任意座標系の法務局地図 XML を、地理院標準地図に重ねるまでの備忘録
山林・農地・郊外の鑑定案件では、「地番は分かっているのに、QGIS の地番図に出てこない」ということがあ
る。今回、長野県諏訪郡原村の一筆を題材に、法務局地図 XML の任意座標系データを QGIS へ読み込み、周辺を
切り出し、ジオリファレンサで標準地図に重ねるところまで試した。途中で何度も「真っ白」「どこに飛んだ?」
「残差 0 なら成功?」に悩んだので、次回同じ状況になったときのために、手順と判断ポイントをコラム風に残し
ておく。
先に結論
G 空間センター等の変換済みデータに対象地が見えなくても、元 XML には入っていることがある。田舎の地番図では「任意座標系」が原因で、そのままでは地理院地図と重ならない。QGIS 本体には実位置の標準地図を表示し、任意座標の地番図はジオリファレンサ側で GCP を与えて実座標へ変換する。
1 今回のケース:地番はあるのに、地図に出ない
今回の対象は原村 17217-992。元 XML を調べると、地図名は「ZK2hara18A01」、座標系は「任意座標系」だっ
た。つまり、図形そのものは存在しているが、緯度経度や平面直角座標の世界にはまだ載っていない。
現地では境界鋲を確認し、関係者への聴取でも対象範囲を確認した。左下の池を含み、南側は水路までが対象地で
あることが分かっている。この現地確認は、後で QGIS の重ね合わせ結果を検証する際の重要な基準になった。

2 最初の難所:「真っ白」になる理由
何度も引っかかったのが、任意座標の GeoPackage へズームした瞬間に画面が真っ白になる現象だった。結論か
ら言えば、これは QGIS が壊れたのではない。任意座標の図面にズームした結果、地理院地図が存在する実世界の
表示範囲から大きく外れているだけである。
覚えておくこと
QGIS 本体=実位置の地理院標準地図を表示する場所。
ジオリファレンサ=任意座標の地番図を表示し、GCP を打つ場所。
この役割分担を崩さないと迷いにくい。
元 XML からは「対象地だけ」ではなく、周辺を広めに切り出す
対象筆だけを切り出すと、位置合わせに使える道路の分岐・屈折点が足りない。そこで、道路、水路、池、周辺筆
を含めて広い範囲を選択し、GeoPackage として保存した。今回は「xxxx広域.gpkg」という名前で作業し
た。
対象筆の周囲に、道路の T 字・Y 字分岐や明確な屈折が残る程度まで広く取る。
水路や池など、現在図でも位置を追いやすい地物を含める。
選択地物だけを別 GeoPackage に保存しておくと、40,000 件超の元データを毎回扱わずに済む。
3 ジオリファレンスは「同じ場所」を地道に結ぶ作業
地理院標準地図で対象地周辺の実位置を表示したら、ジオリファレンサで広域 GeoPackage を開く。旧地番図上
の特徴点をクリックし、「地図キャンバスから」を選び、QGIS 本体の標準地図で同じ地点をクリックする。この
対応点が GCP(Ground Control Point)である。
1 ジオリファレンサで旧地番図の道路分岐・屈折・水路交
点をクリック。
2 「地図座標の入力」で[地図キャンバスから]を押す。
3 QGIS 本体の標準地図で、同じ場所をクリック。
4 これを 3~5 点程度繰り返し、点をなるべく広く分散させ
る。

