― 親族間売買・法人個人間売買で「時価」を説明するために ―
不動産を親族間、同族会社、資産管理法人などへ移転する場合、問題になりやすいのが「時価よりも低い金額で売却してよいのか」という点です。
いわゆる低廉譲渡の問題です。
不動産は、現金や上場株式と異なり、日々の市場価格が明確に表示されているわけではありません。同じ地域の土地であっても、面積、形状、接道、用途地域、建物の有無、賃貸借の有無、造成費、解体費、権利関係などによって価格は大きく変わります。
そのため、親族間売買や、オーナー個人とその資産管理法人・同族会社との間の売買では、「この売買価格は時価として合理的に説明できるのか」「税務調査で低すぎると指摘されないか」という点が重要になります。
本稿では、不動産の低廉譲渡について、個人に譲渡する場合と法人に譲渡する場合の違い、不動産鑑定評価を取得する意味、税務調査への備えについて整理します。
1 低廉譲渡とは何か
低廉譲渡とは、一般に、時価よりも著しく低い価額で資産を譲渡することをいいます。
不動産の場合、典型的には次のようなケースです。

このような取引では、当事者間では合意していても、税務上は「時価との差額」に課税上の問題が生じることがあります。
特に注意が必要なのは、譲渡先が個人か法人かによって、譲渡人側の課税関係が変わるという点です。
2 個人に対する低廉譲渡
居住者が、譲渡所得の基因となる資産を個人に対して、譲渡時の価額の2分の1に満たない金額で譲渡した場合でも、法人に対する低額譲渡のように、直ちに時価で譲渡したものとみなされるわけではありません。
ただし、その譲渡対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合、その不足額は、譲渡所得の計算上なかったものとみなされます。
つまり、個人に対する著しい低額譲渡では、譲渡人側について、原則として時価譲渡課税ではなく、譲渡損失を認めないという形で調整されます。
たとえば、次のような例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産の時価 | 1億円 |
| 親族への譲渡価額 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用の合計 | 6,000万円 |
この場合、譲渡価額4,000万円は時価1億円の2分の1未満です。
また、譲渡価額4,000万円は、取得費・譲渡費用の合計6,000万円を下回っています。
形式的には、2,000万円の譲渡損失が発生しているように見えます。
しかし、この不足額2,000万円は、譲渡所得の計算上なかったものとみなされます。
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡価額 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用 | 6,000万円 |
| 不足額 | 2,000万円 |
| 税務上の取扱い | 損失はなかったものとされる |
したがって、親族間の低額譲渡によって意図的に譲渡損失を作り、その損失を他の所得や譲渡益と通算するような使い方はできません。
なお、個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、譲受人側では、時価と支払対価との差額について贈与税の問題が生じる場合があります。
3 法人に対する低廉譲渡
これに対して、個人が法人に対して土地や建物を時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合には、取扱いが大きく異なります。
法人への低額譲渡に該当する場合、実際に受け取った売買代金ではなく、その土地や建物の時価を収入金額として譲渡所得を計算することがあります。
たとえば、次のような例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産の時価 | 1億円 |
| 法人への譲渡価額 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用 | 3,000万円 |
実際の売買代金は4,000万円であっても、法人への低額譲渡に該当する場合、譲渡所得の計算上は、時価1億円で譲渡したものとして扱われる可能性があります。
| 計算項目 | 実際の売買 | 税務上の計算 |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 4,000万円 | 1億円 |
| 取得費・譲渡費用 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 譲渡所得 | 1,000万円 | 7,000万円 |
この場合、実際には4,000万円しか受け取っていないにもかかわらず、税務上は1億円を収入金額として譲渡所得が計算される可能性があります。
