-売上高ではなく、不動産に帰属する純収益をどう把握するか-
1. はじめに
ゴルフ場は、一般的な土地建物とは性格が大きく異なる不動産です。
通常の事務所ビルや共同住宅であれば、賃料収入を中心に不動産の収益性を把握することができます。しかし、ゴルフ場の場合は、土地、コース、クラブハウス、カート道路、散水設備、管理施設、駐車場、会員制度、運営ノウハウ等が一体となって収益を生み出しています。
そのため、ゴルフ場の鑑定評価では、単に土地価格や建物価格を積み上げるだけでは不十分です。実際の市場参加者は、対象ゴルフ場が将来どれだけ安定した収益を生み出すか、すなわち投資採算性を重視して価格判断を行うからです。
もっとも、ここで注意すべき点があります。
ゴルフ場の収益価格を求める場合、売上高をそのまま還元利回りで割って価格を求めることはできません。売上高には、売上原価、人件費、コース管理費、販売管理費、運営ノウハウ、経営努力等が含まれており、これらを控除しないまま資本還元すると、実態から大きく乖離した価格となるおそれがあります。
さらに、売上高から費用を控除して求めた純収益であっても、それがすべて不動産に帰属するとは限りません。ゴルフ場の収益は、不動産だけでなく、経営、労働、資本、運営ノウハウ等が協働して生み出すものだからです。
したがって、ゴルフ場の収益価格を査定する場合には、売上高を基礎として安定的な純収益を把握したうえで、そこから経営者帰属利益等を控除し、不動産に帰属する純収益を抽出する必要があります。
本稿では、ゴルフ場の鑑定評価について、評価書の流れに沿って、一般的要因、地域要因、個別的要因の分析から、収益還元法による収益価格の査定、鑑定評価額の決定までを整理します。
2. ゴルフ場評価の基本方針
ゴルフ場は、オフィスビルや共同住宅のような一般的な収益不動産とは異なり、運営の巧拙が収益に大きく影響するオペレーショナルアセットです。
ゴルフ場の収益は、主に次のような要素によって形成されます。
- コースの立地及びアクセス
- 気象条件及び年間営業可能日数
- コースグレード及び知名度
- メンバー・ビジターの構成
- 来場者数及び客単価
- コース管理の水準
- クラブハウス等の施設状態
- 支配人又は運営会社の運営能力
- 会員制度、年会費、名義変更料等の収益構造
- 将来の修繕費及び設備更新費
- 売却可能性及び他用途転用の可能性
このように、ゴルフ場は不動産としての側面と、事業としての側面が強く結び付いています。
したがって、評価にあたっては、対象ゴルフ場の土地建物の物的状況だけでなく、運営状況、収支構造、競合環境、会員構成、将来の修繕負担等を総合的に分析する必要があります。
評価手法としては、原価法、取引事例比較法、収益還元法を検討しますが、需要者が投資採算性を重視することから、通常は収益還元法による収益価格を重視して鑑定評価額を決定することになります。
3. 一般的要因の分析
一般的要因では、ゴルフ場市場全体の動向を把握します。
ゴルフ場の需要は、景気動向、余暇活動の多様化、人口構成、所得水準、気候変動、労働力不足等の影響を受けます。特に近年は、コロナ禍以降に屋外レジャーとしてゴルフ需要が回復した面がある一方で、中長期的には参加人口の高齢化や若年層の取り込みが課題となっています。
一般的要因として確認すべき事項は、主に次のとおりです。
- ゴルフ参加人口の推移
- ゴルフ場利用者数の推移
- ゴルフ場収入の推移
- ゴルフ場売買市場の動向
- 大手運営会社による集約の動き
- 高齢化及び人口減少の影響
- 労働力不足及び人件費上昇の影響
- キャディ付きプレーからセルフプレーへの移行
- インバウンド、観光需要、リゾート需要の可能性
- 気候変動による営業日数及び維持管理費への影響
ゴルフ場市場は、長期的にはバブル期以降の縮小傾向を経て、近年は一定の回復傾向も見られます。しかし、参加人口の年齢構成を見ると、シニア層の比率が高く、将来的な需要維持には若年層や女性層の取り込みが課題となります。
また、ゴルフ場の収入はプレー収入だけでなく、レストラン、売店、年会費、名義変更料等によって構成されますが、キャディ付きプレーの減少やセルフプレー化の進展により、収益構造が変化している点にも留意する必要があります。
さらに、近年は大手運営会社によるゴルフ場の集約が進んでおり、運営ノウハウ、予約システム、コスト管理、共同購買等を活用できるゴルフ場と、単独運営で競争力に乏しいゴルフ場との間で、収益力に差が生じやすくなっています。
