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減損会計目的における事業用不動産の評価手順

コラム
減損会計目的における事業用不動産の評価手順

-赤字継続施設・ゴルフ場等を想定した実務メモ-

1. 本稿の目的

本稿は、企業会計上の固定資産の減損会計に関連して、赤字が継続する事業用不動産、特にゴルフ練習場、ゴルフ場、ホテル、工場、店舗等を評価する場合に、鑑定評価書又はこれに準ずる価格調査書において、どのような順序で価格形成要因を分析し、どのように回収可能価額の検討資料を作成すべきかを整理するものです。

減損会計における回収可能価額は、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額です。正味売却価額は、資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して求められます。一方、使用価値は、資産又は資産グループの継続的使用及び使用後の処分によって生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値です。

もっとも、不動産鑑定評価書において直接判断すべき対象は、原則として対象不動産の経済価値です。減損損失の認識・測定、会計処理及び税務上の損金算入の可否は、公認会計士、監査法人、税理士等の判断事項となります。

したがって、鑑定評価書又は価格調査書においては、対象不動産の時価、継続使用による収益性、処分可能性、処分費用控除後の正味回収額等を客観的に整理し、会計・税務判断の基礎資料を提供することを目的とします。

なお、会計上の減損損失と税務上の損金算入は別個の問題です。会計上減損損失を計上したとしても、税務上当然に損金算入されるものではありません。この点については、税理士等の専門家による確認が必要です。

2. 評価対象の確定

赤字が継続するゴルフ練習場等を評価する場合、対象を単なる土地建物として把握するだけでなく、事業用資産グループとしての一体性を確認する必要があります。

ゴルフ練習場の場合、土地、クラブハウス、打席棟、防球ネット、鉄塔、照明設備、機械設備、駐車場、外構等が一体となって事業収益を生み出しています。これらは個別に独立したキャッシュ・フローを生み出すものではなく、通常は一体の資産グループとして把握することが相当です。

もっとも、敷地内に独立した賃貸店舗、月極駐車場、未利用地等があり、ゴルフ練習場事業とは別個のキャッシュ・フローを生み出している場合には、当該部分を別資産グループとして把握する必要があります。

また、不動産鑑定評価上の対象不動産と、減損会計上の資産グループは必ずしも完全に一致するとは限りません。そのため、評価にあたっては、鑑定評価上の対象範囲、会計上の資産グルーピング、固定資産台帳上の資産区分を照合し、どの範囲について価格又は回収可能性を検討するのかを明確にする必要があります。

3. 価格の種類及び評価方針

減損会計目的であっても、不動産鑑定評価書においては、まず対象不動産について、不動産鑑定評価基準に基づく価格を把握することが基本となります。通常は、対象不動産の市場価値を示す正常価格の把握が中心となります。

ただし、対象不動産が特殊な事業用不動産であり、継続的な営業赤字、施設老朽化、工作物撤去費用、転用困難性等により、処分費用控除後の正味回収額が著しく低位となる場合には、正常価格とは別に、減損会計上の正味売却価額の検討に資する資料を作成することが考えられます。

この場合、鑑定評価書本体では、まず不動産鑑定評価基準に基づく価格、例えば正常価格等を示し、別紙又は補足資料において、処分費用控除後の正味回収額、使用価値算定の基礎となる事項、資産グループとしての回収可能性を整理することが実務上考えられます。

したがって、評価書又は価格調査書の作成にあたっては、次の事項を区分して整理することが重要です。

  1. 不動産鑑定評価上の価格
  2. 減損会計上の正味売却価額の基礎となる時価
  3. 処分費用見込額
  4. 処分費用控除後の正味回収額
  5. 使用価値算定の基礎となる事項
  6. 会計上・税務上の判断事項

特に、正味売却価額は不動産の時価そのものではなく、時価から処分費用見込額を控除した会計上の概念です。この点を混同しないよう留意する必要があります。

4. 減損の兆候に関する事実整理

対象施設について、営業損益、営業キャッシュ・フロー、来場者数、売上高、稼働率、修繕費、設備更新費等の推移を確認します。

直近3期にわたり営業損益がマイナスで推移している場合、または将来においても営業キャッシュ・フローの改善が見込まれない場合には、対象資産グループの回収可能性が低下しているものとして慎重な検討を要します。