これが、法人への低額譲渡で特に注意すべき点です。
4 個人と法人の違いを整理する
低廉譲渡では、相手方が個人か法人かで、譲渡人側の課税関係が大きく変わります。

このように、低廉譲渡では、単に「安く売った」というだけでなく、誰に売ったのかが非常に重要です。
特に、資産管理法人や同族会社を使った不動産移転では、法人への低額譲渡に該当しないかを慎重に確認する必要があります。
5 不動産鑑定評価を取得する意味
低廉譲渡で問題になるのは、結局のところ「時価はいくらか」という点です。
不動産の時価は、固定資産税評価額や相続税路線価だけで機械的に決まるものではありません。
実際には、次のような価格形成要因を確認する必要があります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 土地の所在・用途地域 | 住宅地、商業地、工業地、調整区域など |
| 面積・形状 | 過大地、不整形地、旗竿地、間口・奥行 |
| 接道条件 | 道路幅員、接道方位、建築基準法上の道路か |
| 利用状況 | 更地、建物付、賃貸中、底地、借地権付建物 |
| 建物状況 | 築年数、構造、維持管理、解体費 |
| 市場性 | 需要者、売却可能性、地域の取引水準 |
| 収益性 | 賃料、空室、利回り、建物残存耐用年数 |
| 法的制限 | 都市計画、建築規制、農地法、開発許可など |
不動産鑑定評価では、これらの要因を確認したうえで、取引事例比較法、収益還元法、原価法などを用いて、対象不動産の価格を判定します。
親族間売買や法人への売買において、不動産鑑定評価を取得する意味は、単に「価格を出す」ことだけではありません。
重要なのは、なぜその価格が合理的なのかを説明できる資料を残すことです。
税務調査において価格の妥当性を問われた場合、売買契約書だけでは「当事者がその価格で合意した」ことは分かっても、「その価格が時価として妥当であった」ことまでは十分に説明できない場合があります。
そのため、時価の説明が重要となる取引では、不動産鑑定評価書や価格調査報告書を事前に取得しておくことが有効です。
6 では、なぜ鑑定評価が必要なのか
不動産鑑定評価書を取得したからといって、税務調査を完全に回避できるわけではありません。
また、不動産鑑定評価書があれば、必ず税務上否認されないというものでもありません。
税務上の判断は、最終的には税務署、国税不服審判所、裁判所等において、個別事情を踏まえて判断されます。
それでも、親族間売買や法人個人間売買において鑑定評価が重要なのは、売買価格について、当事者自身が自信を持って説明できるようにするためです。
たとえば、親から子へ不動産を売却する場合、親族間で合意した価格であっても、第三者から見れば「本当にその価格が適正なのか」という疑問が生じやすくなります。
また、オーナー個人とその資産管理法人・同族会社との間で不動産を売買する場合にも、売主と買主の利害が完全に対立しているとはいえないため、通常の第三者間売買よりも慎重な価格検討が必要になります。
このような場面で不動産鑑定評価書を取得しておけば、次のような効果が期待できます。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 時価の説明資料になる | 売買価格がどのような根拠で決まったかを説明しやすい |
| 税務調査時の備えになる | 調査時に価格の合理性を示す客観的資料になる |
| 親族間の納得材料になる | 相続人間・親族間で価格の公平性を説明しやすい |
| 法人個人間取引の根拠になる | オーナー個人と法人間の取引価格を説明しやすい |
| 契約価格を決めやすくなる | 感覚ではなく、資料に基づいて価格を設定できる |
つまり、不動産鑑定評価は、税務調査を完全に避けるためのものではなく、売買価格について合理的に説明できる状態を作るためのものです。
親族間売買や法人個人間売買では、「いくらで売るか」だけでなく、「なぜその価格で売るのか」を説明できることが重要です。
7 契約までのワンストップ支援
親族間売買や、オーナー個人と資産管理法人・同族会社との間の売買では、価格を決めるだけでは手続きは完了しません。
実際には、売買契約書の作成、重要事項説明、決済、登記、税務申告など、複数の手続きが必要になります。
あおぎり不動産鑑定では、不動産鑑定業に加えて宅地建物取引業も行っているため、不動産の価格調査・鑑定評価だけでなく、必要に応じて売買契約に関する実務支援まで対応することができます。
具体的には、次のような流れで支援することが可能です。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 価格調査・鑑定評価 | 対象不動産の時価・市場価値を把握する |
| 売買条件の整理 | 売買価格、引渡し時期、契約条件を整理する |
| 重要事項説明 | 宅建業者として必要な調査・説明を行う |
| 売買契約書作成支援 | 契約内容を整理し、契約締結を支援する |
