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土地と建物を「一体」の取引事例比較法で比べることはできないのか

コラム

Sales Comparison Approach を、日本の鑑定実務でどう考えるか

中古の戸建住宅を探すとき、買主は必ずしも、

「土地はいくら、建物はいくら」

と完全に分けて考えているわけではありません。

実際には、

「こちらは土地建物込みで4,500万円、あちらは4,800万円。築年や立地、間取りを考えると、こちらの方がよい」

というように、土地と建物が一体となった総額で比較することが多いと思います。

ところが、不動産鑑定の実務では、この「土地建物一体での比較」が意外に難しいテーマです。


日本の鑑定評価基準では3手法を関連づける

日本の不動産鑑定評価基準では、自用の建物及びその敷地について、

積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて鑑定評価額を決定する

という考え方が示されています。

つまり理論上は、

Cost Approach / 原価法
Sales Comparison Approach / 取引事例比較法
Income Approach / 収益還元法

の3つの視点から不動産を見ることになります。国土交通省の検討資料でも、この点が明記されています。国土交通省

ただし、戸建住宅などの実務では事情が少し異なります。

国土交通省の同資料では、建物及びその敷地の取引事例について、価格形成要因の比較に必要となる詳細情報を集めることが一般に難しいため、取引事例比較法が適用されないことが多いと説明されています。戸建住宅の場合には、土地を取引事例比較法等、建物を原価法で査定し、合算して積算価格を求めるのが通常であるとも整理されています。国土交通省

これは、実際の鑑定評価書でよく見かける、

「土地及び建物それぞれについて、対象不動産と類似する取引事例を同一の尺度で比較することが困難であるため、取引事例比較法の適用を断念した」

という考え方につながっています。


なぜ一体比較が難しいのか

例えば、同じ5,000万円で売れた戸建住宅が2つあったとしても、その中身は大きく違います。

一方は、

  • 土地価値が4,000万円
  • 建物価値が1,000万円

かもしれません。

もう一方は、

  • 土地価値が2,500万円
  • 建物価値が2,500万円

かもしれません。

総額だけを比較すると同じ5,000万円ですが、価値の構成は全く異なります。

さらに、

土地については、

立地、接道、面積、形状、地勢、用途地域、容積率

などが価格を左右します。

建物については、

築年、構造、施工品質、維持管理、間取り、設備、機能性、残存耐用年数

などが影響します。

このため、「土地建物一体で比較する」と言っても、単純に

5,000万円 ÷ 延床面積

だけでは十分ではありません。

海外では Sales Comparison Approach(取引事例比較法)がより前面に出る

米国の鑑定実務では、Sales Comparison Approach(取引事例比較法) は非常に重要な位置づけにあります。

Appraisal Institute は、類似する取引事例を選ぶ際に、location(立地)、size(規模)、condition(状態) など、市場参加者が価格差として認識する要素を比較し、重要な差異について adjustment(補正) を行うという考え方を示しています。

特に、single-family residence(戸建住宅) や owner-occupied commercial property(自己使用の商業用不動産) では、Sales Comparison Approach(取引事例比較法)が主要な手法となる場合が多いと説明されています。

IAAOの Guide to Real Property Demonstration Appraisal Report Writing でも、Sales Comparison Approach(取引事例比較法)について、

subject property(対象不動産)と recently sold comparable properties(最近成約した比較可能な不動産)を比較する

ことを基本とし、比較表、いわゆる Adjustment Grid(補正比較表) を作成する考え方が示されています。

そこでは、例えば、

  • Location(立地)
  • Physical characteristics(物理的特性)
  • Condition(維持管理・劣化状態)
  • Zoning(用途地域・法的規制)
  • Property rights(権利関係)
  • Conditions of sale(取引条件)

などを比較し、取引事例を補正していきます。

特に重要なのは、adjustment(補正)は可能な限り market-derived(市場データから導かれたもの)であるべきという点です。

つまり、単純に「修繕費が100万円かかるから100万円差し引く」という考え方ではなく、その違いを市場参加者が実際にどの程度価格差として認識しているのかを取引市場から検証することが重視されています。

韓国でも、「鑑定評価に関する規則」において比較方式が明確に位置づけられており、거래사례비교법(取引事例比較法) は、対象物件と価値形成要因が同一または類似する取引事例を比較し、事情補正、時点修正、価値形成要因の比較等を行って価格を求める方法と定義されています。

では、日本でも土地建物一体で比較するとしたら?

