中心市街地・徒歩圏内住宅地・車通勤型住宅地・郊外外縁部の4類型
分析の結論
・松本市全体の住宅地取引は平均47,438円/㎡、中央値49,000円/㎡であり、最頻価格帯は6~7万円/㎡
である。
・中心市街地では大規模画地の取引が極めて少なく、稀少性による増価の可能性はあるものの、1,000㎡超
は2件にとどまり、統計的な確認はできない。
・徒歩圏内住宅地では1,000㎡超の単価低下が明瞭である。大規模画地には不整形、接道不良、細街路等
が含まれ、規模そのものに加えて分割・造成・開発負担が単価を押し下げている。
・車通勤型住宅地では規模減価は比較的緩やかであり、500~1,000㎡と1,000~3,000㎡の平均単価差は約
▲3%である。条件の良い住居系用途地域では「大きいだけ」で大幅な減価が生じるとは限らない。
・郊外・外縁部では1,000㎡超の単価低下が大きいが、市街化調整区域等の混在が主因であり、純粋な規
模格差と地域・法令格差を分離して考える必要がある。
・「大字」地区全体では1,000㎡超が約▲59%と見える一方、住居系用途地域に限定すると約▲5%であ
る。この差は、規模減価の多くが用途地域・開発可能性の違いを内包していることを示す。
- 松本市住宅地市場の全体像
松本市住宅地 地域類型別・規模格差分析
松本市は、松本駅周辺の中心市街地から、駅徒歩圏の既成住宅地、南松本・平田・村井方面や山辺・岡田方面の車利用型住宅地、さらに波田・梓川・四賀等の郊外・外縁部まで、市場の性格が段階的に変化する。したがって、市全体を一括して規模格差を求めると、立地条件や都市計画条件の混在により、規模そのものの影響が見えにくくなる。
本稿では、住宅地取引を位置・都市構造上の性格から4類型に仮区分し、価格水準、中心価格帯及び規模による単価差を比較した。区分は価格から逆算せず、地区名と位置関係を基礎としている
1 まずは松本市の全体像から
松本市は、松本駅周辺の中心市街地から、駅や中心部に近い既成住宅地、南松本・平田・村井方面や山辺・岡田方面の 車利用型住宅地、さらに波田・梓川・四賀等の郊外・外縁部まで、市場の性格が段階的に変化する。市全体を一括して規 模格差を求めると、立地条件や都市計画条件の違いが混在し、面積そのものの影響が見えにくくなる。
そこで、住宅地取引を位置と都市構造上の性格から 4 類型に仮区分した。価格から逆算した分類ではなく、地区名と位 置関係を基礎にした分析上の区分である。


松本市全体では、平均単価は 47,438 円/㎡、中央値は 49,000 円/㎡である。価格帯では 6~7 万円/㎡が最も多い。ただ し、この「市全体の平均」は、中心部の高価格住宅地から郊外の低価格地までを一緒にした数字であり、規模格差を判断 する基準としてそのまま使うことはできない。

2. 4 つの住宅地市場は、価格帯からして違う
中心市街地は 8~9 万円/㎡、徒歩圏内住宅地は 7~8 万円/㎡、車通勤型住宅地は 6~7 万円/㎡に最頻帯があり、中心部か ら外側へ価格水準が段階的に低下する。郊外・外縁部は 0~1 万円/㎡が最頻帯であり、市街地系 3 類型とは明らかに異なる 市場を形成している。

この差を無視して、松本市全体で「1,000㎡超は何%安い」と一本の率を求めても、地域差を規模差として拾ってしま う。規模格差をみる前に、まず市場を揃える必要がある。
3 1,000㎡を超えると、単価はどう動くか
Tableau で用いている区分に合わせ、まず 1,000㎡以下と 1,000㎡超の平均取引単価を比較した。ここでの差は、規模以 外の要因も含んだ「観測された単価差」であり、そのまま鑑定評価上の個別格差率として採用するものではない。

