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還元利回りの「0.1%」を説明できる鑑定士でありたい

コラム
還元利回りの「0.1%」を説明できる鑑定士でありたい

不動産鑑定士を志して勉強していた頃、私が一番衝撃を受けた文章があります。

田原拓治先生の鑑定コラム「還元利回りの求め方」をはじめとする、還元利回り・期待利回りについて書かれた一連の文章です。

収益還元法を勉強すると、必ず「還元利回り」という数字にぶつかります。

4.0%なのか、4.1%なのか。

鑑定評価書では、投資市場の動向、金融情勢、立地条件、築年数、流動性、将来の不確実性などを考慮して還元利回りを査定します。

もちろん、最終的には不動産鑑定士の判断が必要です。

しかし、田原先生の文章を読んだとき、私はそれまでと違う問いを突きつけられたように感じました。

その0.1%は、どこから出てきたのか。

そして、

なぜ4.0%であって、3.9%でも4.1%でもないのか。

という問いです。

還元利回りを「与えられる数字」にしない

田原先生のコラムで最初に驚いたのは、還元利回りの求め方そのものです。

田原先生は、国債利回りにリスクプレミアムなどを加えて還元利回りを求める方法について、その各割合を実証できないのであれば慎重であるべきだ、という強い問題意識を示しています。

そして、還元利回りを外から持ってくるのではなく、不動産そのものを構成する価格や賃料などから求めようとします。

まず、

粗利回り = 年間賃料総収入 ÷ 土地建物価格

という関係があります。

しかし、現実の不動産はこれだけではありません。

賃料収入には、共益費、保証金等の運用・償却、空室、建物の経年による賃料低下、賃貸可能面積などが影響します。

価格についても、土地価格だけでなく、建物工事費、容積率、建物の経年による減価があります。

そこで田原先生は、これらを分解し、標準粗利回りを次のような算式で表します。

標準粗利回り

㎡当り賃料 × 12 × 共益費修正率 × 運用償却額修正率 × 空室率修正率 × 経年賃料修正率 × 容積率 × 賃貸面積率

÷

(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率 × 償却修正率)

そして、ここから必要諸経費を控除して、

還元利回り = 標準粗利回り ×(1-必要諸経費率)

とします。

田原先生のコラムでは、例えば、

土地単価 200,000円/㎡
建物工事単価 180,000円/㎡
建物価格 135,000円/㎡
償却修正率 0.75
支払賃料 2,000円/㎡・月
共益費修正率 1.05
運用償却額修正率 1.01
空室率修正率 0.95
経年賃料修正率 1.0
容積率 2.0
賃貸面積率 0.8
必要諸経費率 0.35

という条件を置き、

標準粗利回り=0.0823

を求め、さらに、

0.0823 ×(1-0.35)=0.053

として、還元利回りを**5.3%**と求めています。

私が衝撃を受けたのは、「5.3%」という結果そのものではありません。

5.3%という数字を、賃料、土地価格、建築費、空室、経年、レンタブル比、必要諸経費といった、一つ一つ説明可能な数字へ分解していく発想です。

還元利回りを「この地域ではだいたい5%程度」と置くのではない。

5%という数字がどこから来たのかを、可能な限り遡っていく。

この考え方は、鑑定士を志していた私にとって非常に大きな衝撃でした。

期待利回りと還元利回りは「表と裏」

田原先生は、期待利回りと還元利回りについて、非常に分かりやすい表現をしています。

「貨幣でいえば表と裏の関係」

です。

期待利回りは、

基礎価格(土地建物価格)×期待利回り=純賃料

という関係です。

一方、還元利回りは、

純賃料÷還元利回り=土地建物価格

ですから、

還元利回り=純賃料÷土地建物価格

となります。

田原先生は、期待利回りについて、貸主が「これくらい欲しい」と期待する意味での利回りではないと説明しています。

土地価格、地域で形成されている賃料、建物の築年数などの個別性、契約内容などによって形成されるものであり、各不動産ごとに異なる。

そして、期待利回りを最初から直接決めるのではなく、まず価格と賃料から還元利回りを求め、それを期待利回りとして考える。

この考え方も、私には非常に印象的でした。

つまり、利回りを先に決めて価格や賃料を求めるだけではなく、価格と賃料から利回りを逆方向に検証するわけです。

一方向ではなく、反対方向からも数字を見る。

私は、この姿勢こそ鑑定評価では重要なのではないかと思っています。

土地と建物の還元利回りは同じなのか

さらに興味深かったのが、総合還元利回り、土地還元利回り、建物還元利回りについての田原先生の考え方です。

土地と建物を合わせた複合不動産の総合還元利回りが3.0%であったとして、

土地も3.0%、建物も3.0%なのか。

田原先生は、そうではないと考えます。

土地と建物では性質が違います。

土地は通常、経年そのものによって物理的に消滅するものではありません。

一方、建物には経済的耐用年数があり、いずれ建替え、すなわち再取得する必要があります。

そこで田原先生は、建物については、将来再取得するための資金を積み立てていく必要があると考え、その要素を償還基金率によって説明します。

考え方を単純化すると、

土地還元利回り=X

とすれば、

建物還元利回り=X+償還基金率相当

とします。

そして総合還元利回りについて、

(土地価格×土地還元利回り+建物価格×建物還元利回り)
÷(土地価格+建物価格)
=総合還元利回り

という関係を使います。

これは、土地と建物それぞれの還元利回りを、その価格構成割合によって加重平均する考え方です。

総合3.0%から、土地2.2%、建物3.7%へ

田原先生は、京都右京区の例を使って具体的に計算しています。

土地価格 52,650,000円
建物価格 53,280,000円
土地建物価格 105,930,000円
総合還元利回り 3.0%

とします。

建物の経済的耐用年数を40年と考え、その考え方から償還基金率相当を1.5%とします。

土地還元利回りをXとすると、

52,650,000×X
+53,280,000×(X+0.015)