特にゴルフ練習場では、防球ネット、鉄塔、照明設備、打席設備等の維持更新費用が多額となることがあります。そのため、過去の営業赤字だけでなく、将来の設備更新負担を踏まえて継続使用の合理性を判断する必要があります。

この段階では、単に「赤字である」という事実だけでなく、その赤字が一時的なものか、構造的なものかを検討する必要があります。具体的には、商圏人口の減少、競合施設の状況、利用者数の推移、施設の老朽化、設備投資の必要性、営業時間や立地条件の制約等を確認します。

また、経営者の営業努力や一時的な費用増加によって改善可能な赤字なのか、それとも不動産及び施設そのものの市場性・収益性に起因する赤字なのかを区分して検討することが重要です。

5. 原価法の適用

原価法を適用する場合、土地については更地価格を基礎とし、建物及び工作物については再調達原価を求め、物理的減価、機能的減価及び経済的減価を考慮します。

ゴルフ練習場の建物、工作物、防球ネット、鉄塔、照明設備等は、再調達原価が認められる場合であっても、第三者の市場参加者にとって必ずしも同額の経済価値を有するとは限りません。施設の老朽化、利用需要の低下、更新費用の負担、転用困難性等を踏まえ、経済的減価を十分に反映する必要があります。

特に、防球ネット、鉄塔等については、継続使用のための更新費用又は撤去費用が価格形成に大きく影響します。そのため、単純な積算価格に依拠することは適切ではありません。

また、ゴルフ練習場のような特殊施設では、既存建物・工作物が買主にとって有用な資産ではなく、むしろ撤去費用を発生させる負担となる場合があります。このような場合には、建物及び工作物の積算価格を単純に土地価格へ加算するのではなく、買主の取得後利用を想定した経済的価値を慎重に判断する必要があります。

したがって、原価法を適用する場合には、再調達原価から通常の減価修正を行うだけでなく、施設全体の収益性、代替利用可能性、撤去費用、更新費用、市場参加者の需要等を踏まえた経済的減価を十分に検討する必要があります。

6. 取引事例比較法の適用

ゴルフ練習場そのものの取引事例は限定的であることが多いため、可能な限り類似施設の取引事例を収集するとともに、事業用地、大規模画地、転用可能地等の取引事例を補助的に用いて土地価格を把握します。

ただし、対象不動産に建物、工作物、防球ネット、鉄塔等が存する場合、買主はこれらの撤去費用、更新費用、転用リスク等を考慮して価格判断を行うものと考えられます。したがって、単に更地価格をもって対象不動産の処分可能価格とすることはできず、既存施設の存在が価格に与える影響を別途検討する必要があります。

取引事例比較法においては、次のような観点から事例を選択し、補修正を行います。

  1. 地域性
  2. 画地規模
  3. 接道条件
  4. 用途地域及び法規制
  5. 造成の程度
  6. 建物・工作物の有無
  7. 撤去費用の有無
  8. 転用可能性
  9. 売主・買主の事情
  10. 取引時点

ゴルフ練習場としての継続利用を前提とする取引事例が存在する場合には、その事例を重視することが考えられます。一方、買主が既存施設を撤去し、他用途へ転用することを前提とする市場が中心である場合には、事業用地又は転用可能地としての取引事例を重視し、既存施設の撤去費用等を考慮する必要があります。

7. 収益還元法の適用

対象施設が賃貸用不動産ではなく、ゴルフ練習場等の事業用不動産である場合、通常の賃貸収入を基礎とする収益還元法をそのまま適用することは困難です。

この場合、対象事業の営業収支を基礎として、対象不動産に帰属する純収益を検討します。直近の営業損益が継続してマイナスであり、将来においても大幅な収益改善を裏付ける具体的資料がない場合には、継続使用による収益価格は極めて低位又はゼロ近似となる可能性があります。

もっとも、事業収支には経営者の能力、営業方針、人件費、広告費、設備投資方針等の企業固有の要素が含まれます。そのため、不動産そのものに帰属する収益と、事業経営に帰属する収益又は損失を可能な限り区分して検討する必要があります。