ここからは、まだ実験的な考え方です。

私が試しているのは、

Component-weighted Sales Comparison

とでもいうべき方法です。

完全に土地と建物を一つの単価で比較するのではなく、

一体取引を出発点としつつ、土地部分と建物部分の価格形成要因を別々に比較し、最後に再び一体価格へ戻す

という考え方です。


STEP 1 まず「土地建物一体」の類似取引を探す

例えば対象不動産を、

A市所在
RC造4階建
20戸
延床960㎡
土地1,200㎡
築18年程度の一棟アパート

とします。

比較事例は、

隣接するB市
RC造4階建
18戸
延床850㎡
土地900㎡
築15年程度
取引価格2億4,500万円

という架空の取引事例とします。

ここでは、実際のお客様情報とは一切関係のない架空設定にしています。


STEP 2 まず Comparable Sale の価格構成を整理する

比較事例の2億4,500万円について、

参考的に、

  • 土地 7,000万円
  • 建物 1億7,500万円

という構成であったとします。

これは、本来なら契約内容、固定資産評価、土地価格水準、再調達原価、収益分析などから慎重に把握する必要があります。

ここで一度分ける理由は、土地と建物では価格形成要因が違うからです。


STEP 3 Land Adjustment Grid

土地は、

  • 地域格差
  • 規模
  • 形状
  • 地勢
  • 接道
  • 公法上の規制

などを比較します。

例えば、

比較項目SubjectComparable
規模98100
形状100100
地勢100100
接道100102
公法規制100100

のように整理します。

ただし、この評点は単なる感覚値で終わらせてはいけません。

本来は、

取引事例、地価公示、路線価比、回帰分析

などから、市場参加者が実際にどれくらい価格差を認識しているのかを検証する必要があります。


STEP 4 Building Adjustment Grid

建物については、

  • 築年
  • 残存耐用性
  • 物理的状態
  • 修繕負担
  • 間取り
  • 設備水準
  • 戸数・規模
  • 賃貸運営効率

などを比較します。

例えば、

比較項目SubjectComparable
建物規模・配置100100
築年・残存耐用性98100
維持管理状態100103
間取り・機能性102100
設備水準100100
賃貸運営効率100102

というような Adjustment Grid を作ります。

米国の考え方でも、こうした property characteristics を一覧化し、どの差が価格に影響するのかを明示することが重視されています。IAAO


STEP 5 最後にもう一度、土地建物を一体に戻す

今回の架空例では、比較事例を補正すると、

土地:約8,040万円
建物:約1億8,805万円

となり、

土地建物一体の参考価格

約2億6,845万円

という結果になります。

延床面積当たりでは、

約28.0万円/㎡

です。

もちろん、この数字自体に意味があるわけではありません。

大切なのは、

Comparable Sale
↓
Land Adjustment
↓
Building Adjustment
↓
Integrated Indication

というプロセスです。


これは正式な「第4の手法」ではありません

ここは非常に重要です。

今回の方法は、現時点では、

「不動産鑑定評価基準に定められた新しい手法」ではありません。

むしろ、

積算価格が、市場で実際に取引される土地建物一体の価格感から大きく外れていないか

を確認するための、

Marketability Check

市場性の参考検証

として考える方が適切だと思っています。

特に、今回のように単一事例だけを使用する場合には、正式な取引事例比較法として十分とは言えません。

実際の鑑定評価として適用するのであれば、

  • 複数の類似事例
  • 取引条件の確認
  • 時点修正
  • 地域格差
  • 建物状態
  • 市場から抽出した補正率

などを整備する必要があります。


それでも、この考え方には意味がある

日本の鑑定評価では、

土地は土地、建物は建物

として精緻に評価します。

これは合理的です。

一方で、実際の買主は、

「土地4,000万円+建物1,000万円だから買う」

のではなく、

「この家が5,000万円なら、隣の4,800万円の物件と比べてどうか」

と考えることが多いでしょう。

つまり、

Cost tells us what it costs.

Income tells us what it earns.

Sales tell us what the market actually paid.

という3つの視点があります。

日本の原価法が非常に精緻だからこそ、そこに

「実際に市場で土地建物がいくらで売買されたのか」

という Sales Comparison の視点を加えることには、一定の意味があると考えています。

まだ実験段階ですが、こうした方法を使って、

積算価格と市場価格の距離を可視化する

ことができないか、今後も検討していきたいと思います。


参考文献

国土交通省の既存住宅評価に関する検討資料では、自用の建物及びその敷地について積算価格・比準価格・収益価格を関連づけること、また戸建住宅では一体取引の詳細データ収集が難しく、取引事例比較法が適用されないことが多いと説明されています。国土交通省

また、IAAOでは Sales Comparison Approach について、subject と comparable の主要特性を grid で比較し、location や physical characteristics 等を market-derived adjustment により補正する方法を示しています。IAAO

韓国の「鑑定評価に関する規則」でも、比較方式・取引事例比較法が明確に制度化されています。法律情報ポータル

Appraisal Institute も、類似取引の選定と重要差異の adjustment を Sales Comparison Approach の中心的な考え方として説明しています。

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