一般的要因の分析では、対象ゴルフ場の過去実績を単独で見るのではなく、ゴルフ場市場全体の構造変化の中で、その収益の持続可能性を判断することが重要です。
4. 地域要因の分析
地域要因では、対象ゴルフ場が所在する地域の需要基盤を分析します。
ゴルフ場の収益は、立地及びアクセスに大きく左右されます。大都市圏から短時間でアクセスできるゴルフ場は、安定した集客が期待できます。一方、地方部や人口減少地域に所在するゴルフ場は、固定客を確保していても、将来的な来場者数の減少リスクを慎重に見込む必要があります。
地域要因としては、主に次の事項を確認します。
- 都市圏、地方圏、リゾート地の別
- 背後人口及び所得水準
- ゴルフ需要の厚み
- 高速道路インターチェンジからの距離
- 主要都市からの所要時間
- 最寄駅や送迎手段の有無
- 冬季クローズの有無
- 降雪、雨天、猛暑等の気象条件
- 競合ゴルフ場の数、価格帯、稼働状況
- 周辺観光地、宿泊施設、リゾート需要との関係
- 他用途転用の可能性
たとえば、大都市近郊でアクセスに優れ、年間を通じて営業できるゴルフ場は、収益の安定性が高く、還元利回りを低めに査定しやすい傾向があります。反対に、地方部に所在し、冬季クローズがあり、周辺人口が減少している地域では、来場者数の維持が難しく、収益変動リスクが高いため、還元利回りは高めに査定されやすくなります。
また、リゾート地に所在するゴルフ場では、観光需要や宿泊需要との連携が収益に影響します。宿泊施設とのパッケージ需要、インバウンド需要、別荘地需要等が見込まれる場合には、将来的な収益性や出口戦略にも影響を与える可能性があります。
一方、別荘地、太陽光発電用地、物流施設、住宅地等への転用可能性がある場合でも、その実現には開発許可、造成費、インフラ整備、環境規制、地元調整等のハードルがあります。したがって、他用途転用の可能性は、単なる土地ポテンシャルとしてではなく、具体的な実現可能性と費用負担を踏まえて判断する必要があります。
5. 個別的要因の分析
個別的要因では、対象ゴルフ場そのものの収益力と競争力を分析します。
ゴルフ場では、同じ地域に所在していても、コースの質、会員構成、運営体制、施設状態、料金設定等によって収益力が大きく異なります。そのため、個別的要因の分析は、収益価格の査定に直結します。
5-1. コースに関する要因
ホール数、コース距離、難易度、コース設計、芝の状態、排水性、景観、メンテナンス状況等を確認します。
コースグレードが高く、競技会や大会開催実績がある場合には、知名度や固定客の確保に寄与します。一方で、コース管理費が過大であったり、老朽化により大規模な改修が必要であったりする場合には、将来の純収益を圧迫する要因となります。
5-2. クラブハウス及び付帯施設
クラブハウス、レストラン、浴室、ロッカー、管理棟、練習場、駐車場、カート道路、散水設備等の状態を確認します。
施設が新しく快適であることは集客上プラスに働きますが、鑑定評価上は「どれだけ費用をかけたか」よりも「それが収益にどの程度貢献しているか」が重要です。過大な施設投資が行われていても、それに見合う収益を生んでいなければ、評価額に十分反映されない場合があります。
5-3. 営業実績
来場者数、客単価、稼働率、曜日別・季節別の利用状況、メンバー・ビジター比率を確認します。
メンバーコースでは、メンバーのプレー単価は低くなる傾向がありますが、年会費収入や固定的な来場需要により、収益の安定性に寄与する場合があります。一方、パブリックコースでは、ビジター収入が中心となるため、立地、料金競争力、予約サイトでの集客力等が重要になります。
5-4. 会員制度
会員数、年会費、名義変更料、会員権相場、預託金の有無、退会リスク等を確認します。
年会費収入や名義変更料収入が安定している場合には、収益価格上プラスに働きます。ただし、会員の高齢化や会員権相場の低迷が見られる場合には、将来的な収益維持可能性を慎重に判断する必要があります。
5-5. 収支構造
売上高、売上原価、人件費、業務委託費、コース管理費、補修費、公租公課、地代、保険料、大規模修繕費等を確認します。
特にゴルフ場では、人件費、コース管理費、補修費の負担が大きく、来場者数が一定程度あっても利益が残りにくい場合があります。そのため、売上高の大小だけでなく、費用構造と利益率を重視する必要があります。