例えば、売上高の減少が施設立地、商圏、施設老朽化、競争力低下等に起因する場合には、不動産及び施設そのものの収益性低下として価格形成に反映されやすいと考えられます。一方、経営者の営業方針、広告宣伝不足、人員配置等に起因する場合には、必ずしも不動産自体の価値低下としてそのまま反映すべきではありません。

したがって、収益還元法を適用する場合には、過去実績をそのまま将来予測に用いるのではなく、標準的な市場参加者が対象施設を取得した場合に見込むであろう収益、費用、設備投資、撤去リスク等を検討し、不動産に帰属する収益性を把握する必要があります。

8. 使用価値の検討

使用価値に関連する検討を行う場合には、対象施設を継続使用することにより得られる将来キャッシュ・フロー及び使用後の処分価値を見積もり、これを現在価値に割り引きます。

ただし、使用価値は会計上の概念です。会計上の見積期間、割引率、事業計画の合理性等について、監査法人又は公認会計士の判断と整合させる必要があります。

鑑定評価書又は価格調査書においては、対象不動産の継続使用可能性、収益性、将来修繕費、設備更新費、使用後の処分価値等を整理し、使用価値算定の基礎資料を提供する位置づけとするのが実務上妥当です。

特に赤字継続施設では、将来キャッシュ・フローの見積もりについて、楽観的な事業計画に依拠しすぎないことが重要です。過去の損益実績、来場者数、売上高、修繕費、設備更新費、競合状況等を踏まえ、将来の収益改善可能性を客観的に検討する必要があります。

また、使用後の処分価値については、将来時点における土地価格、建物・工作物の残存価値、撤去費用、売却関連費用等を考慮します。現在時点の価格をそのまま将来時点の処分価値とみなす場合には、その仮定の合理性を明示する必要があります。

9. 正味売却価額の検討

正味売却価額は、対象資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して求めます。

ゴルフ練習場等の場合、処分費用として、建物解体費、防球ネット・鉄塔・照明設備等の撤去費、舗装・外構撤去費、造成・整地費、残置物処理費、測量費、仲介手数料、土壌汚染調査費、アスベスト調査費等を検討する必要があります。

土地自体には一定の価値が認められる場合であっても、既存建物・工作物等の撤去費用及び売却関連費用が多額に上る場合には、処分費用控除後の正味回収額が著しく低位又はゼロ以下となることがあります。

この場合、対象土地単体の市場価値が存在しないという意味ではなく、対象資産グループを一体として処分する場合の正味回収額が実質的に認められないという意味で、備忘価額として1円と整理することが考えられます。

正味売却価額を検討する場合には、次のような流れで整理します。

  1. 対象不動産の処分可能価格を把握します。
  2. 建物・工作物・設備等の市場価値又は撤去負担を検討します。
  3. 解体撤去費、造成整地費、売却関連費用等を見積もります。
  4. 処分可能価格から処分費用見込額を控除します。
  5. 処分費用控除後の正味回収額を判断します。

なお、処分費用については、可能な限り解体業者等の見積書、過去の撤去実績、類似施設の解体事例等の客観資料に基づき検討することが望ましいです。鑑定評価書又は価格調査書において独自に概算する場合には、その前提条件及び限界を明示する必要があります。

10. 正味回収額がゼロ以下となる場合の整理

対象資産グループの処分費用控除後の正味回収額がゼロを下回る場合、減損会計上の正味売却価額の検討においては、実質的な回収可能額は認め難いものとして、備忘価額1円と整理することが考えられます。

ただし、この1円は、対象土地単体の市場価値が存在しないことを意味するものではありません。土地価格、建物・工作物の価値、撤去費用、売却関連費用、転用リスク等を総合した結果、対象資産グループ全体としての処分費用控除後の正味回収額がゼロ以下となることを示すものです。

したがって、報告書においては、単に「鑑定評価額1円」と記載するのではなく、正常価格、処分費用控除前の時価、処分費用見込額、処分費用控除後の正味回収額を区分して整理することが望ましいです。

例えば、土地単体の価格が一定程度認められる場合であっても、防球ネット、鉄塔、建物、舗装、外構等の撤去費用がそれを上回る場合には、資産グループ全体としての正味回収額はゼロ以下となり得ます。この場合の1円は、会計上の検討資料としての備忘価額であり、不動産鑑定評価上、土地そのものが無価値であることを意味するものではありません。

