――軽井沢の別荘価値を「自然公園法」から考える
先日、軽井沢町内の別荘について物件調査を行いました。
現地で庭に立ってみると、建物そのもの以上に印象に残ったのが、庭の先に広がる緑でした。
いわゆる「借景」です。
軽井沢の別荘では、建物のグレードや敷地面積だけでなく、「リビングや庭から何が見えるのか」ということが、その不動産の魅力を大きく左右します。
そこで調査を進めてみると、その庭先から望む山林の一部が、自然公園法に基づく自然公園区域に含まれていることが分かりました。
軽井沢の北部から西部にかけては上信越高原国立公園が広がっており、千ヶ滝別荘地、星野周辺、三井の森別荘地などを調査していると、別荘地の背後や庭先の延長上に自然公園区域が位置するケースを目にすることがあります。
これは、不動産を見るうえで意外に重要なポイントです。
なぜなら、自然公園区域に入っている土地では、将来の開発について通常の土地より強い制約を受ける場合があるからです。
そもそも「自然公園」とは何か
ここでいう自然公園は、都市公園のように国や自治体が所有する公園という意味ではありません。
国立公園や国定公園では、民有地を含めた広い区域について、その自然景観を保護するために自然公園法による規制がかけられています。
そして自然公園の区域は、自然環境をどの程度厳格に保護する必要があるかによって、
特別保護地区
第1種特別地域
第2種特別地域
第3種特別地域
普通地域
という地種区分に分けられています。
長野県も、自然公園内ではこの地種区分によって開発行為の規制内容や規模が異なると説明しています。
大まかにいえば、
特別保護地区 → 第1種 → 第2種 → 第3種 → 普通地域
の順に規制が緩やかになります。
特別保護地区――最も厳格に自然を守る区域
特別保護地区は、特別地域の中でも特に優れた自然景観や原始的な状態が残され、最も厳格な保護が必要とされる区域です。
長野県の説明でも、原則として学術研究や公益上必要な行為以外は認められない区域とされています。
したがって、
「建ぺい率10%なら建てられる」
といった種類の規制ではありません。
そもそも通常の住宅を新築することを前提とした区域ではないため、建ぺい率・容積率以前に、建築行為そのものが極めて限定的と考えた方が分かりやすいでしょう。
第1種特別地域――現在の景観を極力そのまま残す区域
第1種特別地域は、特別保護地区に準じる優れた景観を有し、特別地域の中では風致を維持する必要性が最も高い区域です。
環境省・長野県ともに、「現在の景観を極力保護することが必要な地域」と位置付けています。
こちらについても、通常の住宅について単純に
「建ぺい率○%、容積率○%」
と考える地域ではありません。
既存建物の建替えなど一定の例外はありますが、基本的には新たな開発を積極的に受け入れる地域ではないという理解が重要です。
つまり、特別保護地区や第1種特別地域が庭先の借景になっている場合、その景観が将来的に大規模な宅地や建物へ変わる可能性は、一般の土地と比べれば相当限定されると考えることができます。
第2種特別地域――建築可能でも、かなり厳しい
第2種特別地域になると、一定の建築行為は許可の対象として検討されます。
ただし、自然公園法施行規則による許可基準はかなり厳格です。
建物の種類や分譲地の成立時期などによって適用基準が異なるため一律には言えませんが、一般的な建築物では、第2種特別地域について代表的に次の基準があります。
| 敷地面積 | 総建築面積の割合 | 総延べ面積の割合 |
|---|---|---|
| 500㎡未満 | 10%以下 | 20%以下 |
| 500㎡以上1,000㎡未満 | 15%以下 | 30%以下 |
| 1,000㎡以上 | 20%以下 | 40%以下 |
いわゆる建ぺい率・容積率に近い考え方です。
さらに、高さ、道路からの後退、敷地境界からの後退、地形勾配などについても許可基準があります。例えば一定の建築物では高さ13m以下、道路や敷地境界から原則5m以上離すことなどが基準となっています。
特に新たに造成される分譲地等では、第2種特別地域について総建築面積20%以下、総延べ面積40%以下といった基準に加え、敷地1,000㎡以上、2階建て以下、高さ10m以下など、さらに別の基準が設けられています。
第3種特別地域――第2種より緩やかだが、自由ではない
第3種特別地域は、特別地域の中では風致維持の必要性が比較的低く、通常の農林業等については原則として許容することを想定した地域です。
しかし、住宅開発が自由というわけではありません。
建築物については、代表的な許可基準として、
総建築面積 20%以下
総延べ面積 60%以下
という基準があります。
第2種特別地域よりは利用可能性が高いものの、通常の宅地と比較すれば、自然景観を保つことが強く意識された土地利用規制となっています。
普通地域――「何も規制がない地域」ではない
名前だけを見ると誤解されやすいのが「普通地域」です。
普通地域は、特別地域に含まれない自然公園区域ですが、自然公園としての風景を保護する必要がある地域であることに変わりはありません。
自然公園法上、普通地域について一律の建ぺい率・容積率が定められているわけではありません。
ただし、例えば建築物であれば、
高さ13mを超えるもの
または延べ面積1,000㎡を超えるもの
