― 市場拡大が続く一方、出店余地・立地選別・土地価格の見極めが重要に ―
最近、ドラッグストア用地を想定した土地評価のご相談を受けました。
郊外の幹線道路沿いに位置する土地について、既存建物を取り壊したうえで、ドラッグストアを新築することを前提に、土地価格をどのように考えるべきかという内容でした。
ドラッグストアは、近年、医薬品や化粧品だけでなく、食品、日用品、調剤、健康食品などを幅広く扱う業態へと変化しています。従来の「薬を買う場所」という位置づけから、日常的な買い物を支える生活インフラに近い業態へと広がっているといえます。
そのため、ドラッグストア用地の評価では、単に「店舗が建てられる土地かどうか」だけでは不十分です。周辺人口、交通量、視認性、駐車場の確保、競合店舗、食品スーパーとの関係、調剤需要、幹線道路への接面状況などを総合的に見る必要があります。
本稿では、ドラッグストア業界の市場動向を整理したうえで、ドラッグストア用地の土地評価において確認すべきポイントを考えます。
1 ドラッグストア市場は10兆円規模へ
ドラッグストア市場は、近年大きく拡大しています。
2024年度の全国ドラッグストア総売上高は10兆307億円となり、初めて10兆円の大台を突破しました。前年比は109.0%であり、市場全体として高い成長を維持しています。
また、過去10年を見ると、2014年度の市場規模はおおむね6兆円前後であったところ、10年で約1.7倍の水準に到達しています。スーパーやコンビニが横ばいから微増にとどまる中で、ドラッグストアは年率5~9%の成長を続けてきた業態とされています。
このように、ドラッグストアは小売業の中でも成長性の高い業態です。
土地評価の視点から見ると、成長業態であることは、一定の出店需要につながります。特に、郊外幹線道路沿い、住宅地周辺、生活道路沿い、駐車場を確保しやすい大規模画地では、ドラッグストア事業者の出店候補地となる可能性があります。
ただし、市場が拡大しているからといって、すべての土地がドラッグストア用地として高く評価されるわけではありません。重要なのは、その土地がドラッグストアの出店条件に合うかどうかです。
2 成長の背景は高齢化・健康志向・食品強化
ドラッグストア市場の成長要因としては、高齢化と健康志向の高まり、インバウンド需要の回復、食品強化とPB商品の拡大が挙げられます。
添付資料では、日本の65歳以上人口が3,600万人を超え、総人口の約29%を占めること、慢性疾患の増加や通院頻度の上昇が調剤併設店舗への来店機会を押し上げることが指摘されています。
また、2024年以降は訪日外国人の戻りがドラッグストアの売上を押し上げており、訪日観光客のドラッグストア利用率が高いことも紹介されています。
さらに、近年の成長を分かりやすく説明する要因として、食品強化があります。資料では、フーズ・その他カテゴリーが2兆8,329億円、構成比28.2%にまで拡大し、ドラッグストアが「日用品+食品」のチャネルとして再定義されたとされています。
この点は、不動産評価においても重要です。
食品を強化するドラッグストアでは、来店頻度が高まり、日常使いの店舗としての性格が強くなります。そのため、住宅地周辺、郊外ロードサイド、駐車場を確保しやすい土地、生活動線上の土地が重視されます。
一方で、食品を扱う店舗では、売場面積、搬入動線、バックヤード、駐車台数、周辺スーパーとの競合関係も重要になります。
つまり、ドラッグストア用地の評価では、医薬品販売だけでなく、食品・日用品を含めた日常購買施設として成立する立地かどうかを見る必要があります。
3 調剤併設化が店舗の性格を変えている
ドラッグストア各社にとって、調剤併設店舗の拡大は重要な戦略です。
添付資料でも、調剤併設店舗の拡大はドラッグストア各社の主要戦略であり、純粋な調剤薬局とドラッグストアの調剤部門が競合関係にあることが指摘されています。
調剤併設型の店舗では、通常の物販需要に加え、処方箋応需、健康相談、地域医療との関係が重要になります。
この場合、近隣に病院・クリニック・診療所があるか、高齢者人口が多いか、駐車場を利用しやすいか、歩行者や高齢者が来店しやすいかといった点が、店舗の成立可能性に影響します。
また、調剤併設店では、単なるロードサイド立地だけでなく、医療機関周辺、住宅地周辺、生活利便施設が集まるエリアも評価対象となります。
土地評価においては、調剤併設を前提とするのか、物販中心の郊外型店舗を前提とするのかによって、需要者の想定や賃料水準の見方が変わります。
4 主要プレイヤーの再編が進む
ドラッグストア業界では、大手企業を中心に再編が進んでいます。
添付資料では、2024年度の主要プレイヤーとして、ウエルシアHD、マツキヨココカラ&カンパニー、コスモス薬品、スギHD、ツルハHD、サンドラッグなどが挙げられています。売上1兆円超のチェーンが複数存在する状況は、業界の集中度が一段上がった証拠とされています。