| 専門家連携 | 税理士、司法書士等と連携する |
| 決済・引渡し支援 | 代金決済、登記手続きへの橋渡しを行う |
親族間売買では、「身内同士だから簡単に済ませたい」と考える方も少なくありません。
しかし、親族間だからこそ、後日、相続人間で価格の公平性が問題になったり、税務上の説明を求められたりすることがあります。
また、オーナー個人と法人の間の売買では、契約書や資金移動の記録、売買価格の根拠をきちんと残しておくことが重要です。
不動産鑑定評価と宅建業務を組み合わせることで、価格の検討から契約実務まで、一連の流れを整理しやすくなります。
8 取得費の証明と低廉譲渡は別の問題
最近、不動産売却に関連して、「取得費が分からない」「昔の売買契約書がない」というご相談も増えています。
土地や建物を売った場合の譲渡所得は、売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費が分からない場合には、売却代金の5%相当額を概算取得費とすることができる場合があります。
この取得費の問題と、低廉譲渡の問題は、関係はありますが、同じではありません。
取得費の問題は、主に「昔いくらで買ったか」「建物取得費や減価償却費をどう見るか」という問題です。
一方、低廉譲渡の問題は、主に「今回いくらで売るか」「その売却価額が時価として妥当か」という問題です。
| 論点 | 問題になる価格 |
|---|---|
| 取得費の証明 | 過去の購入価額・建築価額 |
| 低廉譲渡 | 今回の譲渡時点の時価 |
| 法人への低額譲渡 | 時価の2分の1未満かどうか |
| 個人への低額譲渡 | 譲渡損失の否認・贈与税の問題 |
したがって、取得費が分からない場合に鑑定評価を取ることと、低廉譲渡を避けるために鑑定評価を取ることは、目的が異なります。
前者は過去の取得価額の疎明、後者は現在の時価の説明です。
9 免責事項
本稿は、不動産の低廉譲渡、不動産鑑定評価、親族間売買、法人個人間売買、税務調査への備えについて、一般的な考え方を整理したものです。
本稿の内容は、特定の個人又は法人に対する税務上の助言、税額計算、申告判断、税務代理を目的とするものではありません。
実際の税務上の取扱いは、譲渡人・譲受人の属性、売買価格、時価、取得費、譲渡費用、親族関係、法人との関係、資金移動、契約内容、申告内容、その他の個別事情により異なります。
低廉譲渡、親族間売買、法人への不動産譲渡、資産管理法人への移転、取得費の疎明、譲渡所得税、贈与税、法人税、相続税等に関する具体的な判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
あおぎり不動産鑑定は、不動産鑑定士として不動産の価格に関する調査・評価を行うものであり、税理士業務に該当する税務代理、税務書類の作成、個別具体的な税務相談は行いません。
税務上の助言が必要となる場合には、提携税理士等の専門家をご紹介し、又は連携して対応することがあります。
また、宅地建物取引業に基づき売買契約等を支援する場合であっても、税務判断そのものは税理士等の専門家の判断を前提として行います。
10 まとめ
不動産の低廉譲渡では、譲渡先が個人か法人かによって税務上の取扱いが大きく異なります。
個人に対する著しい低額譲渡では、譲渡人側で直ちに時価譲渡課税が行われるわけではありませんが、譲渡対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合、その不足額は譲渡所得の計算上なかったものとみなされます。
一方、法人に対する低額譲渡では、時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合、実際の売買代金ではなく、時価を収入金額として譲渡所得が計算される可能性があります。
また、個人が著しく低い価額で財産を取得した場合には、譲受人側で贈与税の問題が生じることもあります。
このような取引では、「いくらで売買するか」だけでなく、「その価格を時価として合理的に説明できるか」が重要です。
不動産鑑定評価書や価格調査報告書は、税務調査を完全に回避するものではありませんが、価格の合理性を説明するための客観的資料として有効です。
親族間売買や、オーナー個人と資産管理法人・同族会社との間の売買では、当事者が自信を持って価格を説明できるようにしておくことが大切です。
あおぎり不動産鑑定では、不動産鑑定評価、価格調査、取得費の疎明資料の検討、親族間売買・法人個人間売買における時価確認、物件調査、法務局調査、役所調査、現地確認、写真撮影等に対応しています。
また、宅地建物取引業者として、必要に応じて売買契約までの実務支援にも対応しています。
税務判断が必要な場合には、税理士等の専門家と連携しながら進めることも可能です。
不動産の低廉譲渡や時価確認、親族間売買、資産管理法人への不動産移転でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
あおぎり不動産鑑定