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長野県の林地市場の概況

コラム

― 森林県・長野における林地価格と市場性の考え方 ―

長野県は、全国でも有数の森林県です。

県土の多くを山林が占めており、森林は水源涵養、土砂災害防止、景観形成、観光資源、木材生産、二酸化炭素吸収など、さまざまな役割を担っています。

一方で、不動産としての林地は、宅地や農地と比べて市場性が分かりにくい不動産です。林地の価格は、単に面積が広いから高い、立木があるから高いというものではなく、接道、傾斜、搬出条件、林内路網、伐採可能性、管理状況、周辺の利用目的などによって大きく異なります。

本稿では、長野県の林地市場について、森林資源の状況、全国的な山林価格の動向、木材価格、長野県内の林地基準地価格、実際の取引事例の傾向を踏まえて整理します。

1 長野県は森林面積・森林率ともに全国上位

長野県の森林面積は約105.6万haで、県土面積の約78%を占めています。森林面積及び森林率はいずれも全国第3位とされ、長野県は全国的に見ても森林の多い県です。

図1:長野県の森林面積割合

このうち民有林は約68.8万haで、県内森林面積の約65%を占めています。また、民有林のうち私有林は約50.9万haで約74%を占め、個人所有の森林も多い状況です。

このように、長野県では、個人を中心とする森林所有構造が見られます。

個人所有の森林が多いということは、相続、売買、境界確認、森林管理、伐採、再造林などの場面で、林地の価格や管理方法が問題になりやすいということでもあります。

2 森林資源は「育てる段階」から「利用する段階」へ

長野県の民有林人工林のうち、カラマツは約17.7万haで、人工林の約53%を占めています。森林蓄積は着実に増加しており、森林資源は育成段階から伐採・利用段階へ移行しているとされています。

長野県といえば、カラマツ林の印象が強い地域も多くあります。カラマツは建築材、土木材、合板用材などとして利用され、近年は国産材利用の見直しも進んでいます。

もっとも、森林資源があることと、林地の価格が高くなることは必ずしも同じではありません。

林業として採算が取れるためには、伐採できる立木があるだけでなく、作業道があること、傾斜が緩いこと、搬出距離が短いこと、林道や公道に接続していること、森林施業を集約できることなどが必要です。

そのため、林地の評価では、立木の樹種や材積だけではなく、施業のしやすさを確認することが重要です。

3 長野県林業の課題

長野県の森林所有は、小規模かつ分散的であり、森林施業の集約化や効率的な木材搬出を進めるうえで課題があるとされています。今後は、適正な主伐及び再造林、林内路網の整備、担い手の確保等を通じた持続可能な林業経営の確立が求められています。

これは、林地価格を見るうえでも重要です。

林地は、所有しているだけでは収益を生みにくい不動産です。木を伐採して売却するにも、伐採費、搬出費、作業道整備費、再造林費、管理費などがかかります。

また、森林所有者の高齢化や担い手不足により、森林の管理が十分に行われていないケースもあります。

林地は面積が広くても、実際に収益化できるとは限りません。むしろ、管理負担や境界不明、搬出困難性が価格を押し下げることもあります。

4 全国の山林素地価格は長期的に低下

全国平均の用材林地価格は、2021年の41,080円/10a、約41.1円/㎡から、2025年の40,533円/10a、約40.5円/㎡へと、直近5年間ではおおむね横ばいないし緩やかな下落傾向にあります。

一方、長期的に見ると、1983年の最高価格89,383円/10a、約89.4円/㎡から大きく低下しており、現在の価格水準は最高時の半分を下回っています。

図2:丸太・製材・普通合板の価格指数

この背景には、林業後継者の減少、森林所有者の高齢化、買い手不足、林業経営の先行き不安などがあります。

山林は、宅地のように多くの需要者が存在する市場ではありません。買い手が限られ、利用目的も限定されやすいため、流動性が低い不動産といえます。

そのため、山林の価格は、一般の住宅地や商業地のように景気回復だけで上昇するものではなく、林業採算性や個別の利用可能性に大きく左右されます。

5 山元立木価格は樹種によって異なる

山元立木価格については、2025年3月末現在、利用材積1㎥当たり、スギ4,026円、ヒノキ9,494円、マツ2,453円とされています。前年に比べ、スギは2.4%、マツは4.6%下落した一方、ヒノキは6.2%上昇しました。

樹種によって価格動向は異なります。

ヒノキのように比較的価格が高い樹種もあれば、マツのように価格が低い樹種もあります。また、同じ樹種であっても、径級、品質、搬出条件、需要地までの距離によって価格は異なります。