5-6. 運営体制
支配人、運営会社、予約管理、集客力、コスト管理、従業員体制等を確認します。
ゴルフ場の収益は、運営能力に大きく依存します。大手運営会社のノウハウを活用している場合、予約システム、料金設定、コスト管理、顧客管理等で優位性を持つことがあります。一方で、運営体制が弱い場合には、同じ不動産であっても十分な収益を生み出せない可能性があります。
6. 鑑定評価手法の適用方針
ゴルフ場の評価においても、原価法、取引事例比較法、収益還元法を検討します。
ただし、ゴルフ場の需要者は、土地建物の再調達原価よりも、将来得られるキャッシュ・フローを重視して価格判断を行う傾向があります。そのため、収益還元法による収益価格を中心に、積算価格及び比準価格を比較考量して鑑定評価額を決定するのが基本的な考え方となります。
7. 原価法
原価法では、土地価格、造成費、クラブハウス、管理施設、カート道路、散水設備、コース関連施設等を積み上げて積算価格を求めます。
しかし、ゴルフ場では、過去に多額の造成費や施設投資が行われていても、それが現在の市場価値として十分に回収できるとは限りません。特に、初期投資に見合う収益を上げていないゴルフ場では、積算価格が収益価格を大きく上回ることがあります。
したがって、原価法は、投下資本や再調達原価を把握するうえでは有用ですが、鑑定評価額の決定にあたっては、対象ゴルフ場の収益力と市場参加者の投資採算性を踏まえて、積算価格の説得力を慎重に判断する必要があります。
8. 取引事例比較法
取引事例比較法では、ゴルフ場の売買事例を収集し、地域性、コース規模、収益性、会員構成、アクセス、権利関係、施設状態等を比較します。
ただし、ゴルフ場の取引事例は一般的な住宅地や商業地に比べて少なく、取引事情も個別性が強い傾向があります。また、同じゴルフ場取引であっても、営業継続前提の取引なのか、事業再生目的なのか、転用目的なのかによって価格水準は大きく異なります。
したがって、比準価格は有用な検証手段ではあるものの、収益価格を補足する位置づけとなることが多いと考えられます。
9. 収益還元法の基本構造
ゴルフ場の収益価格は、基本的には次の流れで求めます。
運営収益から運営費用を控除して運営純収益を求め、さらに大規模修繕費等を控除して純収益を査定します。そのうえで、この純収益を還元利回りで還元して収益価格を求めます。
整理すると、次のとおりです。
運営収益
- 運営費用
= 運営純収益
- 大規模修繕費
= 純収益
純収益 ÷ 還元利回り
= 収益価格
運営収益には、主にプレー収入、レストラン収入、売店収入、練習場収入、年会費収入、名義変更料収入、その他収入が含まれます。
運営費用には、売上原価、人件費、業務委託費、コース管理費、補修費、その他販売管理費、公租公課、地代、保険料等が含まれます。
ここで重要なのは、還元すべきものは売上高ではなく、費用控除後の純収益であるという点です。
売上高はゴルフ場の規模や集客力を示す重要な指標ですが、売上高そのものが不動産に帰属する収益ではありません。売上高には、食材原価、人件費、コース管理費、広告宣伝費、運営管理費、経営者の努力等が含まれています。したがって、売上高を直接還元すると、本来控除すべき費用や経営利益を無視することになり、収益価格を過大に求めるおそれがあります。
10. 経営者帰属利益を控除する必要性
ゴルフ場評価で特に重要なのは、売上高から費用を控除した純収益であっても、そのすべてが不動産に帰属するわけではないという点です。
ゴルフ場の収益は、次の要素が協働して生み出されています。
- 土地、コース、クラブハウス等の不動産
- カート、機械、散水設備等の動産・設備
- 従業員の労働
- 運営会社又は経営者のノウハウ
- 資本提供者の負担
- 会員制度やブランド力
- 予約管理、価格設定、広告宣伝等の営業努力
そのため、ゴルフ場事業全体の純収益をそのまま不動産収益として還元することは適切ではありません。
不動産に帰属する純収益を把握するためには、ゴルフ場事業の純収益から、経営者帰属利益、運営ノウハウに帰属する利益、必要に応じて動産・設備等に帰属する利益を控除する必要があります。
概念式で示すと、次のようになります。
売上高
- 運営費用
= ゴルフ場事業全体の純収益
- 経営者帰属利益
