㎡当たり4万5,000円へ下落し、輪島市の朝市通りは1㎡当たり3万2,000円、前年比マイナス8.6%となりました。輪島市では下落幅が前年より縮小したものの、能登半島地震の影響、人口減少、観光・商業機能の再建途上であることから、依然として厳しい状況が続いています。
路線価は、相続税や贈与税の評価に使われる重要な指標ですが、実際の売買価格そのものではありません。不動産の価値は、路線価だけでなく、立地、道路付け、形状、地勢、建物状態、収益性、災害リスク、復興状況、売却可能性などを総合的に見て判断する必要があります。
あおぎり不動産鑑定では、石川県・新潟県・長野県をはじめとする不動産について、相続税評価、売買、相続、担保評価、投資判断、物件調査等に関するご相談に対応しています。
令和8年分路線価の公表をきっかけに、ご所有不動産の相続税評価や市場価値を確認したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
あおぎり不動産鑑定