COLUMNS

被災された方の生活再建を支えるために

コラム
被災された方の生活再建を支えるために

――不動産鑑定士として学ぶ、住家被害認定調査の備忘録

1 住まいの被害を確かめる仕事について、学び始めました

地震や豪雨による災害では、住まいが損傷し、それまでの暮らしを続けることが難しくなる場合があります。避難や片付け、修理の手配に加え、さまざまな申請や今後の生活の判断を迫られることもあります。

住まいは、土地と建物だけでできているものではありません。日々の生活や家族との時間、思い出が積み重なった場所です。その被害を調べる仕事には、建物の状態を正確に見る知識とともに、そこで暮らしてきた方への配慮が欠かせないと感じます。

不動産鑑定士の社会的な役割の一つに、被災自治体が行う「住家被害認定調査」への協力があります。国土交通省も、不動産鑑定士の専門性を生かせる災害支援の分野として紹介しています。国土交通省

私も将来、必要な研修を受け、こうした調査に携われるようになりたいと考えています。その準備として、内閣府の『災害に係る住家の被害認定基準運用指針』を読み、まず理解しておきたい点を整理しました。

本稿は、令和8年6月版の指針に基づく、自分自身の学習のための備忘録です。実際に調査を経験した立場からの解説ではなく、これから学びを深めていくための記録としてまとめています。

2 住家被害認定調査は、生活再建を支えるための調査です

住家被害認定調査は、災害によって住まいがどの程度の被害を受けたかを、一定の基準に沿って調べるものです。

その調査結果は、市町村が交付する罹災証明書に記載される被害の程度を判断するために用いられます。罹災証明書は、各種の被災者支援制度における判断材料の一つになります。

ただし、認定区分だけで、すべての支援内容が決まるわけではありません。利用できる制度や要件は、それぞれ確認する必要があります。

ここで大切なのは、調査が建物の損傷を記録する作業にとどまらず、その後の生活再建に関わるという点です。結果を早く知らせることも、被害を見落とさず正確に把握することも、どちらも重要になります。

なお、不動産鑑定士が単独で罹災証明書を発行するわけではありません。自治体の調査体制の中で、関係する職員や専門家と協力する仕事として理解しています。

3 「被害の認定」と「建物の安全性の判定」は異なります

最初に整理しておきたいのが、似た名称の調査との違いです。

調査・判定主な目的
住家被害認定調査罹災証明書等に必要な、住家の被害の程度を把握します
被災建築物応急危険度判定倒壊や落下物などによる二次災害を防ぐため、当面の使用に伴う危険性を判定します
被災宅地危険度判定擁壁の倒壊や地盤被害など、宅地の危険性を判定します
地震保険等の損害調査保険・共済の基準に基づき、支払のための損害を調べます

これらは目的と基準が異なるため、結果が一致するとは限りません。応急危険度判定で「危険」とされた住家が、住家被害認定でも必ず「全壊」になるわけではありません。

逆に、住家被害認定の結果だけで、建物に安全に立ち入れると判断することもできません。

被災された方にとって、複数の調査が行われ、異なる結果が示されることは分かりにくいと思います。調査に携わる側には、「何を調べるための調査なのか」を、専門用語だけに頼らず説明する責任があります。

4 被害の区分は六つあり、損害割合で整理されます

指針では、住家の被害を次の六つに区分しています。

被害区分損害割合による区分
全壊50%以上
大規模半壊40%以上50%未満
中規模半壊30%以上40%未満
半壊20%以上30%未満
準半壊10%以上20%未満
準半壊に至らない(一部損壊)10%未満

この「損害割合」は、建物の主要な構成要素の被害を、住家全体に対する割合として評価するものです。修理見積額を購入価格で割った数字でも、壊れた床面積の割合でもありません。

「全壊」も、建物が完全に崩れている場合だけを意味するものではありません。居住のための基本的な機能や、指針に定められた損傷・傾斜などを踏まえて判定します。

また、名称として「一部損壊」とされても、そこで暮らす方の負担が小さいという意味ではありません。制度上の区分と、生活上の困難やお気持ちを同じものとして扱わないことを、忘れずにいたいと思います。

5 地震では、外観だけでは分からない被害にも注意します

地震による被害の調査は、基本的に第1次調査と第2次調査に分けられています。

第1次調査では、外観の損傷、建物の傾斜、外から確認できる主要な部位の被害を調べます。第2次調査では、原則として申請者の立会いのもとで内部にも入り、より詳しく確認します。

ただし、必ず一律の順番で進めるわけではありません。外観の被害が軽微でも内部の被害が大きいと考えられる場合には、第2次調査から始めることも指針に示されています。

学習上、特に気を付けたいのは、「外からきれいに見えるから、被害も小さい」と決め付けないことです。内壁、床、天井、建具、設備などに被害が生じている可能性があります。

また、内部への立入りに危険がある場合は、安全を優先します。被害を詳しく確かめるためであっても、被災された方や調査員を新たな危険にさらしてはいけません。

6 部位ごとの被害を、住家全体の損害割合にまとめます

部位による判定では、屋根、柱・耐力壁、床、壁、建具、基礎、設備などの損傷を調べ、それぞれの構成比を使って住家全体の損害割合を求めます。

例えば、地震による木造・プレハブ住家の第2次調査では、次の構成比が示されています。

部位構成比
屋根15%
柱または耐力壁15%
床・階段10%
外壁10%
内壁10%
天井5%
建具15%
基礎10%
設備10%

計算の基本は、「部位の損傷率×部位別構成比」です。

仮に、構成比10%の部位の損傷率が50%なら、住家全体への寄与は5%になります。ただし、実際の損傷率は、指針の損傷程度や損傷範囲に沿って求めます。見た印象だけで数字を付けるものではありません。