- 動産・設備・営業権等に帰属する利益
= 不動産に帰属する純収益
そして、この不動産に帰属する純収益を還元利回りで還元することにより、ゴルフ場不動産の収益価格を求めます。
不動産に帰属する純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格
この考え方を取ることにより、売上高を直接還元する誤りだけでなく、事業収益のすべてを不動産収益とみなす誤りも避けることができます。
11. 具体例
ここで、簡単な数値例を用いて、ゴルフ場の収益価格の考え方を整理します。
対象ゴルフ場の安定化売上高を3億6,000万円とします。
過去数期の営業実績、来場者数、客単価、会員構成、競合ゴルフ場との料金水準、コース管理費、人件費等を検討した結果、安定的な営業利益率を12%と査定したとします。
この場合、ゴルフ場事業全体の純収益は次のように求められます。
3億6,000万円 × 12% = 4,320万円
この4,320万円は、ゴルフ場事業全体の純収益です。ここには、不動産に帰属する利益だけでなく、支配人や運営会社の経営努力、予約管理、料金設定、コスト管理、接客サービス、会員管理等に帰属する利益も含まれています。
そこで、経営者帰属利益を純収益の15%と査定した場合、経営者帰属利益は次のとおりです。
4,320万円 × 15% = 648万円
したがって、不動産に帰属する純収益は次のようになります。
4,320万円 - 648万円 = 3,672万円
この3,672万円を不動産に帰属する純収益として、還元利回りを15%と査定した場合、収益価格は次のとおりです。
3,672万円 ÷ 15% = 約2億4,480万円
一方、仮に売上高3億6,000万円をそのまま15%で還元してしまうと、次のようになります。
3億6,000万円 ÷ 15% = 24億円
この金額は、売上原価、人件費、コース管理費、販売管理費、大規模修繕費、経営者帰属利益等を控除していないため、ゴルフ場不動産の収益価格としては著しく過大です。
この例から分かるように、ゴルフ場の収益価格を求める際には、売上高ではなく、まず費用控除後の純収益を把握する必要があります。さらに、その純収益のすべてを不動産収益と見るのではなく、経営者帰属利益や運営ノウハウに帰属する部分を控除したうえで、不動産に帰属する純収益を査定することが重要です。
また、還元利回りについても、一般的な賃貸不動産と同じ水準を機械的に用いることは適切ではありません。ゴルフ場は、気象条件、来場者数の変動、コース管理費、人件費、運営ノウハウ、流動性の低さ、大規模修繕リスク、災害リスク等の影響を強く受けるため、これらのリスクを反映した高めの還元利回りを査定する必要があります。
上記の例では、地方都市近郊に所在し、一定の固定客はあるものの、来場者数の大幅な増加は見込みにくく、施設修繕費やコース管理費の負担も相応に見込まれるゴルフ場を想定しています。このようなゴルフ場では、基準となる一般的な収益不動産の利回りが8%程度であったとしても、ゴルフ場特有の収益変動リスク、運営リスク、流動性リスク、災害リスク等を加味すれば、15%前後の還元利回りを検討することが合理的な場合があります。
もっとも、大都市圏からのアクセスに優れ、知名度が高く、会員基盤が強固で、収益が安定しているゴルフ場であれば、これより低い利回りとなる可能性があります。反対に、冬季クローズが長く、来場者数が減少傾向にあり、大規模修繕費や災害復旧リスクが重いゴルフ場であれば、15%を上回る利回りを採用する必要がある場合もあります。
12. 営業利益率の見方
ゴルフ場の収益性を把握する際には、売上高に対する営業利益率も重要な指標となります。
一般的には、営業利益率が高いほど収益力が高く、投資採算性に優れると考えられます。ただし、ゴルフ場は立地、会員構成、コース管理費、冬季クローズの有無、運営体制等により費用構造が大きく異なるため、営業利益率だけで機械的に判断することはできません。
目安としては、次のように整理できます。
| 営業利益率 | 評価上の見方 |
|---|---|
| 20%超 | 優良又は超優良な収益水準と考えられます |
| 10%~15%程度 | 通常の運営努力により達成し得る水準と考えられます |
| 0%~10%程度 | 低収益であり、費用構造や将来修繕費の検討が重要です |