を、

105,930,000

で除したものが、総合還元利回り3.0%になります。

この方程式を解くと、

土地還元利回り 2.2%

となります。

そして、

建物還元利回り
=2.2%+1.5%
=3.7%

となります。

したがって、

総合還元利回り 3.0%
土地還元利回り 2.2%
建物還元利回り 3.7%

という関係になります。

田原先生は、土地還元利回りと建物還元利回りを、それぞれ何の関係もなく単独で決めるのではなく、総合還元利回りから派生させ、三つの利回りを一つの体系として結び付けようとしています。

私は、この考え方にも非常に惹かれました。

「0.1%」には必ず何かがある

もちろん、田原先生の算式や考え方を、そのまま現在のすべての鑑定評価に適用すればよい、ということではないと思っています。

対象不動産は一つ一つ違います。

市場データも完全ではありません。

統計的に十分なデータを得られないこともあります。

市場参加者自身が、数学的なモデルによって投資判断をしているとは限りません。

最後には、不動産鑑定士の判断が必要です。

しかし、それでも私は、田原先生の文章から一つの大切なことを学びました。

数字を決めた以上、その数字には理由が必要だということです。

例えば、還元利回りを4.0%と査定したとします。

3.9%ではない。

4.1%でもない。

その0.1%を説明できるだろうか。

収益価格を

V=a/R

と表せば、Vは収益価格、aは純収益、Rは還元利回りです。

Rが変化すれば、当然Vも変化します。

さらに数学的にみれば、

dV/dR=-a/R²

です。

つまり還元利回りのわずかな変化でも、価格への影響は一定ではありません。

利回りの水準によって、その0.1%が価格に与える影響も変わります。

だから、私にとって0.1%は単なる丸めの問題ではありません。

統計的でも、算術的でも、派生的でもいい

私は、還元利回りの0.1%について、必ずしも一つの方法だけで説明する必要はないと思っています。

十分な取引データがあるのであれば、統計的に説明する。

類似する収益不動産の取引価格と純収益が分かるのであれば、そこから還元利回りを算術的に求める。

土地価格、建築費、賃料、空室率、必要諸経費率などが分かるのであれば、それらの関係から利回りを組み立てる。

一つの数字から直接説明できないのであれば、複数の数字の関係から派生的に説明する。

私が以前扱っていたデリバティブも、その価値が何もないところから突然決まるものではありません。

基礎となる価格、金利、期間、ボラティリティその他の要素があり、それらの関係から価値が派生します。

もちろん、不動産とデリバティブは全く同じものではありません。

しかし私は、不動産の利回りについても、

「この4.0%という数字は、何から派生してきたのか」

と考えたいと思っています。

土地価格から説明できないか。

賃料から説明できないか。

取引利回りの分布から説明できないか。

築年数による差から説明できないか。

空室率から説明できないか。

必要諸経費率から説明できないか。

土地と建物に分解したら説明できないか。

時系列で見たら説明できないか。

統計的に説明できないか。

算術的に説明できないか。

それでも説明できなければ、どこまでが市場データで、どこからが鑑定士の判断なのかを明らかにする。

そこまで考えたうえで、初めて「4.0%」という数字を置きたいと思っています。

0.1%を説明できる鑑定士でありたい

田原先生のコラムを初めて読んだとき、私が受けた一番大きな衝撃は、還元利回りの算式そのものではなかったのかもしれません。

「その数字は、なぜその数字なのか。」

という問いを、最後まで諦めない姿勢だったのだと思います。

不動産鑑定では、最後に一つの数字を決めます。

土地価格を決める。

賃料を決める。

還元利回りを決める。

期待利回りを決める。

割引率を決める。

そして、その数字によって鑑定評価額が変わります。

だから私は、「総合的に勘案した結果、4.0%と判断した」で終わりたくありません。

その0.1%について、

統計的な理由でもいい。

算術的な理由でもいい。

市場データとの比較でもいい。

土地と建物への分解でもいい。

デリバティブのように、別の観察可能な数字から派生させた理由でもいい。

完全な答えにたどり着けなくても、0.1%の根拠を一つでも多く説明しようとする鑑定士でありたい。

田原先生の文章を読んでから、その思いはずっと変わりません。

「なぜ、この0.1%なのか。」

その問いを自分自身に繰り返しながら、数字の根拠を最後まで考え続ける。

私は、そんな不動産鑑定士でありたいと思っています。

あおぎり不動産鑑定  


出典・参考
田原拓治先生「田原都市鑑定 鑑定コラム」
「還元利回りの求め方」
「還元利回り、期待利回りの求め方」
「土地還元利回りと建物還元利回り」ほか

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