さらに、傾斜や主要な構造部分の著しい損傷については、別の判定・計算上の取扱いがあります。単純な足し算だけで終わらせず、該当する調査フローを確認する必要があります。

まずは一つの調査区分を選び、部位の確認から調査票の記入、計算までを通して練習することが、理解につながりそうです。

7 水害では、浸水の深さと被害の状況を区別して確認します

水害では、浸水深が重要な判断材料になります。

令和8年6月版の指針では、木造・プレハブの戸建て1~2階建てについて、第1次調査の浸水深による基本的な判定が、次のように整理されています。

床から上の浸水深基本的な判定
1.8m以上大規模半壊
1m以上1.8m未満中規模半壊
0.1m以上1m未満半壊
床上に達しているが0.1m未満準半壊
床上まで達していない準半壊に至らない(一部損壊)

ここでは、地面からの水の高さと、床上の浸水深を取り違えないことが大切です。

また、この表をすべての建物に適用することはできません。対象となる構造・階数が限定されています。水流やがれきの衝突によって外壁と建具が指針所定の程度まで破壊されている場合には、別の判定基準になります。

水が引いた後には、被害の状況が分かりにくくなることもあります。床、壁、建具、設備などの状態を確認し、必要に応じて内部を調べることが重要です。

「床下浸水だから生活への影響も小さい」といった言い方は避けたいと思います。判定区分を説明する際にも、片付けや衛生面、生活上の負担とは区別して伝える必要があります。

8 液状化や不同沈下では、建物の傾きと地盤の被害を学びます

地震では、建物の部材が壊れるだけでなく、地盤の液状化や不同沈下によって住家が傾いたり、沈み込んだりする場合があります。

令和8年6月版の指針では、能登半島地震などの被害実態を踏まえ、床の傾斜の測定方法の改善や、第1次調査における中規模半壊の判定基準の新設などが行われています。

私が学習上注意したいのは、柱や外壁の傾斜と、床の傾斜を同じものとして扱わないことです。また、傾斜の数値だけを覚えるのではなく、測定する場所や方法、適用する条件まで理解する必要があります。

例えば、1/100の傾斜は、水平距離1mに対して高さが1cm違う割合です。しかし、この数字だけで認定区分を決められるわけではありません。不同沈下の状況や、ほかの被害との組合せを、該当するフローに沿って確認します。

この分野は、文章を読むだけでなく、測定器の使い方や現場での確認方法を研修で学びたい部分です。

9 写真、聞き取り、説明も、調査の大切な仕事です

被災後には、生活を取り戻すために片付けや修理が進みます。調査時点で、被害直後の状態が残っていないこともあります。

指針では、片付け、修理、解体、積雪などで十分に確認できない場合、被災された方から提供された写真や聞き取りによって損傷状況を把握することも示されています。

調査する側の都合から、片付けを進めた方を責めるような言い方にならないよう注意したいと思います。残っている資料と現地の状態を照らし合わせ、どこまで確認できたかを丁寧に記録する姿勢が必要です。

判定結果について再調査の依頼があった場合には、依頼内容を精査し、必要と考えられる点を再調査します。その結果は、理由とともに説明します。

正確な記録は、後から判断を確かめるためだけでなく、同じ事情を何度も説明していただく負担を減らすことにもつながると思います。

調査の目的、撮影や立入りの必要性、確認できた内容を分かりやすく伝え、安易に認定結果や支援内容を約束しないことも、誠実な対応の一部です。

10 平時に学び、必要なときに役立てるようになりたいと思います

不動産鑑定士として建物の状態を調べる経験があっても、それだけで住家被害認定調査を適切に行えるとは限りません。制度の目的、災害別・構造別の判定方法、測定、記録、説明を、改めて学ぶ必要があります。

今回の学習では、まず次の点を繰り返し確認していきたいと思います。

  • 住家被害認定と、応急危険度判定・保険調査の違い
  • 六つの被害区分と、損害割合の意味
  • 第1次調査、第2次調査、再調査の関係
  • 部位別の損傷を確認し、計算する方法
  • 浸水深、傾斜、不同沈下の測定と適用条件
  • 安全を確保し、被災された方に配慮して説明する方法

研修や調査票の演習を通じて理解を深め、所属する不動産鑑定士協会などの支援体制も確認していきたいと考えています。

被害を基準に沿って正確に認定することと、被災された方の気持ちを大切にすることは、両方とも必要です。思いやりから基準を変えるのではなく、見落としを防ぎ、根拠を確かめ、丁寧に説明することが、専門家としての支援につながるのだと思います。

災害が起きないことを願いながら、必要なときには役に立てるよう、平時に準備を重ねていきたいです。将来、自治体や関係する専門家と協力し、住家被害認定調査を通じて、被災された方の生活再建を支える一員になれればと考えています。

この解説について詳しく相談したい方へ

金融実務に精通した不動産鑑定士が、客観的で精緻な評価を行います。

お問い合わせはこちら