| マイナス | 収益価格は極めて低位又はゼロ近似となる可能性があります |
赤字が継続しているゴルフ場では、単に還元利回りを高めるだけでは不十分です。そもそも安定的な純収益が認められるのか、また、標準的な市場参加者が取得した場合に収益改善が可能なのかを慎重に検討する必要があります。
13. 還元利回りの査定
ゴルフ場の収益価格を求める場合、還元利回りをどの程度に査定するかは、鑑定評価額に大きな影響を与えます。
例えば、同じ不動産帰属純収益が4,000万円であっても、還元利回りが8%であれば収益価格は5億円となります。一方、還元利回りが15%であれば収益価格は約2億6,700万円となります。還元利回りの違いは、評価額に極めて大きな差を生じさせます。
そのため、ゴルフ場評価においては、単に「一般的な収益不動産の基準利回りが8%程度だから、ゴルフ場も8%前後」といった感覚で還元利回りを採用することは適切ではありません。ゴルフ場は、オフィスビルや賃貸住宅のように賃貸借契約に基づく安定収益を得る不動産ではなく、来場者数、客単価、天候、季節性、コース管理、運営能力、地域需要等によって収益が変動する事業用不動産です。
したがって、還元利回りには、ゴルフ場特有のリスクを具体的に反映する必要があります。
13-1. 8%をそのまま採用しにくい理由
ゴルフ場の還元利回りを8%程度とする場合には、対象ゴルフ場について、相応に収益の安定性が高く、投資リスクが比較的低いと説明できる必要があります。
例えば、次のような条件を備えている場合には、還元利回りを比較的低めに査定する余地があります。
- 大都市圏からのアクセスが良好であること
- 高速道路インターチェンジから近いこと
- 年間を通じて営業可能で、冬季クローズがないこと
- 来場者数が安定していること
- 客単価が周辺競合と比較して維持されていること
- 会員数が安定し、年会費収入等の固定的収入があること
- コース及びクラブハウスの維持管理状態が良好であること
- 大規模修繕費や更新投資の負担が限定的であること
- 運営会社の管理能力が高く、収支が安定していること
- 売却需要が見込まれ、流動性が比較的高いこと
このような優良条件を備えるゴルフ場であれば、8%台から10%前後の還元利回りを検討できる場合があります。
しかし、地方部に所在し、冬季クローズがあり、来場者数が減少傾向にあり、施設老朽化や修繕費負担が大きいゴルフ場については、8%の還元利回りではリスクを十分に反映できない可能性があります。
特に、赤字又は低収益が継続しているゴルフ場では、単に8%を採用するのではなく、安定純収益そのものを低く査定するか、または還元利回りを大きく高めて査定する必要があります。場合によっては、安定的な不動産帰属純収益が認められず、収益価格が極めて低位又はゼロ近似となることも考えられます。
13-2. 地域性の反映
還元利回りを査定する際には、まず対象ゴルフ場の所在地域を確認します。
大都市圏近郊のゴルフ場は、背後人口が厚く、ビジター需要も見込みやすいため、収益の安定性が比較的高いと考えられます。例えば、東京近郊、横浜近郊、大阪・神戸近郊、名古屋近郊など、一定の所得層を有する都市圏からアクセスしやすいゴルフ場では、投資家の取得需要も相対的に見込まれやすく、還元利回りを低めに査定する方向に働きます。
一方、地方部や人口減少地域に所在するゴルフ場では、将来的な来場者数の減少、会員の高齢化、若年層の取り込み難、競合施設との価格競争等が懸念されます。このような場合、将来収益の不確実性が高まるため、還元利回りを高めに査定する必要があります。
例えば、同じ営業利益率を確保しているゴルフ場であっても、大都市近郊に所在する場合と、人口減少が進む地方都市郊外に所在する場合とでは、将来の収益安定性や売却時の需要者数が異なります。したがって、地方部のゴルフ場について大都市近郊のゴルフ場と同じ8%を採用するには慎重な検討が必要です。
地方都市近郊に所在し、一定の固定客はあるものの、将来的な来場者数の増加が見込みにくい一般的なゴルフ場では、基準利回りが8%程度であったとしても、12%から15%程度の還元利回りを中心に検討することが実務上自然な場合があります。
13-3. アクセス条件の反映
ゴルフ場は、利用者が現地に来場して初めて収益が発生する施設です。そのため、アクセス条件は収益性に直結します。