図 2 ジオリファレンサの GCP テーブル。残差の大きい点を外し、対応地点を見直しながら調整した。
GCP に向く点・向かない点
向く:道路の T 字・Y 字分岐、明確な屈折点、道路と水路の交点など。
向く:旧図と現在図の双方で、「ここ以外あり得ない」と判断しやすい点。
避ける:道路の途中など、位置を数 m 動かしても違和感が出にくい点。
避ける:現況図で対応が分からない筆界角。
避ける:「ここに来てほしい」という結論から逆算して置く点。
4 残差 0 は「高精度」の意味ではない
最初は GCP を 2 点入れて、残差が 0 になった。ここで一度「成功か」と思ったが、ヘルマート変換は 2 点ならそ
の 2 点に数学的に合わせやすい。2 点だけの残差 0 は、第三の場所でも合っていることを保証しない。
そこで GCP を増やし、1 点ずつ ON/OFF しながら平均誤差を見た。ある点を外すと平均誤差が大きく下がる場
合、その GCP は別の道路分岐を誤って対応させている可能性が高い。今回も、残差が 100px を超える点を外すこ
とで、3 点では平均誤差が約 8.6px まで改善した。
残差の読み方(実務メモ)
「数字が小さいほど絶対に正しい」ではない。点数、点の分布、旧図自体の歪み、標準地図の一般化を一緒に見る。
特に、1 点だけ突出して残差が大きい場合は、その点の対応ミスをまず疑う。
5 まずヘルマート、必要なら「多項式 1(アフィン)」
ヘルマート:形を極力崩さず、位置・回転・倍率を合わせる
最初はヘルマート変換を使った。任意座標の図面を移動・回転・一様倍率で実位置へ持ってくるため、図形をむや
みに歪ませにくい。まず概略位置を合わせる方法として扱いやすかった。変換先は EPSG:6676(JGD2011 /
Japan Plane Rectangular CS VIII)を使用した。
多項式 1:QGIS 上の一般的なアフィン変換
北側・東側は合うのに、南側・西側だけ少し足りないような場合は、縦横の縮尺差やせん断が残っている可能性が
ある。そのときは変換タイプの「多項式 1」を試す。今回の QGIS では「Affine」という名前ではなく「多項式 1」
と表示されていた。
ここは特に注意:二重変換しない
ヘルマート変換後の「modified.gpkg」をさらに多項式 1 で変換すると、変換済み座標へ再変換を掛けることにな
る。比較用のアフィン版は、必ず元の「17217-992 広域.gpkg」から作り、別名(例:17217-992 広域_affine.gpkg)
で保存する。
6 最後の判定は、現地確認と地物の整合
変換後レイヤを標準地図に重ねたら、赤線と灰色道路線が 1 本の線になることを目標にしない。標準地図の道路は
記号化・一般化されており、法務局地図の道路敷境界とは意味が違うからだ。見るべきは、道路の分岐・屈折、水
路、池、接道関係などの全体的な整合である。
今回の案件では、現地で境界鋲を確認し、聴取によって「左下の池を含み、南側は水路まで」が対象地であること
を確認済みだった。したがって QGIS の重ね合わせは、その現地確認結果を可視化・補助する資料として扱うのが
妥当である。
図 3 対象地 17217-992 を太い赤線で強調し、周辺筆界と標準地図を残して位置関係を確認。
7 仕上げ:対象筆だけを「目立たせる」
最終図では、17217-992 だけを単独表示して周囲を消すのではなく、周辺筆界・道路・池・水路を残したまま、対
象筆だけを強調する方が分かりやすい。QGIS のシンボロジを「ルールによる定義」にして、対象筆と対象外で線
の太さ・色を変える。
1. レイヤプロパティ →[シンボロジ]→[ルールによる定義]。
2. 対象筆のルール:「地番」 = ‘17217-992’。塗りつぶしなし、赤線、1.0~1.5mm 程度。
3. 対象外のルール:「地番」 <> ‘17217-992’。塗りつぶしなし、薄いグレー、0.2mm 程度。
4. ラベルは「地番」を表示。必要なら CASE 式で 17217-992 だけに絞る。
色が変えられないとき
ルール一覧の文字ではなく、左側の色付き四角をダブルクリックする。シンボル編集で「シンプル塗りつぶし」を選
び、下へスクロールするとストローク色・ストローク幅を変更できる。グラデーション塗りつぶしが残っている場合
は削除する。

次回チェックリスト
□ Shape 等にないだけで諦めず、元 XML の属性検索で地番
を探したか。
□ 座標系が「任意座標系」かどうか確認したか。
□ 対象筆だけでなく、GCP に使える道路・水路を含めて広
く切り出したか。
□ QGIS 本体は実位置、ジオリファレンサは任意座標、とい
う役割を守っているか。
□ GCP は 2 点で終わらせず、3~5 点程度で検証したか。
□ 突出して残差の大きい GCP を疑ったか。
□ アフィンを試すとき、変換済みレイヤではなく元データ
から作り直したか。
□ 最後は現地確認・境界鋲・聴取結果との整合で判断したか。
おわりに
田舎の任意座標地番図は、最初から自動で標準地図に重なるものではない。今回の作業で一番大切だったのは、
QGIS の操作そのものよりも、「任意座標の図面」と「実位置の地図」を別物として扱い、確実な共通点を少しず
つ結ぶことだった。
そして、QGIS 上で数 m 単位の見た目を追い込み過ぎるより、現地で確認できた境界鋲や道路・水路との関係を優
先する。鑑定評価の対象不動産確認図として使うなら、境界確定測量の代替ではなく、現地確認を整理・説明する
ための補助図として位置づけるのがよい。公図が古い場合、対象地が大きすぎて公図に収まらない場合、田畑等で道路に接道しておらず、住宅地図に記載がない場合にはぜひ試してみたい手段である。
補足:現地での“保険”
QField for QGIS やスマートフォン GPS で、境界鋲・四隅付近の位置を記録しておくと再調整時の手掛かりになる。
ただしスマートフォン GPS は測量精度ではないため、境界確定ではなく位置確認用として扱う。
あおぎり不動産鑑定