などについて届出が必要となります。
土地の形状変更、広告物、土石の採取なども届出対象となる場合があります。
したがって、
普通地域=将来何でも建てられる土地
ではありません。
大規模な開発については自然公園法によるコントロールを受けますし、軽井沢の場合には、さらに町独自の自然保護対策要綱や都市計画、景観関係の規制が重なってきます。
軽井沢では、さらに「自然保護対策要綱」がある
ここが軽井沢の不動産を考える際に重要です。
軽井沢町では昭和47年から「軽井沢町の自然保護対策要綱」を設け、建ぺい率、容積率、建物の高さ、後退距離、最低敷地面積などについて、独自の基準を設けてきました。
町自身も、この要綱が軽井沢の自然環境や独特の別荘地空間を守るうえで重要な役割を果たしてきたと説明しています。
たとえば従来の「保養地域」では、代表的な基準として、
建ぺい率20%以下
容積率20%以下
という、一般の住宅地と比べてかなり低い密度の土地利用が求められてきました。
不動産を購入する側からすると、まず気になるのは、
「この土地にどれくらいの建物を建てられるのか」
という自分の敷地の規制でしょう。
そのため、建ぺい率や容積率には目が行っても、庭の先に見えている土地が何の区域なのかまで確認する人は、それほど多くないように思います。
しかし、不動産鑑定の視点では、そこも非常に重要です。
「自分の土地」ではなく「見えている土地」を調べる
別荘の価値を考えるとき、
「今、景色が良い」
だけでは十分ではありません。
重要なのは、
「その景色が将来も維持される可能性がどの程度あるのか」
です。
目の前が普通の山林であれば、将来所有者が変わり、伐採され、宅地造成や建築が行われる可能性があります。
今は静かな森でも、10年後には住宅や宿泊施設が建っているかもしれません。
一方、その山林が自然公園法上の第1種・第2種特別地域などであれば、建築や造成には相応の制約があります。
特に特別保護地区や第1種特別地域では、新規開発は極めて限定的です。
つまり、庭先の森が自然公園区域であるという事実は、所有者にとっては一見「規制」の話に見えますが、その土地を借景として利用する隣接不動産から見ると、むしろ景観を長期的に守ってくれる仕組みと見ることもできます。
軽井沢では「借景の永続性」も不動産価値の一部
軽井沢の別荘で価値をつくっているのは、土地と建物だけではありません。
窓から見える木立。
庭から続いているように感じられる森。
建物同士の距離。
夜の暗さ。
静けさ。
こうしたものが組み合わさって、「軽井沢らしい環境」が形成されています。
したがって別荘の評価では、
眺望が良いか
だけではなく、
その眺望が失われるリスクがどの程度あるのか
という視点も重要になります。
自然公園法は、所有者にとっては土地利用を制限する法律です。
しかし、その隣にある別荘から見れば、目の前の自然が急激に開発されるリスクを抑えてくれる法律でもあります。
この「規制の裏側にある価値」は、不動産を数字だけで見ているとなかなか気付きにくい部分です。
今回の物件調査でも、庭の向こうに広がっていた森が自然公園区域であることを知ったことで、単に「緑が多くて雰囲気が良い別荘」という見方から、
「この景観が将来も比較的維持されやすい別荘」
という一段違った見方ができるようになりました。
これは軽井沢の別荘を評価するうえで、決して小さくないポイントだと思います。
自然公園区域は「信州くらしのマップ」で確認できる
こうした自然公園の区域は、専門家でなくても比較的簡単に確認できます。
長野県が公開している**「信州くらしのマップ」**では、自然公園に関するレイヤーを表示することで、特別保護地区、第1種・第2種・第3種特別地域、普通地域などの位置を地図上で確認できます。長野県自身も、行為予定地が自然公園内かどうかを確認する際に同マップを利用するよう案内しています。
今回掲載した図も、この「信州くらしのマップ」で軽井沢周辺を表示したものです。
ただし、長野県は同マップ上の公園区域データについてあくまで目安としており、境界付近の土地については所管する地域振興局に確認するよう案内しています。売買や鑑定評価、建築計画などで正確な判定が必要な場合は、GISだけで最終判断しないことが重要です。

不動産鑑定士として見る「規制」と「価値」
法令上の規制は、一般には不動産価値を下げる要因として捉えられがちです。
確かに、自分の所有地が厳しい規制区域に入っていれば、建物の規模や土地利用の自由度が低下するため、市場性にマイナスとなる場合があります。
しかし、不動産の価値はそれほど単純ではありません。
自分の土地にかかる規制はマイナスでも、隣地や前面の山林にかかる規制は、自分の眺望や住環境を守るプラス要因になることがある。
これが、別荘地の評価のおもしろいところです。
特に軽井沢では、土地を何平方メートル所有しているかだけでなく、
「その土地から、どのような環境を享受できるのか」
が価値に大きく影響します。
庭の先の森が自然公園である。
その事実は、一見地味な法令調査の結果ですが、見方を変えれば、
「この別荘が今後も静かな森を借景として使い続けられる可能性」
を示す重要な情報なのかもしれません。
私は、こうしたところにも不動産鑑定士が現地を歩き、地図と法令を照合する意味があると考えています。
あおぎり不動産鑑定