高速道路インターチェンジから近く、主要都市から1時間程度で到達できるゴルフ場は、ビジター需要を取り込みやすく、平日利用やコンペ需要も見込みやすいと考えられます。この場合、収益の安定性が高まり、還元利回りを低めに査定する要因となります。
一方、主要都市から遠く、最寄りインターチェンジからも距離があり、公共交通機関からのアクセスも悪い場合には、来場者が限定されます。特に高齢化が進む中で、マイカー利用を前提とした集客に依存するゴルフ場は、将来的に来場者数が減少するリスクがあります。
このようなアクセス劣位のゴルフ場では、たとえ現在の収支が一定程度維持されていても、将来の集客リスクを還元利回りに反映し、8%より相当程度高い水準を検討することが合理的です。
13-4. 天候・季節性リスクの反映
ゴルフ場は屋外型レジャー施設であり、天候の影響を強く受けます。
雨天、台風、猛暑、積雪、強風等により来場者数が減少し、営業収入が変動します。また、降雨や猛暑は単に来場者数を減らすだけでなく、芝の維持管理費、散水費、排水対策費、コース補修費、冷房費等を増加させる要因にもなります。
特に次のような地域では、還元利回りを高める方向で検討する必要があります。
- 冬季に積雪があり、一定期間クローズする地域
- 台風や豪雨の影響を受けやすい地域
- 夏季の猛暑により来場者数が落ち込みやすい地域
- 雨天日数が多く、営業日数や客足が不安定な地域
- 水不足や散水コストの増加が懸念される地域
例えば、冬季クローズが3か月あるゴルフ場と、年間を通じて営業可能なゴルフ場では、年間収入の安定性が異なります。冬季クローズ期間がある場合、営業可能期間に収益を集中させる必要があり、悪天候が重なった場合の収益悪化リスクも大きくなります。
このような場合、還元利回り8%では、年間営業日数の制約や収益変動リスクを十分に反映していない可能性があります。冬季クローズ、台風、豪雨、猛暑等の影響が大きいゴルフ場では、15%前後又はそれ以上の還元利回りを検討する必要がある場合もあります。
13-5. 災害リスクの反映
ゴルフ場は広大な土地を利用するため、災害リスクの影響も大きくなります。
特に、山間部や丘陵地に所在するゴルフ場では、豪雨による法面崩壊、土砂災害、排水不良、カート道路の損傷、池や水路の氾濫等のリスクがあります。また、台風による倒木、停電、クラブハウスや管理施設の損傷、コース内施設の復旧費用も考慮する必要があります。
災害リスクを還元利回りに反映する際には、次の点を確認します。
- ハザードマップ上の土砂災害警戒区域等の該当状況
- 洪水・浸水想定区域の該当状況
- 過去の災害履歴
- 法面、擁壁、排水施設の状態
- 倒木、台風、豪雨による被害実績
- 災害復旧に要する費用負担
- 保険加入状況及び保険でカバーされない損害
- 災害発生時の営業停止期間
例えば、過去に豪雨によるコース損傷や法面崩壊が発生しているゴルフ場では、将来も同様の復旧費用や営業停止リスクが見込まれます。このようなリスクは、単年度の収支実績だけでは十分に表れないことがあります。
したがって、災害リスクが高いゴルフ場については、将来修繕費や災害復旧費を純収益から控除するだけでなく、収益の不確実性として還元利回りにも反映する必要があります。
災害リスクが高く、かつ復旧費用や営業停止期間の見通しが不透明な場合には、15%を超える利回りを検討する必要がある場合もあります。
13-6. 施設老朽化・大規模修繕リスクの反映
ゴルフ場では、クラブハウス、浴室、厨房、空調設備、カート道路、散水設備、排水設備、管理棟、機械設備等について、継続的な維持更新が必要です。
これらの施設が老朽化している場合、今後の修繕費や更新投資が純収益を圧迫します。また、設備の陳腐化が進むと、顧客満足度が低下し、来場者数や客単価にも悪影響を及ぼします。
このため、施設老朽化リスクは、次の2つの面で評価に反映します。
1つ目は、大規模修繕費又は更新投資として純収益から控除する方法です。
2つ目は、将来収益の不確実性や投資負担の大きさとして、還元利回りを高める方法です。
例えば、今後数年以内にクラブハウスの大規模改修やカート道路の全面補修が必要な場合には、純収益を低く査定するだけでなく、投資家が要求する利回りも高くなると考えられます。このようなゴルフ場に8%を採用するには、修繕負担が十分に純収益に織り込まれていること、かつ将来収益の安定性が説明できることが必要です。