中心市街地を除けば、大規模画地ほど単価が下がる方向は確認できる。ただし、その程度は地域によって大きく違う。 徒歩圏内では分割・造成・道路条件が効き、郊外では市街化調整区域等の法令条件と低い土地需要が重なる。一方、車通 勤型住宅地では、条件が揃った大規模画地なら規模減価は比較的小さい。 長野県内でも、中心市街地の大規模画地の単価が上がるのは、なかなか珍しい現象である。
「大きいから安い」だけではない
● 大規模になるほど総額が大きくなり、個人の需要者は減る。
● 分譲するなら道路新設・造成・上下水道等の事業費が必要になる。
● 一方、中心部ではまとまった土地が少ないため、再開発や共同住宅用地としての稀少性が価格を支えることもあ る。
4 「大字」の数字が示す、規模減価の落とし穴
地区名が「大字」で始まる住宅地取引は 720 件で、平均単価 37,532 円/㎡、中央値 41,000 円/㎡、最頻価格帯は 4~5 万 円/㎡である。ところが「大字」地区は、市街化区域内の住宅地と市街化調整区域等が同じ地区名の中に混在することが多 い。規模格差を分析するときは、この混在を分けて考えなければならない。

大字地区全体では、1,000㎡超の平均単価は 1,000㎡以下より約▲59%低い。ところが住居系用途地域に限定すると、そ の差は約▲5%まで縮小する。これは非常に重要な結果である。
つまり、「大字だから」「1,000㎡を超えるから」という理由だけで大幅な規模減価をみるのは適切ではない。市街化調 整区域、都市計画区域外、工業系用途、接道条件、開発可能性等の差が、大規模画地側に偏って含まれている可能性があ るためである。規模差をみるなら、こうした条件を揃えたうえで比較する必要がある。
5 中心市街地と徒歩圏内住宅地
中心市街地:稀少性はあり得るが、データはまだ少ない
分析対象は 115 件、平均単価 77,092 円/㎡、中央値 81,000 円/㎡、中心 50%レンジは 68,000~86,000 円/㎡、最頻価格 帯は 8~9 万円/㎡である。4 類型の中で最も高い価格水準が形成されている。
1,000㎡超は開智の 2 件(いずれも約 1,100㎡、8.1~8.2 万円/㎡)のみで、1,000㎡以下の平均を約 6%上回った。ただ し、同一地区・同一時期の少数事例であり、「中心部では大規模画地ほど稀少性で増価する」と結論づけるには足りな い。
それでも、中心部では再開発・共同住宅・事業用地等としてまとまった土地の供給自体が少なく、稀少性が価格を支え る可能性はある。反面、容積率を使い切れるか、接道や形状はどうか、権利調整が必要かといった案件ごとの差も大き い。したがって、一律の規模減価を機械的に当てはめるより、個別の開発可能性をみるべき市場である。
徒歩圏内住宅地:稀少性より「開発負担」が勝ちやすい
分析対象は 370 件、平均単価 62,504 円/㎡、中央値 65,000 円/㎡、中心 50%レンジは 48,250~76,000 円/㎡、最頻価格 帯は 7~8 万円/㎡である。渚、井川城、笹部、鎌田、両島、庄内、清水等を含む既成住宅地で、中心市街地に次ぐ価格帯を 形成する。
1,000㎡超は 11 件で平均 30,764 円/㎡となり、1,000㎡以下の 63,476 円/㎡を約▲52%下回る。500㎡以上 1,000㎡未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の比較でも約▲39%で、規模の大きい側の単価低下は明瞭である。
ただし、大規模事例には接面道路のない事例(征矢野・笹部)、不整形地(清水・笹部・鎌田等)、幅員 3.7~4.0m の 道路に接する事例などが含まれる。このため、観測された減価の全部を「規模」だけで説明することはできない。分割道 路の新設、造成、建築配置、総額の増加による買主層の限定が重なった市場性低下とみるのが妥当である。
注:添付データの「地区名」は笹部までで丁目を識別できないため、本稿では笹部全体を徒歩圏内住宅地に暫定区分している。笹部 1 丁目等に限 定する場合は、住所又は緯度経度を付加した再集計が必要である。
6 車通勤型住宅地と郊外・外縁部
車通勤型住宅地:「大きいだけ」の減価は意外に小さい
分析対象は 926 件で全体の約 55%を占める。平均単価 46,748 円/㎡、中央値 49,000 円/㎡、中心 50%レンジは 33,000~ 62,000 円/㎡、最頻価格帯は 6~7 万円/㎡である。里山辺、島内、島立、笹賀、岡田、寿、平田、村井、野溝等を含み、松 本市の住宅地市場のボリュームゾーンと位置付けられる。
1,000㎡超の平均単価は 41,527 円/㎡で、1,000㎡以下の 47,046 円/㎡に対し約▲12%である。一方、500㎡以上 1,000㎡ 未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の比較では約▲3%にとどまる。大字地区では同一地区内に調整区域を含むため、単純な 1,000㎡区分では規模減価が過大に見えやすい。
住居系用途地域で接道・形状等が標準的であれば、大規模画地でも宅地分譲や共同住宅等の事業採算が成立しやすい。 この類型では「大きいほど必ず安い」のではなく、用途地域、分割可能性、道路新設負担、総額と事業者需要、周辺の標 準区画面積を確認して規模格差を判断する必要がある。
郊外・外縁部:需要者の減少と法令条件が強く効く
分析対象は 275 件、平均単価 17,087 円/㎡、中央値 13,000 円/㎡、中心 50%レンジは 3,350~29,500 円/㎡、最頻価格帯 は 0~1 万円/㎡である。波田、梓川、今井、和田、新村、内田、中山、四賀・安曇方面等を含み、市街地系 3 類型より価格 水準が大きく低い。
1,000㎡超の平均単価は 5,393 円/㎡で、1,000㎡以下の 19,560 円/㎡に対し約▲72%である。500㎡以上 1,000㎡未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の比較でも約▲29%であり、大規模画地の市場性低下は明瞭である。
ただし、大規模事例には市街化調整区域又は都市計画区域外が多く、戸建住宅地として直ちに分割・建築できる土地と 同列には比較できない。需要者層の縮小、総額負担、造成・インフラ整備、農地・山林的利用、開発制約等が複合して単 価を押し下げている。純粋な規模減価をみるには、住居系用途地域又は開発可能性が同程度の事例に絞ることが不可欠で ある。
資料:国土交通省「不動産情報ライブラリ」取引価格情報
7 規模格差は「地域 × 需要者 × 開発可能性」で読む
図 6 面積帯別の平均取引単価
松本市全体では 150~250㎡程度で単価が高く、500㎡を超えると平均単価が低下しやすい。戸建住宅の典型的な需要が 150~300㎡程度に集中し、規模が大きくなるにつれて需要者が個人から開発事業者・法人へ移るためである。面積が大き くなるほど、単なる居住価値よりも総額と開発採算が重視される。