ただし、林地取引では、立木価格だけで土地価格が決まるわけではありません。

実際には、傾斜、接道、搬出距離、林内路網、施業可能性などが価格形成に強く影響します。

つまり、林地の評価では、「木があるか」だけでなく、「その木を伐って運び出せるか」「再び植えて管理できるか」「買い手が利用できるか」を見る必要があります。

6 木材価格はウッドショック後に品目ごとに差が出ている

日本銀行の国内企業物価指数によると、丸太、製材、普通合板の価格指数は、2021年から2022年にかけて大幅に上昇しました。その後は反落傾向が見られましたが、2025年には丸太及び製材が前年比で上昇した一方、普通合板は引き続き下落しています。

ウッドショックを契機に、国産材を見直す動きはありました。

しかし、木材価格の上昇が、そのまま林地価格の上昇につながるとは限りません。

木材を売るためには、伐採、搬出、運搬、製材、販売の一連の流れが必要です。立木の価格が上がっても、伐採・搬出コスト、人件費、燃料費、再造林費が増えれば、所有者の手元に残る収益は限定されます。

実際、資料でも、ウッドショックを契機に国産材を見直す動きが認められる一方で、林業従事者の高齢化、労働力不足、人件費及び森林管理コストの上昇により、事業採算性は依然として厳しく、純山林に対する需要は弱いと分析されています。

この点は、林地市場を理解するうえで非常に重要です。

7 長野県内の林地基準地価格は弱含み

令和7年地価調査における長野県内の林地基準地4地点の価格は、39,300円/10a、約39.3円/㎡から137,000円/10a、約137.0円/㎡の範囲にあります。そして、全地点で前年比下落となっています。

図4:長野県林地基準地価格

これらの林地基準地は、主として林業利用を前提とする農村林地又は純山林です。

したがって、長野県内の林地価格は、全体として弱含みで推移していると考えられます。

もっとも、林地は所在、面積、傾斜、接道、搬出条件、利用目的による個別性が非常に強い不動産です。基準地価格をそのまま個別の林地に当てはめることは適切ではありません。

たとえば、同じ山林でも、道路に接していて車両進入が可能な土地と、接道がなく徒歩でしか入れない土地では、市場性が大きく異なります。

また、別荘地に近い山林、太陽光発電・資材置場・隣接地取得などの利用可能性がある山林は、純粋な林業利用の山林とは異なる価格水準になることがあります。

8 長野県内の林地取引では小規模帯の件数が多い

最近担当した案件で、不動産情報ライブラリに収録された2015年以降の長野県内の林地取引について、面積5,000㎡以上及び単価10円/㎡以下の事例を除外し、取引総額及び面積帯別の単価水準を集計した分析があります。

その分析によると、長野県全体では、1,000~2,000㎡帯の取引が389件あり、平均単価421円/㎡、中央値283円/㎡となっています。

図3:長野県・小諸市の林地取引単価中央値

この結果を見ると、長野県内の林地取引では、1,000~2,000㎡程度の比較的小規模な林地取引が多く見られることが分かります。

林地というと、数万㎡、数十万㎡の大規模山林を想像しがちですが、実際の取引では、別荘地周辺の小規模山林、隣接地取得、保有目的、利用目的が限定された土地なども含まれます。

このような小規模林地は、純粋な林業経営だけで価格が決まるわけではありません。

周辺の宅地・別荘地との関係、道路条件、眺望、管理のしやすさ、転用可能性、近隣所有者の取得意欲などが価格に影響します。

9 小諸市の小規模林地は県平均より高い傾向

同じ分析では、小諸市の1,000~2,000㎡帯の林地取引は9件あり、平均単価867円/㎡、中央値633円/㎡となっています。これは、長野県全体の同面積帯の中央値283円/㎡より高い水準です。

小諸市の同面積帯が県全体より高い水準を示している理由としては、純粋な林業利用だけでなく、別荘地的利用、隣接地取得、保有目的などの需要が含まれている可能性があります。

小諸市は、軽井沢町や御代田町に近く、浅間山麓の自然環境や別荘地的な利用可能性を有する地域です。市街地や幹線道路から離れた林地であっても、周辺の別荘地、キャンプ場、太陽光発電、資材置場、隣接地取得などの需要が価格に影響することがあります。