施設老朽化が進んでおり、修繕負担が重いゴルフ場では、一般的な基準利回りに小幅な上乗せをするだけでは足りず、15%前後又はそれ以上の還元利回りを検討することが実務的な場合があります。
13-7. 流動性リスクの反映
ゴルフ場は、一般的なマンション、オフィス、商業施設と比べて買主が限定されます。取得後に運営ノウハウが必要であり、収益改善には専門的なマネジメントが求められるためです。
また、ゴルフ場の売買は、立地、会員制度、預託金、借地、従業員承継、運営会社の有無、施設老朽化、転用可能性等によって個別性が強く、流動性が低い傾向があります。
流動性が低い不動産は、投資家が出口リスクを強く意識するため、還元利回りは高めになります。
特に、次のようなゴルフ場では流動性リスクを大きく見る必要があります。
- 地方部に所在し、需要者が限られるゴルフ場
- 赤字又は低収益が継続しているゴルフ場
- 借地や会員権、預託金等の権利関係が複雑なゴルフ場
- 大規模修繕費が見込まれるゴルフ場
- 他用途転用が困難なゴルフ場
- 周辺に競合ゴルフ場が多く、価格競争が激しいゴルフ場
このような場合、仮に一時的に黒字であっても、売却時に買主が限られるため、還元利回りには流動性リスクを反映する必要があります。
一般的な賃貸住宅やオフィスのように投資家層が厚い不動産と比較すると、ゴルフ場は買主が限定されるため、基準利回り8%に対して大きなリスクプレミアムを上乗せする必要があります。
13-8. 還元利回りの査定例
還元利回りを査定する際には、例えば次のように段階的に検討します。
まず、一般的な安定収益型不動産よりも、ゴルフ場は収益変動が大きく、運営依存度が高く、流動性も低いため、基準となる利回りを高めに置きます。
次に、対象ゴルフ場の地域性、アクセス、気象条件、収益安定性、施設状態、災害リスク、流動性等を個別に検討し、利回りを調整します。
例えば、地方都市近郊に所在し、一定の固定客はあるものの、大都市圏からのアクセスは限定的で、冬季に一部クローズがあり、クラブハウスやカート道路の更新負担が見込まれるゴルフ場を想定します。
この場合、次のようなリスクが認められます。
- 地方部所在による将来需要の不確実性
- 冬季クローズによる年間営業日数の制約
- 悪天候による来場者数変動
- 人件費及びコース管理費の上昇
- 施設老朽化による修繕負担
- 売却需要が限定される流動性リスク
このような対象について、還元利回りを8%とすると、収益の変動リスクや流動性リスクを十分に反映していない可能性があります。したがって、地方都市近郊又は収益変動リスクのある一般的なゴルフ場では、12%から15%程度を中心に検討し、さらに冬季クローズ、施設老朽化、災害リスク、赤字継続、売却需要の乏しさ等が認められる場合には、15%を上回る水準も検討することが考えられます。
一方、大都市近郊に所在し、インターチェンジから近く、年間を通じて営業可能で、来場者数及び年会費収入が安定し、施設状態も良好であるゴルフ場であれば、8%台から10%前後の還元利回りを採用する余地があります。
反対に、人口減少地域に所在し、冬季クローズが長く、来場者数が減少傾向にあり、施設老朽化や災害復旧リスクが大きいゴルフ場であれば、15%超の還元利回りを検討する必要がある場合もあります。
13-9. 具体例における還元利回りの補足
前記の数値例では、対象ゴルフ場の還元利回りを15%としました。
これは、対象ゴルフ場について、一定の固定客があり、直ちに営業継続が困難な状態ではないものの、次のようなリスクを考慮したものです。
- 地方都市近郊に所在し、大都市圏からの広域集客力は限定的であること
- 来場者数の大幅な増加は見込みにくいこと
- 夏季の猛暑や雨天により来場者数が変動しやすいこと
- 冬季に営業日数が制約される可能性があること
- コース管理費、人件費、光熱費等の上昇が見込まれること
- クラブハウス、カート道路、散水設備等の修繕負担が相応に見込まれること
- 一般的な収益不動産と比較して買主が限定され、流動性が低いこと
このような事情を踏まえると、8%の還元利回りでは、対象ゴルフ場に固有の収益変動リスク、運営リスク、修繕リスク、流動性リスクを十分に反映しているとは言い難い場合があります。
したがって、本設例では、標準的な収益不動産よりも高いリスクを反映し、15%の還元利回りを採用するものとしました。