また、2025年12月1日付で、ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスがイオンを軸に経営統合し、売上高2兆3,124億円、店舗数5,659店規模の国内最大のドラッグストアチェーンが誕生するとされています。
業界再編が進むと、出店戦略も変化します。
大手企業は、単に店舗数を増やすだけでなく、既存店との距離、商圏人口、競合店舗、物流効率、調剤併設の可否、食品強化の可否などをより厳密に見て出店判断を行います。
そのため、ドラッグストア用地の評価では、「大手が出店しそうだから高い」と単純に考えるのではなく、複数の候補地の中でその土地が選ばれる理由があるかを確認する必要があります。
5 出店余地は縮小し、立地選別が厳しくなっている
ドラッグストア市場は拡大していますが、課題もあります。
添付資料では、10年で店舗数は1.5倍超に増加し、人口当たりの店舗密度は世界的に見ても高い水準に達していること、1店舗あたりの商圏が縮小し、新規出店の採算ラインが年々厳しくなっていることが指摘されています。
これは、土地評価において非常に重要な視点です。
以前であれば、幹線道路沿いで一定の面積があれば出店候補になった土地でも、現在は競合店舗の密度や商圏人口、既存店とのカニバリゼーションをより厳しく見られる可能性があります。
特に地方都市や郊外では、すでにドラッグストア、食品スーパー、ホームセンター、コンビニ、ディスカウントストアが一定程度出店している地域も多くあります。
そのため、ドラッグストア用地の評価では、周辺に競合店舗が何店舗あるか、既存店と商圏が重複しないか、将来的な人口維持が見込めるか、食品需要を取り込めるかが重要になります。
市場規模が10兆円を超えていることは追い風ですが、出店余地が無限にあるわけではありません。むしろ今後は、より強い立地だけが選ばれる段階に入っていると考えられます。
6 人手不足・物流コストも店舗収益に影響する
ドラッグストア業界では、人手不足と物流コストの上昇も課題です。
添付資料では、ドラッグストアは登録販売者・薬剤師という有資格者を要するため、人件費の構造的な上昇圧力が強い業態であること、最低賃金の引き上げと採用難により店舗運営コストが継続的に膨らんでいることが指摘されています。
また、物流費についても、運送業の供給制約、燃料費、倉庫人件費の上昇が粗利を圧迫しているとされています。
土地評価の観点から見ると、これは賃料負担力に関係します。
店舗運営コストが上昇すると、事業者が支払える賃料や地代には限界が生じます。売上が伸びていても、人件費、物流費、建築費、内装費、設備費が上がれば、土地に配分できる収益は必ずしも大きくなりません。
したがって、ドラッグストア用地を評価する場合には、想定売上だけでなく、建築費、駐車場整備費、賃料負担力、店舗収益性を踏まえて土地価格を判断する必要があります。
7 ドラッグストア用地に求められる条件
ドラッグストア用地として評価されやすい土地には、いくつかの共通点があります。
まず、幹線道路沿い又は生活道路沿いで、車で入りやすいことです。郊外型ドラッグストアでは、車来店を前提とすることが多く、前面道路の幅員、交通量、右折進入のしやすさ、視認性、看板効果が重要になります。
次に、十分な敷地規模があることです。店舗建物だけでなく、駐車場、搬入スペース、緑地、出入口、歩行者動線を確保する必要があります。
また、周辺人口も重要です。ドラッグストアは日常購買施設であるため、一定の居住人口、高齢者人口、世帯数、交通量が必要です。
さらに、競合状況も確認する必要があります。既存のドラッグストア、食品スーパー、ホームセンター、コンビニ、調剤薬局が近接している場合、出店余地は限定される可能性があります。
加えて、用途地域、建ぺい率、容積率、開発許可、農地転用、接道、造成費、上下水道、雨水排水、交通協議、看板規制などの行政的条件も重要です。
8 土地評価では「建物を建てた後の収益」から逆算する
ドラッグストア用地の評価では、周辺の土地取引事例だけで価格を決めることは難しい場合があります。
特に、郊外のパチンコ店跡地、工場跡地、大規模店舗跡地、農地転用地、遊休地などでは、取引事例と対象地の条件が大きく異なることがあります。
このような場合には、想定されるドラッグストアの建物、売場面積、駐車場台数、想定賃料、建築費、造成費、解体費、開発費、事業者の利回りなどを踏まえ、土地建物一体の収益性から土地価格を考える必要があります。
いわゆる土地残余法的な考え方です。
ドラッグストアが入居する建物を新築する場合、土地価格は、完成後の土地建物一体の価値から、建物価格や建築費、事業者利益、リスクなどを控除して求める考え方が有効になる場合があります。