もっとも、小諸市の取引件数は9件にとどまるため、中央値633円/㎡をそのまま採用することはできません。

取引ごとに、接道、地勢、眺望、別荘地としての利用可能性、境界の明確性、立木の状況が異なるため、個別に比較する必要があります。

10 林地価格を見るときの実務上のポイント

林地価格を見る際には、次のような点が重要です。

まず、接道です。車両が進入できるかどうか、林道や公道に接しているかどうかは、林地の利用可能性を大きく左右します。

次に、傾斜です。急傾斜地では伐採・搬出が難しく、作業コストが高くなります。また、土砂災害リスクや造成可能性にも影響します。

次に、搬出条件です。立木があっても、搬出できなければ経済的価値は限定されます。林内路網の有無、搬出距離、重機の進入可能性などを確認する必要があります。

また、境界の明確性も重要です。山林では境界が不明確なことが多く、売買や伐採の際に隣接所有者との調整が必要になることがあります。

さらに、利用目的です。純粋な林業利用か、別荘地的利用か、隣接地取得か、太陽光発電・蓄電池・資材置場等の事業用地かによって、価格水準は大きく変わります。

最後に、災害リスクです。土砂災害警戒区域、急傾斜地、地すべり、保安林、自然公園、景観規制、林地開発許可などの法規制も確認する必要があります。

11 林地価格は「山の価値」だけでは決まらない

林地の価格は、山そのものの価値だけでは決まりません。

立木価格、林業採算性、接道、傾斜、搬出条件、管理費、境界、法規制、周辺需要、転用可能性などが複合的に影響します。

特に長野県では、地域によって林地の性格が大きく異なります。

北信・東信・中信・南信で林業条件や市場性は異なりますし、同じ市町村内でも、別荘地周辺の林地、集落周辺の里山、奥山の純山林、観光地周辺の山林、太陽光発電や蓄電池施設の候補地では、需要者層も価格水準も異なります。

たとえば、林業利用を前提とする純山林では、山林素地価格や山元立木価格が重視されます。

一方、別荘地周辺の小規模林地では、周辺宅地との関係、眺望、自然環境、道路条件が重視されることがあります。

また、事業用地としての利用可能性がある林地では、造成費、伐採費、接道、インフラ、行政手続き、近隣住民の反応なども価格形成に影響します。

12 相続における林地の注意点

林地は、相続の場面でも問題になりやすい不動産です。

山林は面積が広く、固定資産税評価額が低いことも多いため、相続時にはあまり重視されないことがあります。しかし、実際には管理責任、境界確認、倒木、土砂災害、隣接地との関係、売却困難性などの問題が生じることがあります。

また、相続人が県外に住んでいる場合、山林の場所が分からない、境界が分からない、管理できない、買い手が見つからないということもあります。

林地は、宅地やマンションのように簡単に売却できる不動産ではありません。

そのため、相続対策では、山林の所在、面積、境界、接道、現況、法規制、管理状況、売却可能性を早めに確認しておくことが大切です。

13 林地評価では市場データと個別性の両方を見る

林地を評価する際には、基準地価格や統計データだけで判断することはできません。

長野県全体の同面積帯の中央値、小諸市の中央値、東信地域の中央値などを参考に、市場全体の価格帯を把握することは重要です。

資料では、長野県全体の1,000~2,000㎡帯の中央値283円/㎡、小諸市の中央値633円/㎡、東信地域の同面積帯の中央値525円/㎡を総合すると、対象不動産の市場水準は概ね300~600円/㎡の範囲にあると把握される、と整理されています。

ただし、そのうえで、対象不動産の接道状況、傾斜、林内への進入可能性、境界の明確性、立木の状況、別荘地等への転用可能性を比較し、個別的格差を判定する必要があります。

つまり、林地評価では、統計的な価格帯を確認しつつ、最後は個別不動産の条件を丁寧に見ることが必要です。

14 まとめ

長野県は、森林面積約105.6万ha、県土面積の約78%を森林が占める全国有数の森林県です。

民有林や私有林の割合も高く、個人所有の森林が多いことから、相続、売買、管理、伐採、再造林などの場面で林地の価格や市場性が問題になりやすい地域といえます。

一方、全国の山林素地価格は長期的に低下しており、用材林地価格は1983年の最高価格から大きく下落し、現在では最高時の半分を下回る水準にあります。

木材価格については、ウッドショック以降、丸太、製材、普通合板で異なる動きが見られますが、木材価格の上昇が直ちに林地価格の上昇につながるわけではありません。伐採費、搬出費、人件費、森林管理コスト、再造林費などを考慮すると、林業採算性は依然として厳しい面があります。

令和7年地価調査における長野県内の林地基準地4地点は、39,300円/10aから137,000円/10aの範囲にあり、全地点で前年比下落となりました。県内の林地価格は弱含みで推移していると考えられます。

ただし、実際の林地取引では、純粋な林業利用だけでなく、別荘地的利用、隣接地取得、保有目的、事業用地的利用などが含まれることがあります。

長野県内の1,000~2,000㎡帯の林地取引では、平均単価421円/㎡、中央値283円/㎡である一方、小諸市の同面積帯では平均単価867円/㎡、中央値633円/㎡となっており、地域や利用目的によって価格水準が異なることが分かります。

林地価格を判断する際には、面積、接道、傾斜、搬出条件、林内路網、境界、立木、法規制、転用可能性、周辺需要を総合的に見る必要があります。

あおぎり不動産鑑定では、長野県内の山林・林地・別荘地周辺土地・事業用地について、不動産鑑定評価、価格調査、物件調査、相続、売買、担保評価等に関するご相談に対応しています。

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