ただし、還元利回りは一律に決まるものではありません。大都市圏近郊で収益が安定し、知名度や会員基盤が強く、施設状態も良好なゴルフ場であれば、8%台から10%前後を採用できる場合があります。一方、地方部で収益が不安定、施設老朽化が進行、災害リスクが高い、又は売却需要が限定的なゴルフ場では、15%を超える利回りを検討する必要があります。
14. 鑑定評価額の決定
ゴルフ場の鑑定評価額を決定するにあたっては、収益価格、積算価格、比準価格を比較考量します。
収益価格は、対象ゴルフ場が将来生み出す不動産帰属純収益を基礎に求めた価格であり、需要者の投資採算性を反映する価格です。
積算価格は、土地、造成費、建物、構築物等の再調達原価を基礎とする価格であり、投下資本や施設規模を把握するうえで有用です。
比準価格は、実際のゴルフ場取引事例との比較により市場性を検証する価格です。ただし、事例の少なさや取引事情の個別性には留意が必要です。
ゴルフ場の場合、初期投資額や造成費が大きいため、積算価格が高く試算されることがあります。しかし、需要者が重視するのは、過去にどれだけ費用をかけたかではなく、現在及び将来にどれだけ安定した収益を得られるかです。
したがって、収益価格が積算価格を大きく下回る場合であっても、対象ゴルフ場の収益力が低いのであれば、収益価格を重視して鑑定評価額を決定することが合理的です。
特に、赤字が継続しているゴルフ場、来場者数が減少しているゴルフ場、大規模修繕費が見込まれるゴルフ場では、収益価格を慎重に査定し、積算価格との乖離の理由を明確に説明する必要があります。
15. まとめ
ゴルフ場の鑑定評価では、一般的な土地建物評価とは異なり、事業収益と不動産価値の関係を慎重に分析する必要があります。
ゴルフ場は、自然的要因、立地、会員構成、運営ノウハウ、コース管理、施設状態、気候条件、競合環境等が収益に大きく影響するオペレーショナルアセットです。そのため、評価にあたっては、一般的要因、地域要因、個別的要因を丁寧に分析し、対象ゴルフ場の収益の安定性と将来リスクを把握する必要があります。
収益価格の査定においては、売上高を還元利回りで割るのではなく、売上高から運営費用を控除して純収益を求め、さらに経営者帰属利益等を控除して、不動産に帰属する純収益を把握することが重要です。
また、還元利回りについても、オフィスビルや共同住宅のような安定収益型不動産とは異なり、ゴルフ場特有の気象リスク、運営リスク、流動性リスク、修繕リスク、災害リスク等を反映する必要があります。
基準となる一般的な収益不動産の利回りが8%程度であったとしても、地方都市近郊に所在する一般的なゴルフ場では、ゴルフ場特有の収益変動性や流動性の低さを考慮し、12%から15%程度を中心に検討することが自然な場合があります。さらに、冬季クローズ、施設老朽化、災害リスク、赤字継続、売却需要の乏しさ等が認められる場合には、15%を上回る水準を検討する必要があります。
最終的には、不動産に帰属する純収益を適切な還元利回りで還元して収益価格を求め、積算価格及び比準価格との均衡を検討したうえで、需要者の投資採算性を反映した鑑定評価額を決定することになります。
ゴルフ場評価において重要なのは、「売上の大きさ」や「投下資本の大きさ」ではなく、対象不動産が将来にわたりどれだけ安定した不動産帰属純収益を生み出せるかという視点です。
免責事項
本記事は、ゴルフ場及び事業用不動産の鑑定評価に関する一般的な考え方を整理したものです。個別案件における鑑定評価額、収益価格、還元利回り、純収益、経営者帰属利益、不動産帰属純収益等を具体的に判断するものではありません。
実際の鑑定評価においては、対象不動産の所在地、権利関係、施設の状態、収支実績、会員構成、運営体制、競合状況、将来の修繕費、売却可能性、他用途転用の可能性等を個別に確認したうえで、価格形成要因を総合的に分析する必要があります。
また、本記事中の数値例は、収益価格の考え方を分かりやすく示すための簡略化した設例です。実際の評価において、営業利益率、経営者帰属利益の割合、還元利回り等を一律に適用できるものではありません。
会計上の減損処理、税務上の損金算入、事業再生、売却判断等に利用する場合には、公認会計士、税理士、弁護士、不動産鑑定士等の専門家に、個別事情を踏まえてご相談ください。
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