また、正味回収額がゼロ以下となるとの判断は、売却活動の状況、買受需要の有無、撤去費用の見積り、転用可能性、法規制、土壌汚染・アスベスト等のリスクを総合的に検討して行う必要があります。

11. 最終判断

最終判断においては、原価法、取引事例比較法、収益還元法の各試算結果を比較検討し、対象不動産の価格を決定します。

そのうえで、減損会計目的の補足資料として、継続使用による収益性、将来キャッシュ・フロー、使用後の処分価値、処分費用控除後の正味回収額を整理します。

赤字が継続し、将来キャッシュ・フローが見込めず、かつ処分費用が土地等の処分可能価格を上回る場合には、対象資産グループの正味売却価額は実質的にゼロ以下と判断されることがあります。この場合、会計上の検討資料として、備忘価額1円とする整理が考えられます。

ただし、最終的な減損損失の認識・測定は会計上の判断事項です。不動産鑑定評価書又は価格調査書は、その判断の基礎となる不動産価値、収益性、処分可能性等を整理する資料として位置付けられます。

したがって、報告書においては、鑑定評価上の価格判断と、会計上の減損判断を明確に区分して記載することが重要です。

12. 必要資料

評価にあたっては、少なくとも以下の資料を確認します。

  1. 固定資産台帳
  2. 土地・建物登記簿
  3. 公図、地積測量図、建物図面
  4. 建築確認関係資料
  5. 事業収支資料
  6. 直近3期から5期の損益資料
  7. 来場者数、売上高、稼働率の推移
  8. 修繕履歴、設備更新履歴
  9. 防球ネット、鉄塔、照明設備等の仕様資料
  10. 解体撤去費見積書
  11. 土壌汚染、アスベスト等の調査資料
  12. 都市計画、用途地域、開発規制資料
  13. 売却活動資料、仲介会社又は同業者ヒアリング資料
  14. 類似不動産の取引事例
  15. 将来事業計画又は撤退方針に関する社内資料

これらの資料は、対象不動産の価格を求めるためだけでなく、継続使用の合理性、処分可能性、正味回収額、会計上の説明可能性を検討するためにも重要です。

13. まとめ

減損会計目的における事業用不動産の評価では、単に土地建物の価格を求めるだけでは不十分な場合があります。特に、赤字が継続するゴルフ練習場、ゴルフ場、ホテル、工場、店舗等では、事業収支、施設老朽化、撤去費用、転用可能性、市場参加者の需要等を総合的に検討する必要があります。

不動産鑑定評価書においては、まず不動産鑑定評価基準に基づく価格を適切に把握します。そのうえで、減損会計上の検討資料として、正味売却価額の基礎となる時価、処分費用見込額、処分費用控除後の正味回収額、使用価値算定の基礎となる事項を整理することが実務上有用です。

処分費用控除後の正味回収額がゼロ以下となる場合には、会計上の検討資料として備忘価額1円と整理することが考えられます。ただし、それは対象土地単体の市場価値が存在しないことを意味するものではなく、対象資産グループ全体としての処分費用控除後の回収可能性を示すものです。

したがって、減損会計目的の評価においては、鑑定評価上の価格、会計上の正味売却価額、使用価値、税務上の取扱いを混同せず、それぞれの位置づけを明確にしたうえで、客観的かつ合理的な資料に基づき検討を行うことが重要です。

免責事項

本記事は、減損会計目的に関連する事業用不動産の評価実務について、一般的な考え方を整理したものです。個別案件における鑑定評価額、正味売却価額、使用価値、減損損失の認識・測定、会計処理及び税務上の損金算入の可否を判断するものではありません。

実際の会計処理については公認会計士又は監査法人に、税務処理については税理士又は所轄税務署に、不動産評価については不動産鑑定士に、個別事情を踏まえてご相談ください。

また、本記事中の「備忘価額1円」という表現は、対象不動産又は対象資産グループについて、処分費用控除後の正味回収額が実質的にゼロ以下となる場合の会計上の検討資料としての整理を示すものです。対象土地単体の市場価値が存在しないこと、又は常に鑑定評価額を1円とすべきことを意味するものではありません。

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