ただし、前提条件の置き方によって価格は大きく変わります。
想定賃料を高く見すぎると土地価格が過大になります。建築費や造成費を低く見すぎても同じです。逆に、競合が強い地域や人口減少地域で強い賃料を想定すると、実際の市場性と合わない評価になる可能性があります。
そのため、ドラッグストア用地の評価では、業界動向と個別立地の両方を確認することが大切です。
9 ドラッグストア用地は「広ければよい」わけではない
ドラッグストア用地は、一定の敷地規模が必要です。
しかし、広ければ広いほど高く評価されるわけではありません。
敷地が広すぎる場合、店舗・駐車場として使い切れない余剰地が生じることがあります。余剰地部分については、ドラッグストア事業者が地代や賃料を負担しにくく、土地価格に十分反映されないことがあります。
また、敷地形状が悪い場合、必要な駐車台数が確保できない、出入口が取りにくい、搬入動線が悪い、建物配置が非効率になるといった問題が生じます。
さらに、前面道路との高低差、既存建物の解体費、地盤改良費、雨水排水施設、上下水道引込、造成費などが大きい場合、土地価格から控除すべき要素になります。
ドラッグストア用地の評価では、面積だけでなく、有効利用できる面積、形状、接道、造成費、駐車場配置、建物配置を確認することが重要です。
10 地方都市では食品スーパーとの競合も重要
近年のドラッグストアは、食品取扱いを強化しています。
添付資料でも、ドラッグストアが「日用品+食品」のチャネルとして再定義され、食品カテゴリーが大きく拡大していることが指摘されています。
このため、ドラッグストア用地の評価では、競合ドラッグストアだけでなく、食品スーパーとの関係も重要になります。
たとえば、近隣に強い食品スーパーがある場合、ドラッグストアが食品需要をどこまで取り込めるかを検討する必要があります。
一方で、食品スーパーが弱い地域や、日用品・食品をまとめ買いできる店舗が少ない地域では、ドラッグストアが地域の生活利便施設として強い競争力を持つ場合があります。
また、コスモス薬品のように食品比率が高い郊外型店舗では、一般的なドラッグストアというより、食品スーパーに近い土地利用として見る必要がある場合もあります。
土地評価では、業態名だけでなく、その店舗がどのような商品構成で、どのような商圏を取りに行くのかを想定することが重要です。
11 ドラッグストア用地評価で注意すべきこと
ドラッグストア用地の評価で注意すべき点は、業界全体の成長と、個別土地の市場性を混同しないことです。
ドラッグストア市場は10兆円規模に成長し、今後も調剤、食品、ヘルスケアサービスなどを軸に一定の成長が見込まれます。添付資料では、JACDSが2030年に13兆円産業化を新たな目標として掲げていることも紹介されています。
しかし、業界全体が成長しているからといって、すべての出店候補地の価値が上がるわけではありません。
出店余地の縮小、競合店舗の増加、人件費・物流費の上昇、ECとの競合、建築費の上昇などにより、出店判断はむしろ厳しくなっています。
そのため、評価対象地がドラッグストア用地として適しているかどうかは、個別に検証する必要があります。
具体的には、商圏人口、交通量、視認性、駐車場確保、競合店舗、医療機関との位置関係、食品需要、行政規制、造成費、建築費、想定賃料、テナント需要を丁寧に確認することが必要です。
12 まとめ
ドラッグストア市場は、2024年度に全国売上高10兆307億円となり、初めて10兆円の大台を突破しました。過去10年で市場規模は約1.7倍に拡大しており、小売業の中でも成長性の高い業態です。
成長を支えているのは、高齢化と健康志向、調剤併設化、インバウンド需要、食品強化、PB商品の拡大です。
一方で、店舗数の増加により出店余地は縮小し、1店舗あたりの商圏も狭くなっています。人手不足、物流費上昇、ECとの競合も課題となっており、今後は単に出店数を増やすのではなく、立地の選別、単店収益性、調剤・食品・ヘルスケアサービスの強化が重要になります。
ドラッグストア用地の土地評価では、業界全体の成長性だけでなく、対象地が実際に出店候補地として成立するかを確認する必要があります。
幹線道路沿いか、視認性があるか、駐車場が確保できるか、周辺人口が十分か、競合店舗が多すぎないか、食品スーパーとの競合はどうか、調剤需要が見込めるか、造成費や解体費はどの程度か、建物配置が可能かといった点を総合的に見ることが重要です。
特に、既存建物を取り壊してドラッグストアを新築する場合には、土地建物一体の収益性から土地価格を逆算する考え方も必要になります。想定賃料、建築費、造成費、解体費、事業者利回りを慎重に検討しなければ、土地価格を過大又は過小に判断してしまう可能性があります。
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