鑑定評価で確認したい 5 つの順番
● 近隣地域における標準的な画地規模はどの程度か。
● 同じ用途地域・同程度の立地で、500㎡以上 1,000㎡未満と 1,000㎡以上 3,000㎡以下の単価差はどうか。
● 開発道路、造成、上下水道等の事業費がどの程度必要か。
● 総額が上がったとき、典型的需要者は個人から事業者へ変わるのか。
● 形状・接道・高低差等の個別的要因が「規模減価」に混ざっていないか。
松本市のデータからみえるのは、「規模格差は一律の率ではない」ということである。特に「大字」「1,000㎡超」とい う形式的条件だけで大幅な減価率を採用すると、市街化調整区域等の地域・法令格差を二重に織り込む危険がある。逆に
資料:国土交通省「不動産情報ライブラリ」取引価格情報不動産鑑定コラム|松本市住宅地の「規模格差」
中心市街地では、まとまった土地の稀少性が単価を支える可能性があり、一般的な規模減価の適用には慎重さが必要であ る。
土地の大きさは、価格を直接決める要因というより、「その土地を誰が、何に使えるのか」を変える要因である。規模 格差を読むときは、面積だけでなく、需要者と開発可能性まで一体として捉えることが重要である。
補足 今回の 4 類型と分析上の留意点
今回の 4 類型は、市場分析のための試案であり、行政上の正式な地域区分ではない。地区名単位の分類であるため、同一 地区内の位置差・丁目差は反映していない。
